朝の日々
彼曰く、別の世界からやってきた賢者らしい。
日暮幸夜(ひぐらしこうや)の経営する魔法雑貨屋シストピアに勝手に住み着き始めた自称異世界人は、開口一番にそう言った。
魔法雑貨などくだらないと吐き捨てるものが多いこの世の中で、自称異世界人ーー天聖(てんせい)は素晴らしいと褒めたたえつつ、幸夜を飼い慣らし勝手に住み始めてしまった。
「おい、起きろ自称異世界人」
「なんだいコウヤは不機嫌なのかな?」
「お前のせいでな」
雑貨屋の二階にある居住スペースに居座って居る天聖をソファから叩き落として、カーテンを開ける。
朝は陽の光を浴びなければ人間として機能しないというのは、幸夜の持論である。
「魔法雑貨に陽の光は毒だよ、コウヤ」
「魔法雑貨にはな! お前には栄養だ!」
「……僕も魔法雑貨……」
「そうか、お前は自称異世界人ではなくて、自称魔法雑貨になるのか」
陽の光を避けるようにソファに顔を埋めた天聖を睨みつけながら、茶色のエプロンを身に付ける。
「コウヤ、今日はもう開店かい?」
「魔法雑貨を求める人はいつ来るか分からないからな」
「そうか、なら僕も行くよ」
天聖はゆっくり立ち上がり、自身の身体に触れる。
すると、コウヤとは反対になるように明るい色の服を着た男前が現れた。
「……天聖、お前一生そのままでいろよ」
「んー、ならコウヤもその暗い色の服装を辞めることだね」
「よし分かった、好きにしろ」
「うん。コウヤならそう言うと思った」
天聖と共に一階へと降り、ドアの前のプレートをオープンに変える。
「よし、今日も一日よろしくな、相棒」
「こちらこそ、コウヤ」
拳を合わせて、カランと来訪者を告げるドアの鈴の音を聞いた。