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第五話 カリン報告する


 カリンが、邸に帰ったのは、ヤスが公国から帰ってきた翌日だった。

「あ!まーさん!ただいま!」

「お帰り。カリン」

 カリンは、ダンジョンから帰ってきたテンションのままおっさんに報告を始めた。

「アキとイザークは、5階層までなら無傷で到達ができるよ。他の子は、3階層か4階層だね」

「そうか、ありがとう。問題は?」

「うーん。そろそろ、武器や防具を考えないとダメかな?それぞれの特性が出始めている」

「そうか・・・。ゲラルトとオイゲンに言って用意してもらうか?」

「うん!あっ!エミリーエに言って、聖樹の杖を作ってもらえる?」

「ん?誰か、聖の属性に目覚めたのか?」

「うん。ラオに特性が出た。シュリが確認したから、間違いないよ」

「そうか、わかった。杖でいいのか?」

「え?」

「いや・・・。ラオなら、槍や棒でもいいと思うけど、杖がいいのか?」

「あっ!そうだよね。皆の武器や防具も、調整しないとダメだね」

「アンレーネにも声を掛けておく、明日でいいのか?疲れていないか?」

「大丈夫だよ。新しい、武器や防具を作ってもらえると解れば、多少の疲れは無視するよ?」

「・・・。それなら、三日後だな」

「え?」

「まずは、しっかりと休ませて、しっかりした体調の時に武器を選ばないと、武器も防具も渡さない」

「・・・。わかった。そうだよね。まずは、体調だよね」

「そうだ。今は、まだ訓練だから、無理をしないように伝えてくれ、本当に無理をしなければならない時が絶対に来る。その時に、余裕がない状態では困るからな」

「うん!まーさん。ありがとう」

 カリンは、自分が焦っていたことに気が付いた。
 ダンジョンの攻略は、必須だが、カリンとおっさんだけでは不可能だ。協力者が絶対に必要になる。おっさんは、協力者として、子供たちを考えた。自分とカリンの寿命が伸びてしまったことから、子供たちを育てて、子供たちがピークに達する時に、攻略に乗り出せばいいと考えていた。

 カリンは、おっさんの考えに賛同したが、それでも子供たちのピークが何時になるのか、ピークを自分たちが調整できるのではないかと考えた。訓練を行っている。子供たちは、カリンやおっさんと違って加護は持っていない。

 子供たちは最初から使えるスキルもない。
 それが、大人でも苦労するダンジョンの3階層を越えた。

「アキとイザークだけではなく、子供たちををしっかりと褒めないとダメだな」

「え?」

「カリンと俺以外の、最高到達点は知っているか?」

 カリンは首を横に振る。

「そうだろう。まぁ来ているのは、護衛を生業にしている者たちだから、腕試しの意味が強いのは知っているか?絶対に、無理はしない。勝てないと思ったら、撤退している」

「うん。1階層とかで、何組かすれ違ったけど、安全マージンをかなり多めに取っている感じがしたよ」

「あぁ彼らが命を天秤に乗せるのは、ダンジョンではないのだろう」

「あっ・・・。そうだよね。護衛の方が、まだ実入りがいいってこと?」

「それもあるけど、ダンジョンが周知されていないから、ダンジョンで何階層を越えたからと言っても、仕事には直結しない。採取やドロップ品を持ち帰って、価値が決まって、商人に売らないと、収入にならない。一種のギャンブルだ」

「そうだね」

「護衛たちの最高到達点は、確認が出来ている範囲では、3階層だ。それも、カリンと子供たちの数よりも多い30人のパーティーだ」

「・・・。え?」

「だから、5階層でも十分だと思わないか?」

「うん。まーさん・・・」

 おっさんは、カリンが何に焦っているのか解っている。

 俯いてしまったカリンの頭をおっさんは優しく撫でた。

「焦ってもしょうがない。ゆっくりやろう。それに、封印されている奴が行動を開始するのは、まだまだ先だ。それこそ、アキやイザークたちがピークを迎えて、限界になるよりも先だ」

「え?」

「龍族の寿命を考えれば、すぐだろうけど、100年や200年は先の話だ」

「え?」

「だから、焦らなくてもいい。それに、ダンジョンからの採取が”金”になると思えば、護衛から転向する奴らも出て来る。アキやイザークたちを見て、自分たちにも可能性があると考える奴らも出て来る。本番は、それからだ」

