219 ワイルドグリフィン
弓が届かないほどの高さの、上空。
――バサッ、バサッ。
その翼をはためかせた姿は雄々しくも獰猛で、4足歩行の体を成しており、ラクダや馬の倍の大きさをしていた。
前の2本の脚は茶色い羽毛に覆われたファルコンのそれで、つま先には人間を易々と切り裂いてしまえるほどの鋭さのある鉤爪がついている。
後ろの2本の脚は黄土色の毛並みの美しい、跳躍力のある筋肉のついたライオンのそれだった。
顔は鋭い黄色のクチバシに、獲物を狙うファルコンの目で、やはり茶色の羽毛に覆われているが、頭部からはライオンの、迫力のあるたてがみが生え、風になびいていた。
そして、その数およそ、10頭ほど。
――ウァガァアガァア!!
鳥にしては低めの鳴き声に、獅子の遠吠えが混ざり合ったような声が鳴り響いたと思うと、ワイルドグリフィンの群れは降下し、
――ガッシャァアアア!!!!
勢いよく石で舗装された大通りにスライドしながら降り立つと同時に、そこに置いてあった市場の食べ物やら置き物やらイスやらを、その身体ではじき飛ばした。
「あぁ!!市場がメチャクチャに!!」
「そんなこと言ってる場合か!!とにかく逃げろ!!」
「ダメだ!!外は危ない!!とりあえず建物の中!!奥のほうに!!」
あまりにも急な出来事で、逃げ遅れた者達は近くの建物に飛び込んだ。
ワイルドグリフィンが街に降り立つとほぼ同時に、国門を守っていた、鉄の甲冑をまとった護衛兵達が、馬に乗って駆けつけた。
「おい!護衛ども!昼寝してるんじゃないよ!」
「そうだ!そうだ!仕事しろ!」
建物に逃げ込んだ婦人の一人が怒鳴ると、所々から非難の声があがった。
「昼寝なんてしてるわけねえだろ!」
声を聞いた馬上の護衛の一人が、大声で言った。
「マジで飛んでいたのを見た者がいねえんだよ!いきなり街の上空に現れたんだ!」
「はぁ!?訳が分からないよ!」
「それはコッチのセリフだっつの!」
「とにかく、早く追い払っておくれ!」
「分かってる!弓兵!かま……」
――ウァガァ!!
「なに!?」
馬上の弓兵が弓を引く間もなく、ワイルドグリフィンは跳躍、翼を広げスピードに乗って、一気に距離を詰めてきた。
「クソっ!!」
狙われた弓兵が弓を捨て長剣を抜く。
――ギンッ!!
「ぐあっ!!」
ワイルドグリフィンの鉤爪を長剣で受け止めたが、力が強く、馬上から吹き飛ばされてしまった。
――ウァガアア!!
「馬を狙ってる!!」
「ヤバい!!」
乗り手を失った馬に、その鉤爪が突き刺さりそうになった瞬間だった。
――ブシュシュシュ!!
ワイルドグリフィンの身体に勢いよく、水流が直撃した。
――ガァ!?
面喰らって、ワイルドグリフィンは後退した。
「いまの水の攻撃は!?」
護衛達は、水流の飛んできたほうを見た。
「よし!間に合ったわ!」
「ああ!馬は無事だ!やったぞオルハン!」
「へっ!」
フェン達をはじめ、数組のキャラバンサロンの面々が駆けつけていた。