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第14話 星弥の「協力」

「──ふえぇ」
 
 まるで講談でも聞いた後のような気の抜けた息を星弥(せいや)は漏らした。
 大仰な言い回しではあったけれど、永がした話は先日蕾生(らいお)に語ったものと大差なかった。
 蕾生にとっての新事実は今の所ない。
 
「信じて欲しいところではあるけど、信じられないだろうねえ」
 
 何故か得意気に(はるか)は言う。少しでも劣勢を覆したい気持ちが溢れてしまっている。
 
「大丈夫か?」
 
 背もたれに沈んだ星弥を見て蕾生が声をかけると、星弥はお茶を一口飲んだ後あまりまとまらない頭で答える。
 
「あ、うん。ちょっと、なんか壮大っていうか、ものすごくファンタジーっていうか、すごく大変そうっていうのはわかったかも……」
 
「俺も聞いた時は似たようなもんだった」
 
 フォローをすっかり蕾生に任せた永は勿体ぶった口調のまま、あくまで上から目線の姿勢を崩さずに言った。
 
「これ以上のことは君の返事次第かな。まだライくんに話してないこともたくさんあるし」
 
 すると星弥は真剣な眼差しで永を見据えた後、息をすっと吸ってはっきりと言う。
 
「わたしは──すずちゃんは貴方達とちゃんと話をするべきだと思う。その為の協力はします」
 
 さすがに銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)に即突き出すような事はしないとは思っていたが、はっきりと協力すると口にした星弥の態度に蕾生は驚いた。
 永も同様で、目をまるくして聞き返す。
 
「マジで?」
 
 大きく頷いて、星弥は彼女なりに考えた己の立ち回り方を宣言した。
 
「それから、貴方達がお祖父様の敵にならない道を考える」
 
「はぁ?──悪いけどそんな道は」
 
「当事者の貴方達には見つからないかもしれない。だからわたしが探してみる」
 
 説得力のある、「模範的」な答えだった。それを星弥は天然ではなく、意識的にそうあろうとしている節がある。それを永は読み違えたのだ。
 
「本当に、苦手だなあ、君」
 
 永にとっては制御のきかない味方──とも言えない、第三の勢力が現れたような気分だった。
 
「永、あきらめろ。こいつ、見た目に反して結構ぶっ飛んでる」
 
 蕾生の表現は的確だった。なんとなく肌でとんでもない相手だとわかったのだ。
 
「さすが、孫……」
 
 永はがっくりと肩を落とす。星弥を上手く取り込んで意のままに操る──という最高の結果ではなかったからだ。それでもこの辺が落とし所だとわかっているので余計に悔しい。
 
「えへへ、褒められた」
 
「褒めてない」
 
「ウソ!」
 
 少し照れる星弥に蕾生が冷静に言えば、星弥はそれが心外かのように驚いていた。あいつのお守りはライに任せよう、と永は隠れて決める。

  
「わかった、それでいい。僕らだって銀騎と争わずにすむならそっちの方がいい」
 
 そんなことは不可能だけどね、という言葉を辛うじて永は飲み込んだ。
 
「よし、じゃあ、まずはもう一度すずちゃんに会ってもらえるようにしないとね」
 
 話はまとまったと言わんばかりに、星弥は手を打って今後のことを話し始める。
 
「手はあるのか?」
 
 蕾生が聞くと、星弥はうーんと大袈裟に考える仕草をした後あっけらかんと言ってのけた。
 
「具体的にはないけど、二人は毎週末うちに遊びにくればいいよ」
 
「え、いいの?」
 
「もちろん。わたしがお友達を呼ぶのは勝手でしょ?すずちゃんだってそれは止められない。後は時間をかけてゆっくり……ね?」
 
 永と星弥が膝を突き合わせて相談していると、まるで悪巧みのようだと蕾生は思った。
 
「あんまりかける時間はないかもしれないけど……、今はその作戦にのるしかない、か」
 
「決まりだね」
 
 なんだか終始星弥のペースだったような気がする。だが鈴心が心を開かない現状、星弥の言う通りに動くしかないことは永も蕾生もわかっていた。
 
 また来週、今度はどんな手で鈴心(すずね)に会おうかその場では結論が出ないまま散会となった。

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