116 伝書鳥、ルフ②
マナトは伝書鳥、ルフのその大きさに、ビックリし過ぎて、呆然と、伝書鳥、ルフを見上げていた。
「ぜんぜん、想像してた大きさと違うんですけど……」
「ちなみにこの大きさで、子供だから」
ステラが言った。
「えっ、このサイズで……?」
すでに、立ち姿だけで、2階建ての家相当の高さはある。
顔の先端、漆黒の、美しい曲線を描いたクチバシ。顔全体は茶色だが、目もとは白く、金色の角膜の中、黒いダイヤモンドのような瞳が輝いている。
喉のすぐ下あたりからはもう、茶色の羽毛に覆われており、お腹あたりは白く、フカフカしている。
いまは閉じられている巨大な翼は、外側は黒く、内側は白く、外側の黒い羽は刃物のような固さがあった。
そして、止まり木に止まったその2本の脚からは、グリズリーも真っ青になりそうな長く鋭い爪が生え、丸太をわし掴みにしていた。
「これで、子供なんですか?」
「ええ、そうなの。大人になるとグリズリーを丸呑みできるくらいよ」
「えぇ……」
「一応、空を飛ぶ生物の中では、ウシュムのドレイクを除いて、一番大きいの。ヤスリブの空の番人と言われているのよ」
「……」
もはや、マナトは声をなくしていた。
「よいしょっと……」
ステラは丸太に飛び乗ると、ルフの身体のお腹あたり、白くフカフカしたところに横から手を入れた。
ルフのお腹をまさぐる。
「んっ、あった!」
他国の封書が出てきた。
「あっ、そんなところに封書が」
「そう。封書はお腹の羽毛に入れてるの。これ、伝書鳥の決まり。んでっと……はむ」
ステラは取り出した他国の封書を口にくわえ、今度は長老の家にあった他国へ送る封書を入れ込んだ。
作業を終え、ステラが丸太から飛び降りた。
と、ルフの頭が下がってきた。
ステラが、ルフの頭をなでる。
「ウフフっ、かわいいコ。それじゃ、行ってらっしゃい……チュッ」
ルフのクチバシに、ステラはキスした。
――ファサアァァ!
ルフが、大きな大きな翼を、目一杯広げた。
翼を広げただけで、強い風が巻き起こる。
「交易の前には、必ず村や国に向かって、まずお伺いを立てるの。そのための伝書鳥よ」
風を浴びながら、ステラが言う。
「これによって、かなり交易が潤滑に行われるようになったわ」
「なるほど。相手側と取引きするのを、予め決めておいて、その上でキャラバンが向かうということですね」
「そういうこと。まあ、今回は、交易中止の通達だけどね」
ところが、飛び立つと思われたルフが、広げた翼を閉じた。
「……どうしたの?ルフ?」
ステラが聞いかける。
ルフは砂漠のほうに向くと、そのまま静止してしまった。
ず~っと、砂漠の方面を見て、動く気配が全くない。
「……これは」
なにか察したように、ステラがつぶやいた。
「どうしたんですか?」
「ルフは目も耳も、人間より遥かにいいの。まるで何かを待っているような……砂漠の方面、まさか!」
「えっ、なに?どういう?」
「今度こそ間違いない!帰ってきたんだわ……!マナトくん!中央広場の鐘、護衛担当に鐘鳴らしてもらいましょ!」