バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

1 時空を超えた!?

 あまりに眩しい光だったので、視覚が回復するまでに数分かかった。
 チカチカする目をなんとか開けて、ミチルは目の前の景色に絶句した。
 
「──は?」
 
 青い空、白い雲。爽やかに照りつける太陽──はさっきまで見ていたものと同じ気がする。
 どこまでも広がる草原──いやいや、駅ビルどこ行った!
 足元は舗装もされていない土の道──コンクリートはがれちゃったの?
 そして道行く人は誰もいない。

「どういうこと?」

 駅前の人達が駅ごと滅んだのか?
 いや、のどかな空の感じを見るとそういう事ではない気がする。
 ということは逆だ。
 自分が、別の場所にやって来てしまったのだ。

「なんで?」

 ミチルは今の自分の何もかもがわからなかった。5W1Hの全てだ。
 
 もう一度周りの景色をぐるりと見回して見る。
 遠くに丘のような場所が見えた。街並みかもしれない。その奥に建っているのは──
 
「お城?」
 
 ミチルの目に見えたのは外国の、おとぎ話に出てくるような、それこそテーマパークにあるような、典型的な城だった。
 
 その光景を認めたミチルは、完全に自分の頭がバグったと思った。
 
「え、夢?いやでも、リアル過ぎない?」
 
 都会の街では吸うことのできない、爽やかな空気。
 地面を触れば手が汚れる。
 目に見えるものの質感は本物だ。
 
「タイムスリップ?」
 
 いや、もしかしたらただの世界遺産がある街の可能性もある。
 
「瞬間移動?」
 
 どちらにしても、超自然的なことが我が身に起きたのは明白で、ミチルは頭を抱えた。
 
「ああああ!誰か教えてくれぇ!」
 
 広い草原の真ん中でミチルは叫ぶ。すると何かの気配がした。人かも知れないと、そちらを振り返ってミチルは後悔した。
 
「グルルル……」
 
 黒い狼のような獣が、すぐ側まで迫っている。よだれをたらして唸る様は、ミチルのような世間知らずのこどもでも空腹なのだと理解できた。
 
「!」
 
 ミチルは一目散に逃げたくなるのをぐっとこらえた。
 猛獣に遭遇したら背中を見せてはいけないと聞いたことがある。冷静に目を合わせたまま、ゆっくりと後ずさる。
 
「……」
 
 それでも恐怖で足が震えてしまっているミチルは、両足がもつれ、転んでしまった。
 
「ヒィッ!」
 
 それを好機ととらえた獣はミチルめがけて飛びかかろうとした。

 
 嘘だろ!?
 まだ美容院に行ってない!
 バイトの面接にも行ってない!
 同じカフェで働くあの子に告白もしてない!

 なのに、自分の人生はこれでジ・エンドなのか……。
 どこがラヴィアンローズなんだ……。

 
 ミチルが短い人生を悔いた瞬間、人の怒鳴る声が聞こえた。

「伏せろ!」
 
 とっさにミチルは地面に顔を埋めんばかりに伏せた。

 ザン、と何かを斬るような音がしたと思った次の瞬間。
「ギャアア!」
 獣の断末魔の叫びが聞こえた。

 ミチルが急いで体を起こし、獣の方向を見る。
 だが、その姿はすでになかった。
 
「消えた……?」
 
 不思議に思っていると、ミチルの体を大きな影が覆う。
 
「怪我はないか」
 
「──へ?」
 
 人の声のした方を見上げたミチルの目には、鎧を身に付けた若い男性が立っていた。

しおり