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突撃、ルベウス旅団

 先程捕まえた構成員が向かっていた先に本部があるはずだ
 なのでとにかく北上していく
 走ってもどれくらいかかるか分からないので|碧龍《へきりゅう》に乗って行く


 「さぁ乗って」

 「分かりました……」

 |碧龍《へきりゅう》を呼び出し背中に乗る
 パレードに手を差し伸べて背中に乗せる
 パレードは恐る恐る背中に乗った


 「ちゃんと捕まっておいて」

 「はい」

 俺はそう言うと合図を送る。合図を見た|碧龍《へきりゅう》が空へ飛ぶ
 夜風が体に当たり涼しくなる。パレードはそんなことも感じられないほど|碧龍《へきりゅう》の背中をがっしり掴んでいる


 「よくそんな平然としていられますね」

 「慣れてるからね」

 「どうやったら慣れるんですか……」

 「毎日乗り続けると慣れるよ」

 パレードはモゼの答えに絶句した
 高所が苦手なパレードにとって毎日乗り続けるという思考が理解出来なかった

 



 ――――――


 「あれか……?」

 「あれっぽいですね」

 しばらく|碧龍《へきりゅう》の背中で揺られていると草で覆われている平原の中、ポツンと古びた建物が現れた
 おそらくあれが本部だろう。いよいよだ
 見た感じ人気はない。見張りがいることはいるが大した数でもない
 本部だというのに見張りが手薄。気のせいか?


 「見張りが少ないですね」

 「うん……気のせいだといいけど」

 「え?」

 「なんでもないよ。覚悟していこう」

 パレードは小声で言ったモゼの言葉に疑念を持ったが詳しくは聞かなかった
 二人は覚悟を決めた表情でルベウス旅団のアジトを睨んだ


 「ここらへんで降りよう。近づきすぎると良くない」

 「はい」

 見張りに気づかれない距離で降り、ここから先は歩いて向かう
 本部を壊滅するといっても全構成員を倒すのは時間がかかる
 ボスがいるはずだ。大将首を取れば構成員の士気は下がるはず


 「中に忍び込みこもう」

 「分かりました」

 建物の近くまで来ると見張りが松明を持って入り口で立っている
 気づかれないよう茂みに上手く身を隠す
 正面からじゃなくて窓から忍び込みたい。窓がある場所を探さないと

 
 「窓ありますよ」

 「じゃあそこから入ろう」

 パレードが指を差した先に窓があった
 あそこの窓をぶち破って侵入しよう


 「でも、窓を割ったら音で気づかれますよ」

 「それは大丈夫。俺に任せて」

 パレードはモゼの言葉を信用し事の成り行きを見守った
 

 「|消音《サイレント》」

 モゼは魔法を唱えると懐から尖った石を取り出し窓に思い切りぶつける
 窓は粉々に砕け散ったが音は全く立たなかった


 「よし入ろう」

 「……はい」

 パレードはモゼの行動に耐性がつき驚かなくなっている
 パレードの中でモゼはとにかく強くて不思議な人という認識だ


 「ここが本部?思ったよりボロいし、暗い」

 「逆に豪華な建物が本部だったらすぐ気づかれますよ」

 「確かに。|光《ルークス》」

 敵地にも関わらず普通に会話しているが二人の気持ちが緩んでいるわけではない
 モゼが平然としすぎているだけでパレードはそれにつられているだけだ
 モゼが魔法を唱えるとモゼの指先が明るくなる。モゼは指先を暗闇にかざしながら中を進んでいく
 

 「人いないな。どうしてだろう」

 「出払ってるとかですかね?」

 「うーん、やっぱそうなのかな……」

 二人が会話をしながら歩き進めていると正面から足音が聞こえてくる
 足音はこちらに迫ってきており、コツコツと靴が地面に当たる音が次第に大きくなる
 音が大きくなるにつれて二人の警戒度も高くなる


 「侵入者か……タイミングがいいな。ここに残ってよかったみたいだ」

 「誰だ?お前は」

 「私はパトス。ルベウス旅団で幹部をさせてもらっている」

 「いきなり幹部か。お前タイミングが良いって言ってたな。何のことだ?」

 「お前たちがそれを知る必要はない。ここで死ぬのだからな」

 「そうかい……なら力づくで行かせてもらうよ」

 足音が止まり暗闇から男が現れる。男は構成員の証であるフードを纏っている。二人よりもひとまわり程大きい
 男はパトスと名乗ると腰についている剣を抜き構える


 「パレード、行ける?」

 「もちろんです」

 二人も戦闘体勢に入りパトスと対峙する
 モゼとパトスの間で見えない火花が散り、空気が全員に重くのしかかる


 「先手必勝!」

 「っ!(早い!!)」

 先手を取ったのはパトスだった
 パトスは一瞬でモゼの前に現れると持っている剣を薙ぎ払う
 モゼはバク転で剣を交わし、パトスと距離を取る
 早い!強化魔法を使ってるのか?


