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中間結果。


 
 俺は今『知』魔力の試練を受けている。

 その内容は『決められた時間内でどれだけの計算問題を連続正解出来るか。』というもので、その計算問題も正解すればするほど難易度が上がる仕様だ。

 そして今のところ計算間違いはしていない。

 俺は元々、【暗算】スキルというのを持っていた。こうして正解し続けているのは、このスキルのおかげだ。

 でもこれは、九九を習得した日本人なら誰でも持っているスキルであり…。

 かといってこれがあれば誰でも…という訳にいかない。

 このスキルが使えているのは、『知』魔力を先取りしていたからだ。

 スキルというものはMP消費のあるなしに関わらず、どれも魔力由来の能力となっている。

 つまり『それに対応した器礎魔力がなければ発動しない技』なのだ。

 俺の『知』魔力はまだ数値的に低いが、【暗算】のスキルを発動させるには十分ではあった。だからこうして計算無双が出来ている。

 しかも、さっき正式に取得したばかりの『速』魔力は相当に高い数値となったからあり得ないほどの早口で解答出来るし、『知』魔力との相乗効果を利用すれば演算能力だって加速する。

 これだけの補助を受ければ大きな桁の複合計算も間髪いれずの即答が可能となるし、正解数も飛躍的に稼げるって訳だ。ただ…

(この試練で良い成績を修めてしまうと、『攻』魔力と『防』魔力の成績がまた下がってしまうんだよな…)


 最初から捨てていた『防』魔力はいざ知らず、まだ取得していない『攻』魔力、その試練の内部成績を、さらに下げてしまう結果となる。

 
 それでもだ。俺はもう、自重しない。


 何故ならここで得られる『知』魔力はこの後の試練を考えれば高い水準で必須となるからだ。

 そしてここで好成績を残すと特典で得られるスキルもだ。今後の事を考えれば必須となるものだった。


 そのスキルとは、ただでさえ有用な【鑑定】の上位互換である【解析】。


 …なのだが、もしかすると今回も──


『凄い!今回も前人未到の好成績となりました!コングラッチュレーション!おめでたう!』


 『たう』?ああ、うん。こんだけ興奮してるって事は…


『特典として上位スキル【解析】…でわなく、希少スキル【大解析】を授けます!』


「おおやっぱり!また希少スキルを!」


 ステータスはどうなった?




=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)


