95 オアシス/スナネコ
灰色の毛並みの、モフモフの小さな胴体に、通常のネコよりも短い前脚と後ろ足。また、大きくて尖った耳に、大きくクリッとした目の、小柄なネコだった。
鳴きながら、小さな鼻をクンクンとしている。おそらく焼き魚に反応して姿を現したのだろう。
……か、かわいい!かわいすぎる!!
その愛くるしい姿に、一瞬でマナトは悩殺されてしまった。
「あぁ、なんだよ。スナネコじゃんか」
ラクトが拍子抜けした様子で言った。
「だな。あれも食うか。ラクト、いけるか?」
……はっ?
ケントが、魚をとる際に使用していた網をラクトに渡した。
「うぃっす」
――ヒュッ。
マナトの隣にいたラクトの姿が、もうなかった。
――バサッ!
「ほい、捕まえました」
「うぃ〜!お見事〜!」
――ニャウー!ンニュァアー!!
一瞬でラクトはスナネコを捕獲した。網の中でスナネコがじたばたしている。
「ちょ、ちょっと待って!タンマ!タンマ!!」
マナトは慌ててラクトのもとへと走り寄った。
「どうした?」
「いや、まさか、食べないよね!?」
「いや食べるっしょ。とりあえず首折って……」
「だ、ダメ〜!!」
マナトは叫びながら、スナネコの入っている網をラクトから引ったくった。
「ぼ、僕が前にいた日本では、猫を食べる習慣がなくて!それどころか、この世界のラクダみたいに、パートナーとして飼ったりしていたので!だから、目の前で首折られるのも、ちょっとキツいというか……」
「おぉ、マナトが焦ってる……」
「おいおい、マナト……」
ラクトとケントは困ったように苦笑した。
ちなみにミトはやり取りに介入することなく、焚き火のそばで、魚をいい感じに焼き続けていた。
……いや、これは、僕がこの世界に順応しないといけないのか!?
2人の困り顔を見たマナトは、ふと、そんな思いにかられた。
どうすればいいか分からず、腕の中にいるスナネコを見た。
スナネコは、じたばたするのをやめ、短い前脚と後ろ足をくの字に曲げていた。スナネコの特徴か、身体だけでなく、脚の裏の肉球部分まで毛でモフモフだった。
そして、無垢な眼差しをただ、マナトに向けている。
「だ、ダメだ〜!!こんなかわいいコを食べることなんて、出来ない〜!!」
ケントもラクトも、あまりわめくことのないマナトが、大声で取り乱しているのを物珍しそうに眺めていた。
「……い、いや、まあ、マナトがそこまで言うなら」
「みんな~!焼けたよ~!」
そんなやり取りをしている間に、焼き魚は出来上がり、皆で食べ始めた。
マナトはスナネコを網から解放してやり、焼き魚を少し分け与えた。
スナネコは夢中で焼き魚を食べていた。
――ニャ〜。
食べ終わり、あぐらをかいて座って食べるマナトの足の上にスナネコはやってきて、ちょこんと座った。
……はう!!か、かわいすぎるんですけど!!
「あっ、珍しいね。スナネコが人間に懐くことって、ほとんどないのに」
ミトが、マナトの足の上に座るスナネコを見て言った。ケントとラクトはさほど興味なさそうに、焼き魚を美味しそうにほおばっていた。