 「ほぅ。今回の侵入者は腕が立つらしい」

 「じゃなきゃ来ないね」

 「馬の骨とは違うわけか」

 パトスはそう言うと微笑を浮かべた
 こいつ気味が悪いな。底がつかめない
 まだまだ隠してるものがあるものはず警戒しなければいけない


 「|火煙《フレアスモーク》」

 「煙!?|疾風《ゲイル》」

 「ハッ!」

 「危なかった……」

 パトスは魔法で煙幕を焚いた
 モゼが煙幕を魔法で払うとパトスが目の前に現れた
 パトスは剣を薙ぎ払ったがモゼに当たることはなかった
 間一髪で避けたモゼだったが剣の先が服を切り裂いた
 危なかった!ワンテンポ遅れてたら内蔵お陀仏してた


 「モゼさん!大丈夫ですか?」

 「うん。パレードは戦わないほうがいい。こいつ相当強い、から本気出すよ。巻き込みたくないからちょっと離れて」

 「分かりました」

 パレードは何かが斬れる音がしてモゼの元へ急いで駆け寄る
 モゼの言葉を聞いたパレードは少し離れた場所で戦いを見守ることした
 
 
 「大将まで取っておこうと思ったけどここでやられたら本末転倒だしな」

 「何をほざいている?」

 「本気出すって言ってんだよ」

 「お前が本気を出したところで結果は変わらない。お前らはここで死ぬ」

 俺は意識を集中させリミットを解除する
 この全能感が溢れる感覚。悪いものではない
 ここで死ぬのは話が違う。俺たちは死ぬためここに来たんじゃない
 潰すために来たんだ


 「……!なるほど、|本《・》|気《・》を出すという言葉は嘘ではないらしい」

 「覚悟しなよ」

 パトスはモゼの魔力が高まっていくのをみて不敵に笑い剣を構える
 やっぱ気味悪いな。こいつ絶対趣味悪いだろ


 「|炎の大剣《フレイムグラディウス》」

 「……!お互い本気ってことか!」

 「これでフェアだろう」

 パトスは剣を構え魔法を唱える
 魔法を唱えると刀身が炎を纏い熱気を帯びる
 あれ、不思議と暖かくなった気がする。あの剣のせいか?
 決着はすぐ着くだろう。心配なのは建物が耐えられるかっていうこととパレードを巻き込まないかということ


 「|三火炎月《ルベウス・ルナ》!!」

 「|水波動砲《アクアヴァーグ》!!」

 パトスが炎剣を振るうと三日月型の斬撃がモゼに向かって飛んでいく
 モゼは右手に魔力を集中させ魔法を唱える
 モゼが魔法を唱えると水がキャノンのように手から発射される
 炎の斬撃と水のキャノンが激しい音を立ててぶつかり合い建物を揺らした
 炎と水はしばらく競り合った後、水のキャノンが炎の斬撃を飲み込み、そのままパトスも飲み込んだ
 水のキャノンは建物の壁を壊し、外までパトスを押し出した
 パトスは水に飲まれた際の衝撃で意識を失い、剣も2つに割れてしまっている
 

 「はぁ……」

 モゼはため息をつくとフラフラした足取りで先へ進もうとする
 まだ加減が分からない。魔力を使いすぎた。体への負担も大きい
 でも、ここで休むわけにはいかない


 「モゼさん!そんな状態で行くのは危険です!」

 「大丈夫。ちょっと魔力使いすぎただけだから」

 体は回復魔法をかければどうにかなるか
 問題は魔力だな。枯渇しかけてるけど残りの魔力で大将を倒せばいいだけだ


 「ほら、なんてこと無いよ。早く行こう」

 「……はい」

 モゼは大丈夫だとアピールするようにジャンプしたりくるくる回ったりしてみせた
 パレードはその様を心配そうに見ていたが、次第に呆れに変わり返事も躊躇う程であった
 パレードの顔が呆れ顔なのは気のせいかな?気のせいだよね、多分

