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29.手と手を組んで

 


「──リピト家とシェレイザ家が、手を組むことになった」

 目の前に立つふたりの少年。一方は真剣に、一方は無表情に佇む彼らに、睦月とアジェラが驚愕の色をその顔に浮かべて見せた。嘘だろお前、と言いたげな目でリピト家現当主を見るふたりに、リックはその整った眉を軽く寄せ、「なにか文句でも?」と問うている。

「も、文句は、ないんですけど……」

 アジェラが言った。消え入りそうな声で。
 せめて理由を開示してほしいと心の中で呟く彼のその隣、リレイヌを庇うように背に隠した睦月が、威嚇せんとリックに吠える。

「文句? 大ありだね! お前らリピト家は神族に対して信仰心のない奴らばっかりだ! そんな輩と信仰厚いシェレイザ家がいきなり手を組むなんざ、なんか裏があるに決まってる!リレイヌにだって、なんかする気だろ!」

「それ、彼女が神族だと言っているようなものだけどいいのかい?」

「ああん!!??」

「……それに、僕らは手を組むと言っただけ。別に同盟を組むとは一言も言ってない。一時的な握手くらいなら、信仰心があるかないかなんて関係ないと思うが?」

 ぐぬぬ、と黙る睦月に、リレイヌがその腕を引きながら「リックは悪い子じゃないよ!」とフォローを入れた。それにやはり何故かそこにいる操手が「そーだそーだ!」と同意すれば、睦月の立場が徐々になくなっていくわけで……。

「………………はん! 勝手にしろ!」

 最終的に何も言い返すことができず、彼はそう吐き捨てそっぽを向いた。自分の相棒が言い負かされた事実に苦笑したリオルが、「まあ睦月も悪気があって警戒してるわけじゃないから……」と一言。笑みを浮かべて、「でも口は滑らせないで」と注意する。
 注意された睦月は下を向いた。軽く唇を尖らせた彼を、リレイヌがヨシヨシと撫でている。

「睦月のことは置いといて、リピト家と手を組む話に戻るんだけどね」

 リオルは軽い咳払いをしてから、その場にいる者を見回した。そして、一度リレイヌを見て動きを止めてから、しっかりと、前を見すえて口を開く。

「シアナ・セラフィーユを助けるために、僕達は一時的に手を組むことになったんだ」

「え?」、「は?」、「へ?」、の疑問がリレイヌ、睦月、アジェラのそれぞれから発される。ふんだんに疑問符を含んだそれに、リックがやれやれと言いたげに口を開いた。

「シアナ・セラフィーユが今現在どういう扱いを受けているのか、彼女が捕らわれた村の様子を見てきて知った。その夫の最期もね。どんなに信仰心がなかろうが、さすがにあれは見過ごせないと僕は思った。ヒトとしてて、なによりも名家の人間としてね」

「そう。だから今回、リックは僕に手を組まないかと持ちかけてきてくれた。シェレイザとリピトが揃えば、信仰心の強い村人には圧をかけれる。どんなにシアナ様が大罪を犯したとしても、それを囲う名家が雁首揃えて出てくればさすがに奴らは従わざるを得なくなるからね」

「いや……でも……」

 どこか歯切れの悪い睦月がリックを見た。
 紫色の瞳に見据えられた彼は、「僕は僕の意思に従ったまで」と一言。チラリとリレイヌを見て、すぐに視線を戻す。

「僕の意思があの現状を悪とした。だからその悪を消し去るために、大嫌いなシェレイザと手を組んだ。それだけの話だ」

「言うねぇ全く」

 肩を竦めたリオルが、「そういうこと」と一言。にこりと笑い、隣のリックと肩を組む。

「リピト家の力を借りられる今この時に、僕たちで、シアナ・セラフィーユを取り戻そう!手を貸してくれるね、みんな!」

「もちろんです!」と頷くアジェラと、「まあ、そういうことなら……」と渋々な睦月。「俺もがんばりますよー!」と力こぶを見せる操手に微笑み、最後にリオルは黙ったままのリレイヌへと目を向ける。

「いいね?リレイヌ」

 静かで、それでいて固い確認。
 問われたリレイヌは、一度俯いてから、すぐに顔を上げてしっかりと頷く。そんな彼女の瞳は、誰よりも強い覚悟を秘めて、輝いていた。

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