二周目チートの代償。
器礎魔力とは読んで字の如く『
そして想定を遥かに上回る器礎魔力を完成させた俺は、かなりチートな器となれた。よってそこに注がれる『MP』もまた当然としてチート級となる訳で。
確か『魔力の器』という一般的な称号を授かった場合だと、注がれるMPは1000だった。
そして前世の俺は『英雄の器』という称号を授かって注がれたMPは2000あった。
それらと比べて、『魔神の器』を授かった今の俺のMPは7660もある。
前世の俺と比べると3.8倍、一般の魔力覚醒者と比べれば7.6倍ものMPを獲得した事になる。
この、『魔神の器』という称号の詳細は以下の通り。
『Sランク以上の器礎魔力を複数、しかも神ランクまで備えた者が得られる称号。MPの成長補正が神ランクとなり、初期値に6660加算される。
この称号を持つ者のステータスは禁忌事項として扱われる。解析されても正確には伝わらない。』
「うーん、禁忌認定されるほどのチートか……って流石に引くぞ。でもそのお陰で悩みの種だった防御力がかなりましになった…」
え?何故ここで防御力の話になるのかって?それを説明するにはまず、この『MP』とは何なのかって話をしなければならない。
MPと言えば、RPGをプレイしたことのある人なら『マジックポイントの略』として馴染み深いことだろう。
つまりは魔法を含むアクティブスキルを使う際に消費されるエネルギーを連想するはずだ。実際、このクソゲー化した世界でもそう使われる訳だが…
何を隠そう、この世界のMPは『シールド』も兼務している。
MP獲得に付随していた【MPシールド】ってスキルがそれにあたる。
これは、どんなに弱く薄いシールドでも弾丸だろうが猛毒だろうが魔力が宿っていない攻撃を通さない仕様となっている。
『魔力を宿した者には魔力を宿した攻撃しか効かない』のは、これに守られているからだ。
まあ俺がゴブリンにやってみせたように無理に捻られた関節は砕けてしまうし、それが脛椎なら殺せてしまう…という弱点ならあるにはある。
例えば爆薬などで吹き飛ばされた先で首の骨を折ってしまえば呆気なく死ぬ、という風に。
逆に言えば、そうならなければ魔力が宿っていない攻撃で吹き飛ばされても死ぬ事はない。
では魔力を宿した攻撃に対してはどうか?
シールドの強度は『防』魔力と『精』魔力の数値で決まる。
そして『分厚さ』についてはこの【MPシールド】というスキルのレベルで決まる。そしてそのスキルレベルについてはMPの最大値で決まるのだ。
1~1999までがレベル1、2000を越えて初めてレベル2となり、それ以降は1000刻みでレベルアップする感じだ。分厚さ×スキルレベルといった具合だな。
つまりスキルレベルが7である俺の【MPシールド】は、スキルレベルが1の者と比べて7倍ものぶ厚さがある、という事だ。
もっと例えると、『魔力の器』の称号しか得られず、『防』魔力と『精』魔力がDランクしかない覚醒者のMPシールドを『厚みが10cmある鉄製の盾』と例えるなら、
スキルレベルが7もあるが『防』魔力と『精』魔力が異常に低い俺のMPシールドは『厚みが70cmもある木製…いや、下手すれば紙製の盾』といったところか。
『防御がアホみたいに弱いけどHPだけは馬鹿みたいに高い』って状態と似てる…いや違うか。それはともかく、
ここからが大事なところなんだが。
この『シールドの分厚さ』は固定ではなく、常に変動する。
魔力を宿した攻撃を受ければ削られてしまうし、削れた分だけ薄くなる。
それは、MPシールドの原料たるMPが削られたという事にもなる。
つまり、この【MPシールド】というものの分厚さは、MPの残量で変動する、という事だ。
攻撃を受けてシールドが削られれば『アクティブスキルを使うためのMP』まで減る事になり、
その窮地を打開すべくMPを消費してアクティブスキルを発動すれば【MPシールド】はさらにと削られてしまう。
なんてスパイラル仕様。ホント、クソゲーだ。
しかし残念ながらMPを取り巻く厄介な環境は、これだけじゃなかったりする。
ほら、MPに付随して獲得したスキルはもう一つあったよな。
そう、【MP変換】ってアレだ。
これを使えば新たなスキルを習得出来たり、スキルのレベルを任意で上げたり、器礎魔力値を上げたりと、様々な強化をその場でお手軽に出来てしまえる。
…のだが、その代償として『MPの最大値』を払う必要がある。
そして犠牲として払ったそのMPは二度と戻らない。MP最大値はそのまま削られた形となってしまう。
そうなると?削られた分、当然【MPシールド】は薄くなる訳で。
MPを燃料に使うアクティブスキルだって使いづらくなる訳で。
まあレベルアップをすればMPの最大値も上昇するので、補填なら出来るけど。
そのレベルアップにしたってゲームと同様、上がれば上がるほど上がりにくくなるってジレンマがある。
…という訳で結局のクソゲー仕様だな。つまり結論として【MP変換】はあまり使わない方がいいって事になる。
(…ただなぁ、この【MP変換】による強化には『ジョブの獲得』も含まれてるんだよな…)
そう、確かにMPの最大値を削るのは惜しい。だがこればっかりは仕方ない。【MP変換】を使う事でしかジョブは獲得出来ないのだから
「──って…あれ??」
早速お目当てのジョブを獲得すべく、ステータス画面に映る【MP変換】をタップした俺だったが…何故だろう。反応がない。『使う』と念じながらやっても結果は同じ…何度やっても──
「え?なんでだ?」
その時だった。
『あなたは、深淵に足を踏み入れました。』
俺がステータスを見て一喜一憂している間、ずっと口を閉ざしていた『謎の声』が告げたのは、あまりに不吉な台詞。
『どうやって知ったのか知りませんが、数々の…それこそ不正ギリギリであった行為については目を瞑ってきました──』
さっきまであたふたしていたのがまるで嘘だったかのように…
「ぐ──これ…なんだ これ …重──」
そう、謎の声は重く、硬く、俺という存在にのし掛かってきた。
『──しかし。オブジェクトに傷をつけるなどとこれは、あまりにあまりの逸脱。どうやってあんな手法を思い付いたのやら…あるいはどこかで情報を盗み取ったか…いえ、それは分かりませんし、聞くつもりもありません。何故なら──あなたはもう、深淵に踏み込んだのだから』
「──なんだ …深 淵て──」
物理的作用すら伴って感じるこれは、威圧か?
『深淵を覗く者は深淵に覗かれる…これはこの世界が生んだ言葉と聞いています。
そう、これはこの世界が人の心を介して託した言葉。踏み入ってはならない不吉の存在を、あなた方人間に前もって知らしめるための言葉でした。覗くだけならいいのだと。覗かれるだけで済むのだからと。だから、それを感じるなら踏み込んではならないとも。
でも踏み込んでしまえば?覗かれるだけでは済まされない。結果、あなたは深淵に在る者と認識された。深淵の底を見る責が課せられた。』
「ダか──ら いっタい─ ─ナに を言ッて」
『ペナルティというヤツですよ。』
…ペナルティだと?
…!
──もしかして!
「く…その、 ペナルティ のせいで、【MP変換】が使えなくなった …そういう、事、…かっ!?」
『……あなたの試練は、終わらない。』