 
 「目が回って……」

 「もう、行きますよ」

 パレードは回りすぎて目が回っているモゼを連れてさらに奥へと進んだ
 吐き気がする……回るんじゃなかった
 

 「やっぱり人がいないですね」

 「……」

 二人は大将を探して建物内を探し回っているが大将どころか誰もいない
 誰もいないことに確かな違和感を覚え、モゼはしばらく立ち止まり思考にふけていた
 誰もいないことなんてありえるか?出払っているとしか考えられない
 どこに?今可能性があるのはルースしかない。作戦の失敗がもう伝わったのか?
 

 「モゼさん!前!!」

 「えっ?前?」

 パレードの声で思考が止まった。言われるがまま前を見ると赤いフードで顔が半分隠れている男が現れる
 男の背丈は二人より若干大きい。男の左手には杖が握られており、杖は男の身長程あり後端は地面についている
 杖の先端には紅い玉が取り付けられており、暗闇の中で赤い輝きを放っている
 誰だ?こいつ?変な杖持ってるし、こいつがボスか?


 「誰だ?」
 
 「パトスをやったのか……なるほど」

 「なんだこいつ……」

 「俺はビクトリアだ。どうだ?お前たちの力をこの旅団のために使わないか?」

 「ごめんだね。街を燃やそうとする奴らに力なんか貸さない」

 「パトスを打ち破る力、世界にはもったいない!!!是非、我々の仲間に……」

 「ごめんだって言ってるだろ。耳ついてんのか?」

 「そうか……残念だ。敵となるならその力脅威でしか無い。ここで、死ね」

 ビクトリアは吐き捨てるように言うと杖に魔力を集める
 魔力が集まっていく度に紅玉の輝きが増していく


 「|紅蓮の砲火《ルベウスフレア》」

 「|水壁《アクアウォール》」

 紅玉から炎がキャノンのように二人に襲いかかる
 モゼは水の壁を張り攻撃を防ぐ
 あの威力の魔法を容易に出してくる。やっぱり手強いな


 「お前たちは何故このタイミングで来た?」

 「お前たちを今潰すからだよ」

 「ルベウス旅団・本部襲撃の計画はあっただろう。何故それより前に来る?」

 襲撃の計画気づかれてる!?
 ちゃんと情報管理しないとダメだよ
 

 「言ってるだろ。今潰すんだよ」

 「衝動、ということか。ルースを|焼《・》|き《・》|払《・》|う《・》ため、全構成員を向かわせ手薄にしたこの|時《今》に来たことが不思議だったが、お前たちの独断だったか」

 こいつ今、焼き払うって……
 最悪のケースだ。本部なのに人がいないから違和感はあった
 やはり、作戦の失敗は伝わっていたか。それで確実に焼くために全構成員を行かせたのか
 ルースを焼き払って何になるというんだ
 

 「何故ルースを焼き払う?」

 「ルース程の街が我々の手によって焼け落ちれば、世界は我々を恐れおののくだろう。そうして我々は世界を恐怖で陥れ、世界を取る」

 「世界征服だなんて、ガキか」

 「今の世界は格差が広がり過ぎだ。俺なら格差を無くせる。あの帝国が全ての元凶だ。帝国は力を持ちすぎ、腐敗している」

 「お前よりは腐ってないな」

 「俺の手であの皇帝を引きずり降ろして世界に俺の力を示す」

 「分かった、お前はガキの大人だ。結局、自己満足だろ。世界がなんだ、帝国がなんだと語択を並べて自分の欲望を叶えたいだけだ」

 こいつは自分の欲望と世界の問題を都合よく重ねてるだけだ
 こんなやつが組織のトップか。たかが知れる
 でも、強いのは事実。油断は出来ない


 「好きに言え。どうせここで死ぬのだからな」

 「|お前《ガキ》みたいなのに殺される命じゃない」

 「誤った選択をした自分を憎むんだな」

 「誤ってなんかないさ。正しいか誤りかは自分で決めることだ」

 こいつは世界にいるだけで害だ。こんな思想を世界に撒き散らされたら、たまったものじゃない
 害虫駆除といこうか
 アドナイ様、やばいやつに力与えちゃってますよ

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