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第三百十四話


 ピムの妹の旦那という少しだけ距離がある人物を紹介してもらうことになった。

 イザークに許可を出した。
 本人たちも、自分たちだけでやれることが限界に来ていると悟っていた。

 仲間内で話をして、俺かルートガーに陳情を行おうと思っていたらしい。
 その為に、ナーシャ(甘味狂い)を行政区に送り出したらしいが、俺やルートガーとは入れ違いになっていたらしい。ナーシャの証言だけなので、イザークも怪しいとは思っていたらしいが、ロックハンドに時折現れる”招かれざる客”の対応を優先した。

 ロックハンドは、ドワーフの里になってしまった方のような状況だ。
 その為に、近隣にある魔の森から現れる魔物程度なら、駆逐は簡単にできる。

 問題は、ドワーフの里の様になっていて、鉱石が大量に取れるダンジョンがあり、魔物もかなりの数が討伐され素材になっている。
 そして、ドワーフたちが武器や防具を大量に作り始める。ナーシャとピムが売りに出ているが、捌ける量ではない。

 どこからか噂話を聞きつけた商人たちが、船を使ってロックハンドにやってくる。
 商人が来るのは、ロックハンド側としてもありがたかった。最初は・・・。売りつける物があり、ロックハンド側にも必要な物資がある。ただ、値段交渉やら、品質やら、面倒なことを、イザークがやる必要があり、徐々にキレ気味になっていた。
 そこに、商人には護衛がくっついている。こいつらが面倒な客だ。
 自分たちでは、何も出来ないのに、いろいろと要求をしてくる、いい武器を出せと言ってくるくらいなら可愛い物だ。鮭がないとか、寝床が安っぽいとか、何様だと思われるような事を平気で要求してくる。

 イザークは、完全に切れた。
 そして、商人のロックハンドへの入場を禁止した。行政区から許可を貰ってきてから来るように言って追い出すようにした。

 ここまで拗れているのに、俺やルートガーの所まで問題として上がってこなかったのは、行政区では、ロックハンドを重要視していない可能性があったからだ。イザークたちには悪いが、ここはドワーフの里として認識されてしまっている。武器や防具を、ロックハンドから持ち出して売っているので、大きな問題ではないと考えられていた。

 イザークたちも、現状では商人の相手が面倒なのと、商人についてくる奴らが気に入らないだけで、ほかは快適だと言っている。
 魔の森だけではなく、ダンジョンでの狩りもできる上に、実入りも大きい。ドワーフたちは、煩いが、それだけだ。鉱石と素材を渡しておけば静かになる。中央大陸にもドワーフの里が出来たことで、ロックハンドに流れて来るドワーフの数も減ると考えられる。

 商人の問題も、ピムの妹の旦那に、ロックハンドで商売を行う許可を出せば、落ち着くだろう。
 俺のやり方をしっている商人は、ピムの妹の旦那に取り入ろうとするだろう。愚か者は、自分たちにも許可を出せと、行政区に言って、妻は時期にされるだけだ。

