第12話 銀騎詮充郎の呪い
「私は息子の命を弄んでなどいない。あの子は私を救ってくれたのだ。あの子がいたから今の私がある。感謝こそすれ、弄ぶなど──」
他人のために怒った
「お祖父様……」
「そ、そもそも、リンの魂を抜く術も、私が
愛していたはずの息子に対する憎しみをも白日の下に晒す。
「私は紘太郎がいなければ何も為せなかった。ああ、屈辱だとも、我が子に教えを乞うて陰陽術のいろはを習うのは! 幼子が習う術も私は出来なかったのだから!」
「それは違います、お祖父様!」
「こ、うや?」
漸く孫の声が届いた。
「リンに使ったのは、父が密かに研究していた反魂の術です」
「な、んだと?」
皓矢はその事実を出来れば語りたくなかった。それを知ってしまえば祖父は自我を保てないような気がして。
けれど、知らなければ祖父はもう前に進めないかもしれない。皓矢は亡き父との禁を破る決意を固めた。
「その術は元々お祖父様が亡くなられた時、父の身体を使ってお祖父様が黄泉返る為に開発されました」
「な──」
「父は、お祖父様こそ
「何故、そんなことを……」
詮充郎は空虚たる眼を剥き出しにする。心底わからないと言った顔に向かって皓矢は懇願するように叫んだ。
「わかりませんか? 家族だからです、親だからです! 父はただ貴方の役に立ちたかっただけなんです。そう、僕にだけ残してくれた日記にしたためてありました」
「紘太郎が──まさか、そんな……」
「だからお祖父様、事の是非はともかく、父の真心だけは疑わないでください!」
孫を通して語られた息子の心。亡き息子の姿を探すように詮充郎は宙を虚ろな目で見つめる。
「紘太郎……、紘太郎……ひろ──たろおォォォ」
乾いた瞳から、とうに枯れたはずの涙が滴る。皺だらけの掌にはたはたと落ちる雫。詮充郎は息子を悼んで泣いた。
慟哭だった。愛しい者はもういない。
何が欲しかったのだろう。哭くほどに何が欲しかったのだろう。それを示してくれる者はもう、いない。
広い部屋に愛を泣き叫ぶ声だけが響いて、あまりの凄まじさに誰も動けなかった。はずだった。
「──もういらないわ、あなた」
突然その場の誰でもない声が響いた。
それが誰かを認識できぬまま、詮充郎の体を細く長い針が貫いた。
「うっ──」
涙に濡れたまま、詮充郎はその動きを止め倒れた。
「お祖父様!?」
星弥が詮充郎に駆け寄ると同時に、皓矢がいち早く青い鳥をその声の主へと飛ばす。
「佐藤!!」
それをひらりと交わした後、佐藤は白衣を翻して眼鏡を外した。
「残念、仕留めそこねたかしら。老人の泣く姿なんて見ていられないわよ。もう結構」
「貴様──ッ!」
怒りのままに佐藤に攻撃しようとした皓矢だったが、泣き叫ぶ星弥の声で意識を改め、詮充郎に刺さったままの針を先に破壊する。
「お祖父様! お祖父様!」
「星弥、机の電話で本家から救護を呼びなさい!」
「う、うん!」
佐藤は詮充郎の命を第一に考える兄妹の行動を嘲笑い、纏めていた髪を振り解いて愉快そうに言う。
「金色の鵺、思った以上の収穫よ。これは楽しみになったわね」
「貴様、何者だ!」
皓矢の怒鳴るような問いにも余裕を見せながら佐藤はまた笑う。
「さあ、どうかしら? まだ知らない方がいいんじゃない?」
「ふざけるな!」
皓矢は凄まじいエネルギーを佐藤に飛ばした。電撃だと見てわかるような攻撃だったが、軽々と片手で弾かれた。
「副所長、わたくし佐藤
言いながら佐藤はおもむろに白衣のポケットから、詮充郎が持っていた石飾りを取り出して見せた。
「それは──」
「退職金代わりに頂戴いたしますわね、ウフフ!」
高らかな笑いを残して、佐藤はその場から陽炎のように消えた。
「待て──くそっ!」
皓矢は悔しがって床を拳で叩いた後、詮充郎の手当のために体を翻す。
その場で皓矢による延命治療が始められた。
数分の後、
その様子を、