防(G)10
知(M)60
精(G)10
速(M)60


《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】

《称号》

『英断者』『最速者』

=========================


 新たに得た『知』魔力の数値は、やはりの初期値60で、成長補正はMランクだった。

 そしてこの好成績によって大幅ダウンするのは『防』魔力と『攻』魔力だが。

 『防』魔力は元々最低のGランクまで下がり切っていた。なのでステータス上は変動なし。なのでどれ程の下げ幅だったのかは…そう、相変わらずの未知数だ。

 つまりまだ試練を受けておらず、能力値の先取りもしていない『攻』魔力の内部成績がどれほど減点されていてるのかも、わからない。


「ハァ…もう考えないようにしよ」


 ここで日和って中途半端な調整をしたところで中途半端な結果にしかならなかった。つまりはこうして開き直るしかない。 

「それに、このステータスなら強力な魔法を連射出来て回避も出来る最速魔法使い…てゆー運用だって出来るんだし……いや、」

 それだといざという時に大家さんを守りにくい。

「……やっぱ諦めちゃだめだな『俺なりの最強ビルド』」

 
 という訳で俺は決意を新たに、


「よし!次は『技』魔力の試練だ!」


 と言いながら扉をくぐった先、そこはいつもの何もない岩部屋とは違っていた。

 全ての壁が棚で埋まっており、その中には色々な武器を型取った木製武器が立て掛けられている。

 剣や短剣や長剣や大剣や太刀や小太刀、槍や短槍や長槍や薙刀、手斧に戦斧にハルバード、他にも色々…名称がさだかでない変わった形状のものまである。

 俺はその中から木製の短剣を二本選んで手に取った。


「短剣二刀流か…前世ではやったことないけど…うん。木製だから軽いし、扱えそうだな」


 そう、お察しの通り、この試練は素人泣かせのあれ。『戦闘力を試す』という内容だ。

 次々と現れるモンスターの幻影を、選んだ武器を使ってひたすら倒す感じだな。

 因みに幻影なので敵から攻撃を受けても負傷したりしない。減点されるだけだ。まあ今の俺的にはそっちの方が痛いけど。



「──フゥゥゥゥゥ…」



 謎の声が聞こえなくほど集中する。
 前世の殺伐を思い出す。
 気付かない内に歯を剥き出していた。

 あんな悲惨な死を迎えたからか、非情の自分だけでなく追い詰められた獣のごとき性まで露になって…

 もういいや、これが今のベストコンディションと割り切ろう。

 …にしても心臓の音がうるさいな…なら逆に早めてみるか…なんて事をすると全身が脈打って意識がそれに飲まれそうになって──ああもう…早くっ、



「始め…ろっ!」



 『──それでは始め──』俺は飛び出した!幻影が出現する瞬間!まずはそこを狙う!

「──ふ!」

 よし撃破!それを皮切りに次々と狩りとっていく!

 先手が必勝だ!鎧袖も一触だ!何もさせてやるもんか!

 それが人型だろうが獣型だろうが虫型だろうが植物型だろうが飛行型だろうが竜型だろうが小型中型大型関係なしだ!

 おら!手当たり次第に倒してゆく!

 それでもちゃんと刃を立てているか、当てたそこが急所であるか、攻撃を食らっていないか、判定ならば、ちゃんとある。

 だけど元が素人相手を想定した敵設定だ。劣化バージョンしかいないし、木製武器で戦う前提で敵の幻影にリアル防御力など設定する訳がない。

 ちゃんと当てれば倒したと見なされて…ほら霧散した!大型でも何発かちゃんと当てればちゃんと消える!

 『速』魔力が反映された人外スピード。それに『知』魔力も動員されてさらにと上がった演算処理能力!このスピードにも振り回されず、敵の動きはゆっくりハッキリ見えてる!避けることも当てることも簡単過ぎて

「ハハ!」笑いが洩れる。

 だってこれほどのお膳立てがあるのだ。前世でも数え切れない実戦を経験した俺にしたらこんなの、ボーナスステージでしかない。

 慣れない武器の短剣、しかも二刀流を選んだのは力が一般男性並みでしかない俺が扱うには最適の重さだったし、手数も稼ぎやすかったからだ。

 軽いのでスピードを活かせて疲れにくく、討伐数も一番稼げる…つまり、今の俺がこの試練で選べる最適解だった。

 それに、今後の事も考えていた。

 もしかしたら、賭けに失敗して貧弱な『攻撃力』の能力値しか得られないかもしれない。

 それを考えると手数を稼げる二刀流には慣れておく必要があった。とにかく──って、あれ?敵は?

「ああそっか…もう終わりか。」

 あまりにも楽勝過ぎて実感湧かないけど。どうやら試練はクリアしたらしい。

 
『す、すごい──裏ステージも突破!難易度ヘルも完全殲滅!??その上で被弾なし…パーフェクト達成??…あ、ありえない…』


 ほう…?いや、まあね。当然だね。なんせ俺、自重しない回帰者だから。


『と、と、特典として…そうだ!『武芸者』の称号!これを授けます!』

 今回の追加特典は称号だった。その内容は──

『『武芸者』の効果により【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】を取得します』

 どうやら『スキルセット系』の称号だったみたいだな。これは字面通りスキルをセットで習得出来るって称号だ。

 でも今回のスキルセットの内容は基本ジョブにつけば習得出来るものばかり…正直大した旨味はないな。

『あの、あまり嬉しそうじゃないですけど、この称号の凄いところはですね──』

「あ、いや、な、何言ってんだ嬉しいに決まってんだろう?いやーホント、マジありがとうっ!」

『あ…はい!どういたしました!』

「いや謎の声さん、なんか日本語乱れてきてない?…っと、それよりステータスはどうなった?」


=========ステータス=========


名前 平均次(たいらきんじ)


