調査。
前にも言ったが、鬼怒恵村は盆地にある。
俺は今、そのぐるりにある山中を探索しているところだ。
元々鬱蒼としていたが、異界化してさらに鬱蒼MAXとなっている。なので駆け抜けようとするなら得体の知れない感じにグネグネと太く伸び生えた樹木やその枝を足場にする方が手っ取り早い。
だからこれ幸いと、無理やりに強化された肉体や器礎魔力を徐々に馴らしながらびゅんびゅんと駆け抜けている。
そんな俺の背にしがみつきながらきゃっきゃと喜ぶ密呼ちゃんは結構なスピード狂かもしれない。
だってこれ、時速60kmくらい出てるからな。こんな障害物だらけのコースでこの速度はかなり怖いはずなんだけど…まあ喜んでくれるなら良かった。
そんな俺の後ろを追いかけてくるヌエはぜぇぜぇ言ってる。まあしょうがないか。背中にキヌさんと才子乗っけてるし。
いや、キヌさんは霊体だから夫婦だけなら遠慮なく透過して直線走行も出来たんだろうけど。そんな事をすれば才子の方は太い枝やら幹やらに正面衝突してしまう。
魔力覚醒者には【MPシールド】がある。だから衝突の衝撃は防げる。しかし関節までは守れない。首の骨でも折れたら簡単に死ねる。つまり重傷を負う危険性は十分にある。
だからヌエも俺の真似して肥大化した樹木の枝とか、いつの間に生えたのか不明な巨大過ぎる岩とか、普通なら障害物となるようなものを足場にするしかなく。
(うん、結構しんどそうだな。そろそろ止まってやるか…つか)
目的地に着いたみたいだな。
「はいストップー」
『ぜぇ、はぁ、
「俺、スピードには自信あるし、お前も長いこと封印されてなまってたんだろ。つか、今の世界で人間相手に舐めてかかると大火傷するからな?(※俺以外のやつは)モンスター倒すだけで強くなれるようになってんだから」
『モンスターを倒して強くなれるのはお前もだけどな』とまでは教えてやらない。こいつがレベルを上げたら厄介な事になるのは目に見えてるからな。
『むぅぅ、ただでさえうっとうしき人間がさらにうっとうしくにゃっていると言うか』
「そういうこった。……あと、次に俺を殺そうとするなら覚悟して来い。こっちも本気でいくから。先に言っとくが勝つのは俺だぞ?」
『ぐうルルるううう!にゃんたる不遜っ!にゃんにゃら今ここで決着を──』
「ああいいぜ こいよ」
「ギシャァァア!」
「あ、あのー、ヌエさん?」
「シャ──にゃんだ!?」
「ひ…っ、あ、あのー…、口が悪くて鬱陶しくて不遜でまだちょっと臭い均兄ぃは無視してください。あと、人間の私を乗せてくれてその、有り難うございます…凄く助かってます」
「…っていい加減しつこくない!?いい加減泣くぞっ!」
という、俺の涙ながらの抗議はスルーされた。
『ふん…別に…かまわんっ媚びるにゃ娘』
そしてヌエの殺意も有耶無耶になった。
「…まったく」
才子はなんだかんだとコミュ力高いよな。あのヌエがキョドってやがる。
「均兄ぃも無駄に煽らない!というか、走るの速すぎ!少しは加減してよね!凄っごく怖かったんだからっ!」
でも言ってる事がまだ甘い。
…少し釘刺しとくか。
「これくらいのスピードを怖がってどうする?俺の経験上、悪いヤツほど強さに貪欲で、そん中にはスピード特化のヤツもいる。そんなんと何の用意もなく遭遇するつもりか?同レベル帯なら確実に苦戦するだろうな。そんなピンチに必ず俺がいるとは限らない。で?いいのか?お兄ちゃんを守れない自分のままで」
「う…それは…嫌だけど…」
「なら簡単に文句言うな」
我ながら思う。結構な無理を言ってる。これは俺の都合が多分に含まれてる。
でも、俺はもう決めたんだ。
コイツらを『巻き込む』って。
俺という男はどうしようもない。
そう、どうしようもなく…コイツらと離れたくない。
なら強くなってもらうしかないという…かなりの自分勝手を発動している。
だからどんな一方的な役どころでもしょうがない。
嫌われたって、なりきってやりきるしかない。
「あ…それと、キヌさん?」
「はぁい。なんでございましょ~?」
初めて話しかけたけど、この人ってこんな間延びしたしゃべり方だったのか。俺なりの精一杯で敷いたスパルタムードが一気に弛緩しちったわ。まぁいいんだけど。
「キヌさんを封印してた祠って、あれで間違いないですか?」
『はい~。間違いないですね~』
俺が指差した先には真っ二つに割れた祠がある。
義介さんの仕業だ。
彼と大家さんがここに来た時、ダンジョンに侵攻されてキヌさんは結界もろとも取り込まれる寸前だったらしい。そんなキヌさんからのSOSを不意打ち気味に受け取った義介さんは大慌てしたそうな。
で、秘伝の封印解除術式なんてのもあったらしいが結局、
『ああでもしないと間に合わなかったんじゃ!』とか言ってたけど多分言い訳だ。
「(テンパったな義介さんめ)でも、それだとおかしいよな、ダンジョンの気配がまったくしないのはなんでだ…?」
異界化して土地そのものが魔力を帯びつつあるので【大解析】を発動してしまうと手当たり次第に、例えば樹木…どころか、他の植物、石ころも含む鉱物…いや、地面そのものまで解析してしまう。こうなると脳にかかる負担も相当なものとなる。
それでも俺のステータスはいまやかなりのもんだし、魔力コントロールについても前世の経験がものを言って熟練の域にある。なので無理をすれば結構な広範囲を解析出来てしまう。
それでも結果は同じだった。ダンジョンの存在どころか、痕跡すら感知出来なかった。
「俺以外にダンジョンを滅ぼせるやつがいた…もしくは、場所を移した…?ってダンジョンが?そんな事あるか?…おいヌエ。お前が封印されてた祠はこの方角で合ってるか?」
『む?ふんっ、合っておるっ』
「じゃあそっちの方に行ってみよう。お前んとこにもダンジョンの進攻はあったんだろ?」
『あの厄介な『結界喰らい』の事か?それにゃら確かに来たぞ。にしても…にゃんにゃのだあの奇妙キテレツにゃ妖怪は?初めて見たぞ…にゃんとか自力で逃げおおせたが、流石の我も危にゃいところであった』
「そうか…見た通りダンジョンてのは危険な生き物でな…良くも悪くも近隣への影響力は半端ない。てな訳で『ある』って言うなら真っ先に確認しとく必要がある。だからおらほら、さっさと行くぞ?疲れてるとこ悪いがな」
『ぬ!にゃに様のつもりかっ!我を労るにゃ人間っ!』
「そっかそっかじゃぁ行くぞー」
『ま、待てっ!』