99 ラクト、実家にて
俺の名は、ラクト。
生まれも育ちも、キャラバンの村。生粋の、キャラバンっ子だ。
ずっと、この村で育った俺は、ヤスリブ世界を縦横無尽に巡り、旅し、交易するキャラバン達に憧れていて、いつかなりたいと思っていた。
そしてこの前、とうとうキャラバンとして、アクス王国における交易を経験した。
……まあ、いろいろあったが、無事、交易品を、村へと持ち帰ってくることができ、責務を果たした。
……マナトのヤツめ。せっかく、帰還のときは、村のみんなの前ではかっこよくキメたかったのに、アイツが泣くもんだから、つられて泣いちまったじゃねえか。
しかしまあ、今となっては、いい思い出だ。
帰還した日の夜に、みんなで一緒に飲んだ酒の味は、この先一生、忘れないだろう。
それから、一週間弱。
俺はいま、実家の2階、自分の部屋にいる。
家族は、親父、お袋、それに、妹の4人暮らしだ。
交易から帰った直後は、お袋は抱きつかんばかりの反応だった。息子の無事に、大号泣。息子として、ちょっと引くぐらいだった。
だが……。
――ドン!ドン!ドン!
2階にあるラクトの部屋が、ものすごい勢いで叩かれている。
「ラクト!いつまで寝てんの!しばらく交易する予定もないんだろ!?起きて、ラクダと羊、そんで、馬!」
……まあ、一週間も経てば、こんなものだろう。
完全に、お袋は、交易に行く前みたく、これまでしてきたのと同じように、俺にこき使ってくる。
俺の実家は、村の東部にある広い草地で、畜産業を任されていた。
一日に数回、放し飼いにすることが義務づけられている。お袋は、それをやってこいと俺に言っているのだ。
そんなにお袋とは対照的に、親父はどちらかというと、そこまで家業のことは気にするなと言ってくれている。
親父も元、キャラバンだったのだ。
今は引退し、のびのびと、ラクダや馬、羊と対話しながら過ごしている。
俺がやらなくても、じきに、親父がやってくれることだ。
……そう!俺はもう、キャラバンなのだ!だから……。
……。
「……ラクト?ラクト!」
ラクトの母親の声に、ラクトが反応することはなかった。
「お母ちゃん。お兄ちゃんなら、部屋の窓から脱出して、どこか行っちゃったよ……」
眠そうに、ラクトの妹が、目をこすりながら、部屋から出て言うと、ふぁ~と大きなあくびをした。
※ ※ ※
ラクトは家を脱出すると、一目散に村中央へと走った。
目的地は、砂漠よりの、石造りの住宅が立ち並ぶエリア。
そこに、最近建てられた、マナトの家があった。
キャラバンとしてアクス王国に出掛けている間に、村の大工がマナトの家を造っていてくれたのだ。