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だけじゃない問題。



 雷が降るので仮の名を『ビリビリダンジョン』とでもしとこうか。

 え?ダサいだと?うっせーこんなもんにまでセンスを求めないでください。

 ゴホン、とにかく。

 このダンジョンに生息するモンスターは思った通り多めだったな。

 それに、『雷鳥』と『バリネズミ』と『電気蛇』の三種類とバリエーションもあって、これらモンスターからは雷属性の素材が取れそうだ。

(雷鳥から『小雷核』が取れたのは嬉しかったな…まあ、たまにしか取れないみたいだけど…)

 これは『魔核』と呼ばれる、モンスターの体内でたまーに生成される結石のようなもので、この『小雷核』をコアにして武器を造れば雷属性を、防具なら雷耐性を付与出来る。
 
(このダンジョンを攻略するのに、ちょうどいい武具素材になるな…)

 それが14個も確保出来たのは、まあ…ヌエが張り切って乱獲したおかげだ。


 あと、素材となりそうな植物や鉱石もあったぞ。それも、ざっと見て回っただけで、『電気苔』と『避雷樹の枝』と『吸電石』と三つも。


 『電気苔』はこのダンジョンにびっしり生える苔の中、たまーに生えている紫色の苔だ。発電はしないらしいけど、電気を帯びたら発光しながら発火する。

(雷が降った先でやたら眩しく燃える時があるから、『何だ』と思って色々と解析してたら、見つけたんだよな。何かに使えないかな、これ)


 『避雷樹』は避雷針の逆だな。枝を折って持てば、このダンジョンで降ってくる雷が勝手に避けてくれるらしい。

(これってこのダンジョン限定の効果なのかな。もし違うなら凄いぞ?雷属性の敵に限るけど、特効防具が作れる)

 
 『吸電石』は名前そのまま、電気を吸収する石で、つまりは蓄電する。

(…電気はそのうち途絶える。前世でそうだったんだから、今世はもっと早く途絶えると考えた方がいい。これは、そうなったら活躍しそうな素材……嬉しい誤算なんだが……これってつまり、このダンジョン目当てに人が集まるって事にも…うん…なるな)

 しかもこのダンジョンは外観が巨大。遠くからでも発見出来るだろうから尚更だ。

 つまり何が言いたいかと言うと、これだけ便利なダンジョンは生かしておくに限るのだが、不特定多数の出入りを許せば、そんな都合などお構い無しに攻略される可能性だってある…って事で。

(だから、まぁ、人道的にやりたくはないし、やれば手間もかかるんだが…)

 このダンジョンに関しては鬼怒恵村で占有したい。
 村人以外は立ち入り禁止とし、ダンジョン内部のリスクをコントロールしつつ資源を確保したい。
 これをするためには村人の協力が必要となるし、そのコントロールの塩梅だって結構ムズい。

 いや、勝手に攻略しないと約束してくれるなら一般公開したっていいんだが、そんなのいつまで守られるか分かったもんじゃないからな。
 それに公開しないでも採れた素材を分けるのはいいが、採る手間を考えればそれにも限度がある。いつかはタダでとはいかなくなる。

 ならもう、早い段階で占有管理して初めから有料で供給する方がいんじゃないか?という事だ。

 まあどんなに言い繕っても利権の占有に違いない。となれば、このダンジョンはこの村の存続に役立つ資源である反面、他所との軋轢を生む要因にもなる。
 それを上手く治める事が出来ても、今度は別の地域で同じ事をしようとするやつが現れる。

 でも、俺のような(※前世の知識があってかつ、魂の修復にダンジョンコアを使われて本能的にダンジョンを知る)人間でもなければ、簡単に制御出来る訳がない。

(それで管理しきれずにスタンピードでも起こされた日にゃ、こっちまでとばっちりを食らうしなぁ…)

 そんな諸問題を考えると…うーん!やっぱり、近隣の正常化とそれにつけこんだ交渉、教導は急務になるな!…でも、その前に村人の強化または人材の獲得が必須だし…

(…うーん、やっぱいつものあれか。時間との勝負って感じに、なるか…)

