第1話 鵺のDNA
「リン、僕らに話してないことがまだあったんだね」
とりあえず
「申し訳ありません……」
「妹って、どういうことだ?」
俯いて謝る鈴心に、
その雰囲気は少し、恐ろしい。
「その前に、何故、黙っていたんだ?」
その剣幕に、鈴心は躊躇いながら答える。
「ハル様には言うべきだと思っていたんですが、常に星弥が側にいたのでお話する機会がありませんでした……」
「ふうん? 弁解の言葉としては弱いね」
永の言葉は驚くほど冷たい。
その雰囲気に飲まれた鈴心は、何も言うことができずに俯いて黙ってしまった。
「おい、永。鈴心に怒ってる場合じゃねえだろ」
蕾生が取りなしても永は静かな怒りを隠さずに、鈴心に言い聞かせた。
「それはわかってる。けど、リン、お前はいつもそうだ。何か大事なことを抱えて、一人で苦しんでる。おれがそれに気づいていないとでも思った?」
「……」
黙ったままの鈴心の肩を優しく掴んで、今度は目線を合わせながら永は穏やかに言った。
「いつか話してくれる、ってずっと待ってるんだよ? 言っただろ? お前の分もおれが考える──おれが全部守るって」
「ハル様……」
その声は震えていた。潤む瞳で永を見つめる様は、いつもよりも年齢相応に見えた。
「よし。じゃあ、話を聞こうか」
「はい。実は日曜日に家に帰った後、星弥と少しだけ会話したんですが──」
永がにっこり笑って促すと、鈴心は少し辿々しくも三日前の状況を話し始めた。
◇ ◇ ◇
「すずちゃん、おかえり」
「ただいま戻りました」
鈴心が永達と別れて帰宅すると、
「あの……
おずおずと聞くので、鈴心は穏やかに言ってやる。
「お怒りは少し収まっているはずです。貴女の好きにしていいとおっしゃっていました」
「え、と、
「ライですか? ライは別に……怒ってないと思いますけど」
蕾生のことまで気にするとは、永に責められたのがよほど堪えていると鈴心は思った。
「そう。でも明日もう一回謝るね」
「それがいいと思います。できれば貴女にはもう少し協力して欲しいので。中立の立場で構いませんから」
星弥が永を怒らせたままなのは鈴心にとっても辛い。それに星弥はあの蕾生の
それをどうやって永と蕾生に伝えようかと鈴心が思案していると、星弥はその場で少しふらついた。
「う、ん……」
「星弥?」
「あ、れ? ごめんね、なんか、ふわふわする……」
微かな声でそう言った後、星弥は突然昏倒した。
「星弥! 星弥!」
鈴心が大声で叫んでも、その意識が回復することはなかった。
◇ ◇ ◇
「突然意識を失って、今も目覚めないんです」
鈴心の説明を聞いて蕾生は驚くしかなかった。あの晩にそんなことが起こっていたなんて、想像もしていなかった。
「原因は? わかってるのか?」
永の方は冷静で、腕組みをしながら真剣な表情で鈴心に続きを促す。
「すぐにお兄様を呼んで診てもらいました。その見立てでは、キクレー因子が暴走しているようだ、と」
「──ハ?」
永は意外そうに驚いて声を漏らす。蕾生にはその意味もよくわからなかった。
「なんでキクレー因子が出てくるんだ? あれはツチノコが持ってるDNAなんだろ?」
永の問いに、鈴心は首を振って説明する。
「いえ、そもそもキクレー因子は鵺が保有しているDNAです。
「嘘だろ……」
唐突な真実に永は二の句が告げなかった。つまり、詮充郎は鵺由来であることを隠してキクレー因子を世界に発表したことになる。永がそれまで信じてきた知識の根幹が崩れてしまったのだ。
「こんな重大なことを報告しなかったお叱りは後で幾らでも。ですが、まずは話を聞いてください」
「……わかった。で? 鵺のDNAが何故彼女に?」
なんとか心の折り合いをつけて、永は続きを急かす。
すると鈴心が意を決して新たな事実を語った。
「星弥と私は