いつもは21時過ぎに布団に入り、22時には眠りについている俺だが今日はもう23時を回っているというのに眠れん。
何故だ。
今日もいつもと同じように7時に起きて、8時に家を出て筋トレがてらバイト先まで1時間ジョギングし、9時から5時までコンビニでバイトしてスーパーによって弁当を買ってまた1時間ジョギングして帰ってきたというのに眠れん。
全く眠くもない。
いつまでも布団の中で考えていても仕方がないので、俺は夜の散歩に出かけることにした。
こんな時間に散歩に行くなんて初めてかもしれない。
一人暮らしの安アパートを出て、俺は近くの公園までジョギングすることにした。
家から公園までは小走りで10分くらいのところにあるのでそう遠くはない。
近くの公園に着いた所で俺はスマホを出して時間を確認した。
23:40分だった。
『この公園は昔、親父と来たことがあるな』と思い見渡していると俺の後ろでキィーという甲高い音がした。
俺は恐る恐る後ろを振り返った。
俺の後ろにはブランコがあった。
ブランコの上にセーラー服姿の女が俯いて座っていた。
俺は、見えてはいけないものを見てしまったと思い慌てて引き返そうとした。
引き返しざまにふと、女の方を見るとちゃんと足があり、小さくすすり泣いているように見えた。
年齢=彼女いない歴の俺には、女がないているところなんて当然見たことがなく、どうしたらいいか分からなかったがとりあえず近ずいて声をかけた。
「こんな夜中にどうしたんだ?
家出か?
家族が心配するぞ」
しばらくまったが女は一言も答えなかった。
俺は諦めて家に帰ろうとした時に女が顔を上げた。
「お兄さん、私の話きいてくれる?」
女の声はとても小さく震えていた。
「ああ、きくだけならきいてやる」
俺はブランコの方に歩いていき、女が座ってる席の隣の席に座った。
「お兄さん、私ね、今日は何だかお家に帰りたくないの」
女はそう言って俺の方を見る。
よく見ると中学生くらいの子供だった。
腕や足には痣だらけだったが俺は気付かないふりをした。
「なんでこんなとこいんの?家に帰りたくないならダチの家とかいきゃいいのに。」
「お兄さんこそどうしてこんな時間に公園なんかに居るの?」
「俺はただ、眠れなかったから散歩しに来たんだよ。お前は?」
「あ、私、アキ。
私はえっと、んー、私もお散歩!」
女…もといアキは少し考えてから今思いついたであろう解を言った。
まあ、理由はなんでもいい。
きっと本当の理由は家族からの虐待に耐えられなくなったのだろう。
俺にも親に虐待された経験があるから態度を見ればすぐ分かる。
このまま家に返すのは危険だ。
明日、警察署と児童相談所に連れていこうと思い、俺はアキに悟られないように話を切り出した。
「お前、今日は家に帰りたくないんだろ?
俺も、ちょうど明日はバイト休みだから俺ん家くるか?
明日は土曜だからお前も学校は休みだろ?」
「え?いいの?」
アキは確かめるように俺をみた。
「ああ」
「やったぁ!」
アキは小さく跳ねながら喜んだ。
俺はアキを連れて、近くのコンビニで買い出しした。
アキはろくに飯も食べてないらしかったので、飲み物やお菓子類の他に、俺は弁当やカップ麺も買い足した。
ひとまず俺の家に連れて帰り、飯を食べ、アキに風呂に入るように言った。
アキが風呂に入っている間に俺はアキの持ち物を調べた。
入っていたのは学生証だけだった。
アキの本名と住所が書いてあると思い、俺はアキの学生証を開けた。
その途端に俺は心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
アキの住所は見慣れた俺の実家のものと同じだった。
俺は高校の卒業式の日に家出した。
俺が小さい頃から親父はお袋と俺に暴力を振るっていた。
お袋は俺が17の時に病気で死んだ。
親父はお袋が死んですぐに別の女を探した。
家に帰ると毎日のように違う女がいた。
そんな生活に嫌気がさした。
高校を卒業したらすぐに家を出ようと俺は心に決め、すぐにバイトを始めた。
学校に無許可でかけ持ちし、めいいっぱい仕事した。
大変だったが、今の暮らしから脱出したい気持ちでいっぱいだった。
高校を卒業する頃には一人暮らしを始めるには十分な程貯金ができた。
俺はすぐに一人暮らしを始めた。
だから、気づかなかった。
きっと親父はよく家にいた若い女と再婚して、アキを作ったんだろう。
そういうことなら、アキを家に連れてきても俺は誘拐にはならない。
そんなことを考えているといつの間にか俺の隣には風呂から上がったアキが立っていた。
俺がアキの学生証を勝手に見た事がバレてしまったので俺は怒られると思った。
「お兄さん、コレ、勝手に着ちゃった」
と、俺のロンTをパジャマ代わりに着ていた。
俺が学生証を勝手に見た事をアキは気にしていないようだった。
その後、俺はアキに事情を話し、親父と話して、アキを引き取ることにした。
眠れない夜に俺はとんでもないものを見つけたなと、隣で寝ているアキの寝顔を見ながら思った。