大家さんの成長。
三つの魔攻の同時発動には悉く失敗した大家さんだったが。
「あ、スキル。上がった。」
確かに上がってもおかしくないな。同時でなかっただけで発動自体はしっかりしていたんだから。それにその失敗からの四苦八苦も負荷と認められてそうだし。レベルや器礎魔力的な見地で見れば進化ゴブリンは確実に格上だったし。しかも複数同時に相手取ったんだから、上がらない方がおかしい。
それに加えて【魔力練生】の『スキルの取得や成長に影響する』って部分が関わってるはずだ。
大家さん的には不本意だろうけどともかく、狙い通りにスキルを成長させる事が出来て良かった。
それにまだたったの五体とはいえ、格上を倒したのだから、勿論のことジョブレベルも相当に上がったはずで…実際に大家さんのステータスを【大解析】で覗いて見ればこうなっていた。
=========ステータス=========
名前
ジョブ 座敷女将LV1→8
MP 4685/4777→5577
《基礎魔力》
攻(B)35→77
防(B)35→77
知(SS)50→113
精(M)60→130
速(A)40→89
技(A)40→89
運 99
《スキル》
【MPシールドLV4】【MP変換LVー】【暗算LV6】【機械操作LV6】【語学力LV6】【鑑定LV7】
【斬撃魔攻LV4→5】【刺突魔攻LV4】【打撃魔攻LV4→5】【衝撃魔攻LV4→5】
【加速LV8】【身体強化LV9】【クリティカルダメージ増加LV1】new!
【魔力練生LV7】【運属性魔法LV1→2】
《称号》
『魔王の器』『運命の子』『武芸者』『神知者』『凶気の沙汰』『座敷御子の加護』
《装備》
『今は無銘の小太刀』
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レベルが一気に8にまで上がっている。やはりレベルアップ出来る人は違うな。器礎魔力値が全体的に上昇するから、成長がスムーズに感じる。
そして基本魔攻についてだが、使ってない【刺突魔攻】以外、全部上がっていた。今後はなるべく刺突も使うようアドバイスしておく。
さらに格上相手に全ての攻撃をクリティカルにした奇跡が反映したのか、【クリティカルダメージ増加】のスキルが新しく生えていた。
これはゲームではお馴染みのスキルだが、今の世界だとかなり珍しいスキルとして認識されている。
【クリティカルダメージ増加…クリティカル発生率には影響しないが、クリティカルが発生した際、敵に与えるダメージが増加する。現在、クリティカル発生時のダメージ増加率1.52倍。】
地味だが強い。
【クリティカルダメージ増加】はスキルレベルが上がってもその増加率は0.02倍ずつ、と少なめなようだが、大家さんは今のところ100%の確率でクリティカルを発生させている。
もし、このスキルの取得や成長の鍵がクリティカルの頻発にあったなら?
スキルレベル10にだってすぐ到達しそうだ。それに通常のクリティカルが1.5倍なら、このスキルが最大レベルになった時に1.7倍率になる。地味な上昇値だが実戦で大きな差となる。
そもそもクリティカル自体が殆んど出ない、その上で強化されるんだから凄い。
(『運』魔力がアレな俺は今世でまだ一度も出せてないんだよな…羨ましい…)
さらに言うと、大家さんには【魔力練生】がある。
このスキルの効果で魔力運用の効率やスキルの習熟速度にも補正がかかる。それも現在1.35倍率とかなり高い。
これだけ条件が揃ってるのだ。この【クリティカルダメージ増加】を進化させたやつなんて聞いた事ないけど、
「絶対、進化するよなコレ」
そうなれば上昇倍率が跳ね上がる。
「そうなると…俺以上のダメージディーラーに成長しそうだ…その上で、【運属性魔法】か…」
【運属性魔法】もスキルレベルが上がっていた。
ああそう言えば、これがどんな魔法かまだ言ってなかったな。その詳細についてはまた今度にするとして、ステータスで見た説明はこんな感じだった。
【運属性魔法…『運』を操る事に特化した魔力を運用する魔法。強大かつ難解なエネルギーである『運』を操る以上、かかる消費MPも多くなる。現在使える魔法は『命中率操作』『回避率操作』】
これは、『座敷女将』専用の魔法で、俺でさえ聞いた事がない魔法で、きっと『運』属性の魔力を操れるというのは凄い事で…そう、【運属性魔法】は初期段階で使える術ですら俺が恐れる…それ程の可能性を秘めている。
でも、だからこそ相当なMP消費が前提となるし、さらに言えば今のところ、この魔法は範囲で発動する事が出来ない。
つまり、実戦で使えば一発ごとに相当なコストがかかるのに、複数を対象に発動する場合は連発する手間がかかり、それ即ち生半可なMP量の持ち主ではすぐに枯渇してしまうという仕様だ。
でも大家さんのMP量は俺には及ばないが最強クラス。今後レベルアップしてMP最大値がさらに上がっていけば…
(う…うーむっ!これは…ッ、回帰者としてのアドバンテージなんて帳消しにされてしまいそうな程の強さだなっ!)
と俺が素直に舌を巻いていると、
『ふぅむ…均次よ!うかうかしておれんぞこれは…っ!』
と、何故か無垢朗太が燃える感じを出してきた。
(いや競争してんじゃないんだから…)
と俺としてはここで鎮静してもらいたかったんだが。
『何を情けない…っ、切磋琢磨という言葉もあるっ!オヌシも頑張れっ!我も頑張るっ!』
とさらにと燃えてめんどくさいので『いやお前が頑張ると何が起こるか不安だからマジでやめて』と言いたかったが、それを必死に我慢しながら。
大家さんの派手なデビュー戦で『このダンジョンも本気出すかもしれないな』とか思いながら。
ゴブリンエリートダンジョンの攻略を再開──しようとした、その時だった。
「──なんだ?」
これはきっと、単なる偶然ではない。大家さんが宿すべらぼうに高い『運』魔力が関係している…のか?だから違和感を感じる事が出来たのか。本当にそうかはわからないけど、とにかく──
「どうしたの均次くん?」
「いや、なんか…なんだろう…とにかく、違和感が凄くて──」
と、俺は誘われるようにしてこの倉庫の壁に向け、【大解析】を発動したのだった。