防(G)10
知(M)60
精(G)10
速(M)60
技(SS)50

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】

《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』

=========================


 よし。『技量』の能力値を無事取得出来てるな。でも予想には及ばずの成長補正SSランク。

 初期値50という事は、Sランクよりは上。Mランクよりは下か。

 さて。この『技』魔力の試練で良い成績を修めたのだから『防』魔力と『運』魔力は下がったはずだ。

 まあ『防』魔力は今更だな。もう既に最低ランクだし。それを受け止める覚悟も出来ている。

 そして一方の『運』魔力だが。これはまだ先取りしてないのでステータスには反映されていない。

 なので今どんな状態なのか閲覧出来ない。つまり今回でどれ程に内部成績が下がったかは…そう。またもの未知数だ。


 そしてこの『運』魔力だが…


(これもなー。実は大事なんだよなー…)


 そして次に挑むは、その『運』魔力の試練なのだが…その前にもう一度おさらいするが、


 『運』魔力とは特殊な魔力だ。


 字面通り高ければ高いほど運が良くなるのだが、その適用範囲がとにかく広い。

 攻撃ではクリティカル率アップ。
 防御では回避率アップ。
 魔法では命中率や成功率のアップ。

 他にもドロップ率や罠解除や錬成の成功率など、様々な状況で絡んでくる。

 そしてなんと言ってもこれ。

 レベルアップでは上昇しない。

 なので成長補正なんてものは端からない。つまり自力で高い数値を得たいならこの試練にしか機会はない。

 だから、『運』魔力の試練とは文字通り運命の分かれ目。とても大事。大事過ぎて大事な正念場。前世ではそんな意見が主流だった。

 そして、ここで良い成績を修めた場合も特殊な結果となる。下がるのは『技』魔力の成績だけで、一つだけだからかその下げ幅は二倍となっている。


(うーん、悩みどころだ…)


 まず、この『技』魔力SSランクというのが、Sランクの一段階上の成長補正なのであれば、この試練は『運』魔力を最大値にするチャンスとは、なりにくい。

 Mランクに届かなかったが、それでも最大限に上げた『技』魔力を、二倍の下げ幅で降格させてしまうのだからな。

 『幸運』の試練を頑張り過ぎれば相当に低くなるのは一目瞭然だ。

「じゃぁどれくらい頑張ればいい…?」

 その塩梅の難しさを想いながら、俺は『運』魔力の試練に挑戦した。その内容はやはり前世と同じだった。

 コインを100回トスして裏か表かを当てるだけ。それを何回連続で的中させるか。その連続成功回数の中で最も高い記録を参考にする…というもの。

 もちろん連続成功回数が多いほど、得られる『運』魔力は高くなる。

 そしてその結果は、一生ついて回る。

 俺は今からそれに挑戦する。目指すは…

(よし。決めた。)

 ()()()100%だ。

(今の俺なら不可能じゃない、はず)

 いや、簡単ですらある。

 何故なら『知』魔力と『速』魔力と『技』魔力を初期値ではほぼ最大取得してるからな。

 その上で数々のスキルや称号による補正まで受けている。

 これらのお膳立てを整えるために、ここまで『運』魔力の試練を残してきた。

 だからもうここは開き直って──


 「よし!やってやる!」


   ・

   ・

   ・

   ・

   ・ 


 よし!よしよしよし!成功だっっ!


