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41.世の中顔

 


「…………来たか」

 初老の老人の声が、森の中に木霊する。

 妖精達に案内された森の奥のそのまた奥。キラキラとした輝きが落ち着いてきたそこに、ひとりの小さな老人が立っていた。老人は軽く曲がった腰をそのままに、杖を着いて静かにそこに存在している。

 リックとリレイヌを先頭にその場に集った面々は、視界に飛び込んだ老人の姿に足を止めると、沈黙。シアナが黙った子供たちの代わりに、ゆるりと頭を下げてみせた。

「お久しぶりです。フェルシスさん」

「ああ、久しいな、シアナ様。何年ぶりだ?」

「もう二十五年は経ちますね」

「ほう……時の流れというものは早いものだな」

 笑う老人が視線をリレイヌへ。ぺこりと頭を下げるその姿を見て、小さく目を細めてみせる。

「その子が?」

「ええ。娘のリレイヌです」

「なるほど。名まで貰っているのか。それは良い事だ。しかし、命の在り方がどうも……」

 悩ましげな老人に、視線を向けられたリレイヌは瞬きをひとつ、ふたつ。にこりと花咲くように微笑んだ。老人が眩しいものを見た時のように強く目を閉じ顔にシワを寄せる。

「なんたる破壊力……なんたる顔面APP……くっ、これが美少女の力……ッ」

「フェルシスさん、そういうのは良いので契約の話に移ってもらっても構いませんか?」

 冷めた目で老人を見るシアナに、相手はごほんっと咳払いをひとつ。「あいわかった」と頷くと、リレイヌ、リック、それからその背後にいる睦月たちを見回し、頷く。

「まず契約に必要な第一の素養は持ち得ているようだな」

「第一の素養?」

「魔導を扱えるか扱えないかってやつか?」

 首を傾げた睦月に、「それは第二の素養だ」と老人。静かなその答えに「じゃあなんだよ」と眉を寄せた彼に、老人はこう答える。

「顔」

「かお……」

「契約に際して顔は最も重要な素養のひとつだ。なにせ、我々精霊は契約後、我らの力を分け与えるわけだからな。見目は良くなくてはいけない。──考えてもみろ、相手がデブのチビのブサだったら、力なんぞ貸したくないのが本音だろうが。そんな輩よりもこのプリチーな幼女に力を貸したいだろうが」

 力説する老人を冷めた目で見やる皆は、「やっぱ世の中顔だな……」とぽつり。呟いたそれに深く頷く精霊王を前、ブサイクじゃなくて良かった……、と皆が皆思うのであった。

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