 ロックハンドは、ドワーフの里。
 イザークには悪いけど、周りには、そう思わせておいた方がよさそうだ。

 ロックハンドで、ピムの妹の旦那が来たと連絡が入った。

「ナーシャ」

「なに?」

「お前、太ったな?」

「え?そんな・・・。こと・・・。ないよ」

「甘い物ばかり食べているからだな」

「だって・・・。美味しい物は正義だよ?」

「わかった。わかった。そんな顔をするな。お前たちなら、魔の森の中に入れば、いい運動になるだろう。あの森なら、苦戦もしないだろう?」

「うーん。苦戦は、しないけど・・・。そうか、運動だと思えばいいのよね?」

「おっおぉ」

「うん。運動のあとのジュースは美味しいから、運動だと思うよ!」

「そうだな。それで?今日の用事は?」

「あっ。ピカの旦那さんが、ロックハンドに来て、出来れば、ツクモ様に挨拶をしたいと言っていたよ。ツクモ様も、ハミに何か聞きたいのだよね?」

「あぁ。ピカというのは、ピムの妹で、ハミというのが、旦那の名前だよな?」

「うん。そう。イザークが説明しなかった?」

「・・・。お前たちは・・・。まぁいい。それで?」

「ん?」

「予定は、どうなっている?」

「あぁツクモ様の都合で、ロックハンドに来てくれればいいよ。行政区に来るのなら、1週間くらいは待って欲しいみたい」

「わかった。明日、ロックハンドに行く」

「わかった。伝えておくね」

「ん?ナーシャは、ダンジョンを抜けてきているのか?」

「うん。その方が早いからね」

「はぁ・・・。まぁいい。誰かに見られるなよ」

「うん。大丈夫」

 何が大丈夫なのかわからないが、あのダンジョンは決められた物しか通過できないようになっている。
 あの通路が知られてしまうのは、いろいろと話の整合性が崩れてしまうから、秘匿しなければならない。知られてしまったら、ロックハンドを公開して、特別なダンジョンだと言えばいいと思っている。

 翌日になって、ロックハンドに向う。
 相変わらず、槌の音が響いている。

「ツクモ様」

 待っていたのはピムだけだ。

「ピム。そんなに緊張してどうした?」

「ははは。そうですよね。妹とハミの緊張が移ってしまって・・・」

「二人は?」

「あまりにも、緊張が凄くて、立っているだけで、吐き出しそうだったので、イザークが家に留めています」

「何を、そんなに緊張して・・・」

「はぁ・・・。ツクモ様。確かに、ツクモ様は気楽で接しやすいお方だと思いますが、世間では、どう思われているのか知っているのですか?」

「ん?怠け者?あぁ違うな。優秀な人物で優しさに溢れる統治者と、いう所か?」

「ははは・・・。はぁ・・・」

「どうした?」

「いやいや。怖いと思っただけですよ」

「怖い?こんなに慈悲深い人物が?敵対した者たちも許して、優しく声をかけて、優しくいろいろと教えてあげている俺が?怖い?」

「・・・。そうですね。実際に、ツクモ様と付き合いがあれば、噂が間違っていると解るのですけどね。噂しか知らない人は、怖いと考えるでしょう」

「だから、その噂は?」

「”魔王”というのが、通り名ですね」

「ほぉ・・・。魔王?俺は、魔を束ねる王か?」

「あながち間違っていないでしょう?」

「ん?カイたちのことか?」

「そうですね。元々は、アトフィア教の連中が広めた話らしいですけどね」

「ほぉ・・・。ピム。その噂の出元を調べて欲しいけどできるか?」

「え?」

「なんとなく、作為的な物を感じる」

「わかりました。聞いた話では・・・。怒らないでくださいね」

「ピムに?怒りは、アトフィア教に向くから安心しろ」

「よかった。アトフィア教の連中は、獣人族を束ねるツクモ様を、魔を束ねる王として、魔王と呼ばれていると言い出したみたいですよ」

「ははは。俺だけなら許そうと思ったが、獣人族を”魔”と表現するか?あのクズどもは、潰さなければ解らないようだな」

「っひ」

「悪い。そうだ。ハミに、話を聞きたいけど、大丈夫か?」

 ピムが難しそうな表情をするが、少しだけ考えてから頷いたから大丈夫なのだろう。

「なぁピム。もしかして、俺が”聞きたいことがある”と言った事が、緊張の元か?」

 ピムが、申し訳なさそうに頷いている。
 伝言にナーシャを選んだ俺のミスだな。

 イザークやピムなら、相手の心情を考えて、問題がないことを先に伝えてから、話をしただろう。

「そうか・・・。ナーシャが”ツクモ様が何かしらないけど話を聞きたいらしいよ”とでも伝えたのか?」

 ピムは、申し訳なさそうに頷いた。
 これで、筋が通った。

 魔王という話も、最初は隠語に使っていたのだろうけど、”王”と”魔”がついている事から、怖い人だと勝手に話が広がった可能性がある。
 それだけを聞いていたら、話を聞きたいと言われたら、”何を聞かれるのか?”や”間違ったことを言えば、殺される”とでも考えたのだろう。

 まぁ誤解はイザークが必死に解いているのだろう。

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