 おっさんは、カリンの頭を撫でながら、諭すように説明する。

「そうだ!まーさん!」

 カリンが何かを思い出して、顔を上げた。
 ”撫でられていたい”という思いもあるが、少しだけ本当に少しだけ恥ずかしいという思いが大きくなってきた。

 ごまかすように顔を上げたカリンは、子供たちの戦闘をおっさんに報告した。

「そうか、最初に考えていたのと違う属性になりそうだな」

「うん。アキが支援型と思ったら、ダメージディーラーでイザークが盾になって、ラオが補助や回復役」

 カリンは、子供たちの特性をメモに残していた。
 スマホを使ったメモだが、おっさんに報告するのには、紙に書き出そうと思っていたのだが、邸に帰ってきてすぐに遭遇してしまったために、スマホをみながらの報告になっている。

 カリンが、おっさんの前でスマホを使わなくなった理由はある。
 スマホが壊れても困らないとは思っているのだが、スマホを使っている状況をおっさんには、まだ見られたくないという思いが強い。

「カリン。今の報告をまとめてくれるか?」

「うん?そのつもりだよ?」

「あぁ説明が足りなかったな。まず、評価ができるポイントをまとめて、直した方がいいと思う箇所を指摘する。そのうえで、武器や防具を選ぶときの参考にする」

「あっ!成績表みたいな感じ?」

「そうだな。5段階でもいいし、10段階でもいい。アキやイザークたちを評価して欲しい」

「わかった」

「満点にはならないように・・・。それから、必ず問題を1ー2箇所くらいは書いて欲しい」

「え?うん。わかった。がんばる」

「戦闘だけじゃなくていいぞ?これからの生活で必要になりそうなことでもいい。彼らは、ダンジョン内の拠点を守る要になるのだが、礼儀作法も最低限では困る」

「え?礼儀作法?」

「深い階層なら、問題はないが、10階層くらいまでなら、護衛の連中でも本気を出せば到達できるだろう」

「・・・。そうなの?」

「あぁ組織は、そういう物だ。彼らは、リスクをしっかりと考えている。だから、リスクに見合う儲けが出るのなら多少の無理なら押し通す」

「へぇ・・・。あっ。それで?なんで、礼儀作法が必要なの?」

「最低限の礼儀があれば、拠点を利用する者たちと喧嘩はしないだろう?」

「??」

「10年後や20年後なら別だけど、2-3年後にはダンジョンにアタックする人は、数倍に膨れ上がるだろう」

「・・・。うん」

「その中には、他国・・・。あぁ公国を含めて、他国の者が多くなる」

「うん」

「その時に、まだ子供と思われる者たちが管理する拠点がある」

「あっ・・・。うん。子供だからと甘く見られないように?」

「そうだな。それもあるけど、しっかりとした対応をしていれば、一部の無法者が現れた時に、イザークたちが力でねじ伏せても、周りの人間は納得するだろう?」

「・・・」

「普段から乱暴な言葉遣いで、暴力事件ばかりを起こしている者と、言葉遣いも立ち居振る舞いも綺麗な子供。どちらが信頼される?」

「わかった。最低限?が、よくわからないけど、わかった」

「そうだな。目標は、マニュアルを作る事だけど、最初はイーリスくらいの対応が出来ればいいと思うぞ」

「え?王族?」

「あの位を目標にしておかないと、ダストンとかが目標になってしまう」

「わかった」

 カリンは、おっさんが求めている内容の理解ができたので、安心した。
 日本に居た時の接客を目指すのかと思ったけど、目指すのがイーリスだと聞いて、考え方ではなくて、言葉遣いだと解って安心した。

 どう頑張っても、イザークがイーリスのような話し方や考え方ができるとはおもえなかった。

 おっさんとの話を終えて、自分の部屋に戻ったカリンは、すぐに報告兼評価表の作成に取り掛からなかった。

 ベッドに飛び乗って、悶絶していた。
 喜びの感情ではなく、羞恥の感情が爆発寸前だったのだ。

 カリンと契約をしているシュリが、近くのテーブルで羽を休めて、”やれやれ”と言った表情で主を見つめていた。

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