「い……よしっっ!!」


 俺は派手なガッツポーズを決めた。












『いやなにが『よし!』ですか…』

 
 なんで水を差すかな。


『こんなに外して…』


 なんだか不満そうにしてるけど、ちゃんと()()()()()()()じゃないか。


()()1()0()0()()()()()()()なんて……どんだけ運が悪いんですか…』


 ……いやだから。


 ()()()()()1()0()0()()()()()()()()()()()()()んだっ。

 つまりは、あえて悪い成績を選んだ。

 そうだ。これは狙ってやった事だ。
 つまりは今回、手を抜いていない。
 つか抜けなかった。

 この試練だけは悪い成績も手を抜いていては狙えないからな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何故ならこの試練は本来なら運任せの試練でつまり、良い成績だろうと悪い成績だろうと確実には弾き出せない仕様…のはずだった。

 俺みたいな凡人には、高い『知』魔力と高い『速』魔力の相乗効果を利用する事で向上した動体視力を駆使し、『技』魔力により向上したトスとキャッチの技術をもってして、やっと、連続100回の失敗…最低得点を()()させる事が出来たのだ──え?

 何故、最低得点を狙ったのかって?

 ふむ。もう一度言っとくか。

 それは、この『運』魔力の試練が特殊だったからだ。

 良い成績を修めた場合に下がるのは『技』魔力だけ。それも下げ幅二倍。

 そして得られる『運』魔力は攻撃、防御、魔法の成否エトセトラ…全てに関わるオールマイティーな魔力となっている。

 そんな重要な『運』魔力を得るためにあるこの試練は、運任せな内容にする必要があって、コイントス。

 そう。

 運任せである以上、俺のようなチーターでもない一般人だと、逆の奇跡を起こしてしまって…常識外れに悪い成績を修めてしまう場合が希にだがあるってことだ。

 こんな…レベルアップでは上げられず…つまり自力ではここでしか上げられない『運』魔力の試練でな。

 それがどれほど危ない仕様であるかは分かるだろ?

 でも、そんな特殊なケースが存在するならそれを考えての温情措置も用意してるのが、この試練システムというものだ。

 そう、ここで悪すぎる成績を出してしまった場合、どうなるのか。

 俺はまだ、それを述べていない。

 『技』魔力が二倍に向上?

 いやいや…そんなもんでは済まされない。

 なんと…


 『()()()()()()()()()()()()()()()()()!(※またはそれぞれの試練成績が加点される)


 つまり、これ以上ない最低点数を弾き出した俺は…いや。それはステータスを見れば分かることだな。



=========ステータス=========


名前


防(F)15
知(神)70
精(D)25
速(神)70
技(神)70
運(-)10

《スキル》

【暗算】【機械操作】【語学力】【韋駄天】【大解析】【斬撃魔攻】【刺突魔攻】【打撃魔攻】【衝撃魔攻】

《称号》

『英断者』『最速者』『武芸者』

=========================


 ご覧の通り幸運の能力値は最低となったが他の能力値が軒並みに上がって…

 …っておい、なんだこれは?


「神…ランク、だとぅ?」


 神とか…まだそんな成長補正を隠してたのか…と、ともかくだ。

 どん底だった『防御力』と『精神力』の能力値も地味にだが上がってる。

「いやホントに地味だな。どんだけマイナスだったんだこれ…(でも、これで確認出来たな)」

 未だ取得してない『攻』魔力──それを得る試練の内部成績が今、マイナスを脱却してプラスに変じたという事が、ここで判明した。

 だって、全ての選択を下がる一辺倒にしていた『防』魔力でさえ、プラスに変じたのだから。『攻』魔力もそうなってない訳がない。

(これならまだ挽回のしようがある…にしても神ランクて…もはや怖いな)

『く…まさかこのランクを出す人がいるなんて…しかも最低得点を出した試練で…嘘でしょこんなの…』

 『謎の声』ま困惑しているようだ。うん。だよね。そうなって無理ないよ。俺もビックリしてるもの。

『でも!仕方ありません。規定に則り神ランク取得特典として…』

 お。なんかくれるのか?太っ腹だな。


『『神知者(かんちしゃ)』の称号を授けます!持ってけ泥棒!』


 えっと。ん?ステータスで早速確認したけど、

「なんだ?詳細を閲覧出来ねぇじゃあ【大解析】──同じか、解析も出来ない…」


 この特典って

「嬉しい誤算…で、合ってるのか?おい謎の声!なんなんだこの、『神知者』って」


『秘密です♪』


 あ。ムカつくー。


 

しおり