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11.優しい眼差し

 


「まあ!なんてお可愛らしい!」

「愛くるしい容姿!小柄な身長! 艶やかな黒髪に透き通るような美しい瞳!」

「まさに天使と形容するのがふさわしい容姿のお嬢様ですわ!」

 ウンウン、と頷くリオルをよそ、リレイヌは突然囲んできたメイドたちにサッと顔色を青くした。

 後日、すっかり元気になったリレイヌを着替えさせようと、リオルはメイドに衣服の手配を頼んでいた。これに頷いていたメイドたちは、初対面したリレイヌに歓喜を表す。これは腕が鳴るぞと楽しげな彼女らに、リレイヌは震えながら「り、りおる……」と友人を呼んだ。リオルはそうだった!、と言いたげに、慌ててリレイヌを囲むメイドたちをバラけさせる。

「ごめん! この子ヒトに囲まれるの怖がっちゃうから……出来るだけ囲まないように接してあげてくれないかい?」

「なんと! そうだったのですね! そうとは知らずに無礼を失礼致しました!」

 サッと頭を下げたメイド長が、リレイヌの目線に合わせるように膝を曲げた。「はじめましてお嬢様」と告げる彼女に、リレイヌはパチパチ目を瞬く。

「私はビアンテ。この屋敷、そしてシェレイザ家の皆様に仕えるメイド長です。今宵はお嬢様の新しいお洋服を選びに呼ばれました」

「お洋服……」

「そうです。我々が腕によりをかけて、お嬢様を世界一可愛らしくして差し上げますので、どうぞ怖がらないでくださいな」

「世界一可愛らしく……」

「可愛らしく?」と小首を傾げたリレイヌに、ビアンテたるメイドは「ガハッ!!!」と倒れた。メイドたちが「メイド長ー!!!!」と叫んでいる。

「くっ、可愛らしいっ! なんて愛らしい子なのっ! 可愛すぎてはなまる100点ハッピーセットをあげたいくらいですわっ!」

「なんて?」

「独り言です睦月様。……しかし、この世界一可愛いお嬢様をさらに可愛くするとなると……死人出るんじゃないですか? 大丈夫ですかね?」

 ハッと呟くビアンテに、リオルは苦笑。「まあ、その時はその時だよ」と軽く流して、キョトンとしているリレイヌの肩を叩く。

「リレイヌ。ビアンテたちに服を選んでもらって着替えておいで。君もシェレイザ家に住む者として、相応の格好をしないとね」

「相応の格好……」

「わかった」、と頷いたリレイヌが立ち上がったビアンテの傍へ。「お願いします」と頭を下げる彼女に、「まあ! よく出来た子だこと!」とメイドたちは感動する。

「きっと、お嬢様の親御さんは、素敵な方たちなのでしょうね」

「……」

 リレイヌは目を見開き、やがて無邪気に笑った。嬉しげなソレに、ビアンテやメイドたちは眩しいものを見るかのようにギュッと力強く目を瞑る。

「……大丈夫かよ」

 呟く睦月。

「ははっ、大丈夫さ。それに、ココには女の子がいなかったから、みんな嬉しいんだろう」

 わいわい騒ぐメイドたちが囲まない程度の距離感を保ちながら、リレイヌを衣装部屋へと誘導。残された睦月とリオルはそんな彼女らを見送ると、アジェラでもからかおうかと、二人で使用人の元を訪ねるのであった……。



 ◇◇◇



「お嬢様! こちらのワンピースドレスは如何ですか!?」

「いえいえ! こちらのフリフリな感じのドレスも捨て難いですわ!」

「色はやはり白を!」

「お嬢様の瞳に似合う青を!」

「こらこらお前たち。お嬢様が戸惑っているでしょう? そんなに押し付けてはいけないわ。──お嬢様、ビアンテめはこちらのワインレッドの衣装が良いと思うのですが……」

 サッとハンガーにかかったワンピースドレスを取り出したビアンテに、「ずるいですわメイド長!!!」と他のメイドたちが抗議する。私も私もと服を差し出してくる彼女らに目を回すリレイヌは、逃げるようにその輪の中から飛び出した。そうして小さくなる彼女に、ビアンテが「ほら!お嬢様が怯えているでしょう!」と皆を一喝してみせる。

「お嬢様、大変申し訳ありません。この屋敷には女の子がいないものですから、ついはしゃいでしまって……」

「……どうして女の子がいないの?」

「オスの遺伝子が強すぎたんですねきっと。シェレイザ家は生憎と、みんな生えて産まれてまして……」

「はえ?」

「まあそれは置いておきましょう」

 ごほん、と咳払いをひとつ。ビアンテは笑顔を浮かべてリレイヌを見下げる。その柔らかな暖かい視線は、母であるシアナが彼女に向けるのと同じものだ。

「母様……」

 小さく口にしたリレイヌ。その声を聞き逃さなかったようだ。ビアンテは軽く目を見開いた後、じいっとこちらを見るリレイヌに笑いかける。

「リレイヌお嬢様の母君は、どんなお方なのですか?」

「……優しい人。アナタと同じ目をした、優しい……」

「そうですか……」

 悲しげに目を伏せたビアンテ。そっとリレイヌに寄った彼女は、膝を折ると、優しい手つきで怯える少女の頭を撫でる。

「母と思ってくれて構いませんよ。私たちはもう、お嬢様の家族ですから……」

「……でも……」

 でも、私……、と俯く少女に、メイドの長は穏やかに笑った。「ちょっとずつでいいんです。仲良くしましょう?」と小さな手を取る彼女に、リレイヌはそっと目を向け、そろそろと前に出る。

「……私、産まれたらいけない、良くない子」

「そんなことはありません。産まれてダメな子はいないんですよ」

「でもみんな……」

「過去かけられた心無い言葉は捨ててしまえばいいのです。お嬢様はこれから、うんと幸せになるんですから」

 にこり。
 微笑んだビアンテに、リレイヌは少し考え、小さいながらも頷いた。そして、そっと握られた手を握り返し、恐る恐ると笑顔の彼女を見上げる。

「ま、ママって呼んで、いいですか……?」

「はぁ!!!!」

 声を上げ倒れたビアンテに、メイドたちが「メイド長ーーー!!!!」と叫んでいた。

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