 という感じで。

 また心配事を増やす俺なのであったが、この後すぐにさらなる心配事が追加されるとは、流石に想定出来るはずもなく──


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 ダンジョンの外に出るともう、キヌさん達は待っていた。

 しかし『じゃあ帰るか』とはならなかった。

 何故かと言うと、このダンジョンの外観は巨大な二本の石柱が螺旋状に絡まりあってそびえ立つ形になっているのだが、その二本の石柱それぞれに入場口があったのだ。

 いや、入場口が複数あるダンジョンなら前世でも沢山見てきたけどな。それでも確認は必要。そう思った俺は、みんなに待ってもらう事にした。
 そうやって一人で潜ったのは、すぐ引き返す前提、つまりは『多分同じような景色が広がっているのだろう』と思ったから、なんだが…


「あー…あのぅ…キヌさん?悪いんですけど一緒に潜ってもらえませんか?」


 本格的な調査が必要となって、こうなった。

『はい~、どうかしましたか~?』

「中で異常を確認したので──いいですかね?」

「そうなんですかぁ?いいですよ~」

『ぬぅ、人の妻を勝手に使うにゃ!どうして我を除け者に──』

 と、キヌさんは快諾してくれただが、ヤキモチヌエに説明するのが面倒だったので、一緒に中を見てもらう事にした。百聞は一見にしかずと言うしな。すると、

『ぬ、うーん、これは…確かにキヌの出番かもしれんにゃ…』

 と、ヌエがアッサリ納得してくれたのは、中がこんな感じだったからだ。


 生える根や幹や蔦や葉が密に絡まっていて、それがトンネル状の通路を形成している。それは器用に枝分かれしていて、どうやら迷路状になってるみたいだ。

 気温はそんなに高くない。でもじめじめしている。そのせいか所々で化物じみた花が花粉を飛ばしていたり、腐肉じみた実がガスを吹いていたり、バカみたいにデカいキノコが胞子を降らしたりしている。

 それだけでも気持ち悪いのに、密集する植物の隙間を巨大な虫やカラフルな蛇が這い回っていて…。

 タイプとしては、毒属性モンスターが徘徊する、緑豊かな洞窟型ダンジョン…って感じか。つまり、


「フィールドタイプに見えてそうじゃない…ていうか、どこをとってもさっきのビリビリダンジョンとは違ってる…うーんこれは…」


 階層ごとに違うステージを用意するダンジョンなら見た事はある。しかし、

「入る入場口によってステージが変わるダンジョンってのは、初めてだな……どういうアレなんだ?これ…」

 もしこっちから先に潜ってたら、ネーミングは『毒々ダンジョン』で決まりだったな…え?はいダサいですね…え?ひねりがない?

 ネーミング云々はともかくとして、これはどう見ても毒の巫女たるキヌさんの出番だろう。

(つか、キヌさんメインで探索しなきゃ無理っぽいな。このダンジョンでは俺なんて採集ですら役に立てそうにないぞ…)

 【大解析】で幾つか素材になりそうなものなら既に発見しているのだが、そのどれもに毒があったからな。

 俺には、『その素材にどんな毒があるか』って事しか分からなかった。
 
 え?『いやいやそれで十分じゃないか』だって?あのな。毒の扱いってそんな簡単なもんじゃないんだぞ?

 採取するにもどの部位を持てばいいかとか、どんな風に取ればいいかとか。そもそも触って大丈夫なのか、とか。
 今回、鬼怒恵村周辺の山々を探索に来たのは、ダンジョンを確認する次いでに素材採取も目的にしてたからな。手袋だって数種類用意している。それでもだ。手袋でこれらの毒が防げる保証なんてない。

 何せ普通の毒じゃない。魔力由来の毒なんだから。

 用心し過ぎても足らないぐらいの気持ちでいた方がいい──いや、何があったかは言わんけど。これは前世の経験で得た教訓ってやつだ。

 ともかく、【大解析】ではその毒に関して大雑把な知識しか得られないし、そんなにわか知識で魔力毒はさわれない。

 だからキヌさんを頼った。無垢朗太から毒のスペシャリストだって聞いていたからな。そのキヌさんを見れば、

『すご~い。天国ですかぁここ~♪?』

 と目をうっとりさせていて。

 その変わり様にヤバいものを感じた俺は

「あの、潜っても一層までですからね?」

 と一応釘は刺したけど。

「はい~  …へ?何か言いましたぁ?」

 この時点でもう、アレ。


「いえ…何でもないです…」


 そう、半ば諦めていた。

 

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