第1話
●第1話
太陽の季節
怒髪冠を衝く火炎が漆黒を焼き尽くさんばかりだ。
見上げれば閃。
振り向けば輝。
見まわせば白。
河口のようにとうとうと噴き出す光が星座を洗い流してしまった。
遮光壁を透してもなお、前方スクリーンには輪郭線一本、映っていない。
それでも乗客たちは喝采を惜しまない。
太陽渡航船トゥオネラ号の就航がオーロラ観賞を駆逐してしまった、と言われるほどの人気ぶりだ。
「みなさん。まもなく本船は水星軌道を通過します。太陽系第0番惑星ヴァルカン到着時刻は……」
肌も露なアテンダントが陽気に告げると、デッキは若い女の子たちの嬌声でいっぱいになった。
「ああ、なんて雄大でセクシー」
「蕩けちゃう」
トロピカルなビキニに包まれた肢体が遮光ガラスにぐいぐい押し付けられる。貞操を捧げる相手は恒星だ。
女子の女子による女子のためのパッケージツアー。
企画したのは国連優生局だ。
世界史の最晩年。
草食化、仙人化を通り越して化石化した男子に見切りをつけ、太陽系原生種との交配に望みを託した。
太陽が生命の源である神話や伝承などで謳われていたが、それが形容ではなく直接原因であるとは誰が予想しただろう。
水星軌道の内側をめぐる小惑星が発見され、各国がこぞって探査機を派遣した。そこで人類は思いがけないファーストコンタクトを果たした。
太陽だ。
かと言ってB級SF小説のように天体そのものが意思疎通を持ちかけてきたわけではない。
第0番惑星の表面に原始的な菌類が見つかり、その成因を探っていくうちに、太陽光線の非論理的な作用が明らかになった。
科学者たちは未だに特定の波長を分類できないでいたが、とりあえず日照が原始大気中の生命合成を促進したと結論付けた。
医学、生命科学、化学、あらゆる角度から太陽光と地球生命体の相互作用を見直した結果、世界規模の少子化に歯止めがかかると思われた。
すなわち、惑星ヴァルカンにおける処女懐胎である。聖書に先例が記録されているとはいえ、それが事実であるとわかると世界がひっくり返った。
倫理もへったくれもない。絶滅に瀕した人類は破れかぶれの方法を縋る思いで実行に移した。
すったもんだの挙句、惑星ヴァルカンに待望の一子が生まれた。
女の子だった。
「うるさいわね。男がポンコツなんだからしょうがないじゃない!」
「そーよ。いずれあんたらは滅ぶんだから」
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