3 カエルがランラン
金髪碧眼で一見するとホストのようなチャラい見た目の超絶イケメンに助けられたミチル。
結局号泣の果てに前後不覚になり、彼が経営しているという酒場の二階に運び込まれた。
「はい、ミルクどうぞ」
「ば、ばびがどう……ぼざぶずぶず……」
鼻水に溺れ、何を言っているかわからないミチルに金髪イケメンは困ったように笑う。
それでミチルはまた情けなくなった。
「ばびぶぅ……」
「ハハッ、おもしろいねえ君。名前は何て言うの?」
「あ、すみません。ボク、坂之下ミチルです」
「サカノシタ……?」
「じゃなくて、ミチル・サカノシタです!ミチルが名前です」
「ああ、オッケーオッケー、ミチルね」
横文字風の名乗りが必要だったことから、ミチルはここもまだジェイの世界かも知れないと思い至る。
それで思い切ってミチルは金髪イケメンに尋ねてみた。
「あの、ここは、あれですか?カエルがランランみたいな……」
「カエルラ=プルーマ?」
「そう!それです!」
「もちろん」
やった、ビンゴだ!
また別の異世界に飛ばされたのかと思ってヒヤヒヤしたぜ!
ミチルは少し安心して更に尋ねた。
「じゃあ、ここはどこですか?」
「ルブルムだよ」
「ルブルム?」
知らない単語にミチルは一気に不安になった。
「てか、君はどこから来たの?」
正確には地球という異世界です、と言うのはまだ時期尚早な気がしたミチルはとりあえずジェイと過ごした国を言おうと思った。
だが。
はて、なんて名前だったっけ……
「えーっと、そのカエルラ……みたいな名前の国だったような?」
「カエルレウム?」
「あ、そうそう!そんな名前だった、確か!」
思い出してスッキリしたミチルとは逆に、金髪イケメンは怪訝な顔をした後鼻で笑って言った。
「冗談きついよ。ここからカエルレウムは海を越えた別の大陸だよ。船で一ヶ月以上かかる。しかも船に乗れるのは富裕層か豪商人くらい。君はどっちにも見えないけど?」
「え──……」
まじでえええ!
そんな遠い所に転移させられたってか!
いや、地球からに比べれば今回は近距離ってこと!?
ミチルは絶句して次の言葉を見失う。
金髪イケメンは少し哀れむような目をして優しく問いかけた。
「あれでしょ?貧乏を苦にして隣町から家出でもしてきたんでしょ?良かったら相談に乗るから」
優しい!でも違う!
ミチルはどう言えば信じてもらえるのか考えた。
だがいい考えなど浮かばない。そんな小細工をした所で後が大変だ。
なら、もう、素直にぶちまけろ!
「ええと、その、本当に信じられない話だとは思うんですけど──」
ミチルは覚悟を決めて話し始めた。
くしゃみをしたら地球からこの世界に飛ばされたこと。
最初はカエルレウムという国にいたこと。
ジェイという騎士に助けられたけれど、またくしゃみをしたらここにいたこと。
ミチルは説明している間、金髪イケメンの顔が見れなかった。どんな顔をされるか怖かったからだ。
ジェイは運良く信じてくれたけれど、あれはぽんこつだから。
この世間慣れしていそうなオニイサンはどう思うのか?
「……」
恐る恐るミチルが顔を上げると、金髪イケメンは口をポカンと開けて固まっていた。
「ええー……?」
そして戸惑って頭を掻いている。宥め行動だ。
「ちょっと……にわかには信じられないんだけど……」
デスヨネ。ボクモソウオモイマス。
「でも、君、ミチルだっけ。変な服着てるよね、初めて見るよ」
ああ、この着古したパーカーのことか。
そう言えばジェイには突っ込まれたことがなかったなあ、やっぱあいつぽんこつだなあ。
「んん……そうだねえ、君、若いのに血色いいしね。この辺の子どもはもっとガリガリなんだよね」
「あの、ボク、18ですけど」
「えええ!18にもなってそんな感じなの!?──なら、その話ホントかも?」
おい、なんか失礼なこと言われたぞ。
「あーそう。そうかー、うん、わかった。とりあえずもうちょっと詳しく聞いても?」
「はい、もちろん」
ちょっと信じてくれたっぽい?腑に落ちないけど。
「その前に、お兄さんのお名前は?」
「あ、そっか。ゴメンゴメン!」
金髪イケメンは輝く笑顔で答えた。
「アニー・ククルス、26歳」