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突然だが、僕は今日ここを去ろうと思う。
僕は、産まれてから一度もこの街を出た事がなかったが、僕はこの街を出ることに決めた。

どこかにあるという、幻の駅を探して旅に出ようと思う。

その駅を探すことが人生に疲れた僕の最後の目標になっていた。

僕はまず、最寄り駅から電車に乗る。

あとは、行先も決めずに降りたい駅で降り、乗りたい駅で乗る。
ただ、それだけだ。

僕は電車に揺られながら、幻の駅について考えていた。

なんでも、その幻の駅には願いを叶えてくれる力があるという。

昔は、その事を聞き付けた大勢の人がその駅をこぞって探していたが、見つけたという人は聞いたことがない。

だが、僕にはそれで十分だった。

噂程度で十分だった。

人生になんの目標も持ってこなかった僕の最初で最後の目標なのだ。

僕がひとり、考えに浸っていると、いつのまにか、隣にはひとりのご老人が座っていた。

僕は無視しようと思って下を向いていたが、

「お若いの、ほれ、窓の外を御覧なさいな」

そう言われて僕はふと窓の外をみる。

そこは花畑だった。

辺り一面綺麗な花が咲いている。

「お前さん、もしや、あの駅をさがしておるのじゃろ」

図星だった僕は思わず顔を上げた。

「やっぱりの。
これでもワシは昔から勘が鋭くての。
お主、なにか悩みを抱えておるのか。
だが、早まるでないぞ。
人生の旅を終えるので何時でもできることじゃ。
その前にまずはこの旅の目的地を目指すことじゃ。」

僕はまた下を向いた。

「お若いの、そんな顔をするでない。
こう見えてもワシは20数年前にあの駅を見たことがある。」

僕はハッとして思わず顔を上げご老人の顔をまじまじと見た。

そのとき、電車が停車し、ご老人は「頑張りなさいな、お若いの。」とだけ残し電車を降りていった。

僕の一人旅はまだ続く。

名も無き幻の駅を探して…

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