14話 新たな門出
別にやりたいことがあったわけではないので、美奈は相変わらずハッキングを続けていた。そんな中で、仕事以外にも、興味本位で、色々なサイトをハッキングしてみると、政治家とか、企業トップとかが、裏献金をしていたり、人を騙す相談をしていたりとかしていて、本当にみんな嘘ばっかり。あんな綺麗なこといいながら、悪どいことばかりしているなって思う毎日だった。
一方で、歯医者との関係は深まっており、部屋を行き来しながら過ごしているうちに、結婚しようという話しになっていった。
そこで2人は、まず彼の両親にご挨拶にいった。
「素敵なお嬢さんね。今は俊夫と一緒のマンションに住んでいると聞いたけど、ご出身はどちらなの?」
「両親が海外で仕事していて、いろんな国にいたんです。でも、ある国で、両親が事故で亡くなってしまい、しばらくそこで保護されていたんですが、数年前に日本にきたんです。」
「それは話したくないこと聞いちゃったね。ご両親のご冥福を祈るよ。じゃあ、日本の学校は出てないんだね。」
「そうですね。でも、海外でITの勉強して、今は、IT会社で働いています。」
「どの会社?」
「おそらく、ご存知ないくらい小さい会社です。名前を言うのもお恥ずかしい。」
「結婚したら、お仕事はお辞めになるの?」
「今後のことはわかりませんが、当面は、続けようと思っています。」
「そうなんだ。でも、とっても素敵なお嬢さんだ。俊夫のこと、よろしくお願いするね。」
そんな会話で盛り上がり、2人は帰っていった。
「なあ、結局、美奈さんのこと、具体的なことは何も分からなかったな。俊夫はベタ惚れのようだし、いいかな。」
「そうね。念の為、身辺調査だけしてみましょうよ。」
「そうだな。念の為、念の為。」
その後、その調査結果で美奈と暴力団との関係が分かってしまい、親は大反対となった。
「申し訳ないが、別れてほしい。お金なんて興味ないと思うけど、今回は君のことが原因なので、慰謝料は払わないよ。でも、君が暴力団と関係があったなんて、まだ信じられない。」
「海外から頼る人が誰もいない日本に来て暮らすには、それ以外方法がなかったんだけど、言い訳しても仕方がないわね。わかったわ。では、さようなら。(親がなんと言っても別れないと言うと思ったけど、やっぱり、外見を気にするような、大した人じゃないのね。逆に、今分かって、別れてよかった。)」
<暴力団がバックにいたら、俊夫にも害が出ると思うし、やめた方がいいね。火の粉を振り払って、器用に生きていくのが重要だもんな。一時の感情に流されず、冷静に対応しているお前は立派だ。>
<なんか都合のいい考えね。でも、美奈も、全く落ち込んでいる様子もないし、よかった。俊夫さんと一緒でもいい未来見えないものね。美奈、これからも一緒に頑張ろうね。>
その晩、部屋に戻った奈美は、1人でワインで乾杯をした。
「まあ、よかったんじゃね。俊夫さんのこと、好きだったかというと、よくわからないし。なんとなくの流れで結婚とかになったけど、どうせ、この仕事をしている限り、どこかで破綻しただろうし。まあ、これからもお金いっぱい使って、楽しく過ごすわ。紙幣をこうやって、ばーって投げるのって、気持ちいい。お金、お金。仮想通貨でも、ハッキングして、データを改竄してボロ儲け中だし、明るい未来しか見えないな。」
今の生活に関心がなくなった美奈は、マンションを売り払い、海外でハッカーとして活動することにした。ちょうど、中国政府が募集しているという情報が入り、すごい金額の収入が提示されたことと、プール付きの広い一軒家とか、破格の条件が提示されたので、今度は、中国で活動することを決めた。なんか、中国人として登録して、共産党員にするとか言っていたけど、メリットは何があるのか分からない。
「日本にとって、いいことか分からないけど、日本に恩義はないし、世の中は金だもんね。日本では、銀行口座を作れなかったのも困っていたんだ。さあ、世界のマーケットでもっと儲けるぞ。」
その2日後、暴力団事務所に、美奈がいなくなったとの情報が入ってきた。
「なんだって。美奈のやつ、部屋にいないって。あいつ、裏切ったな。どこに行ったんだ?」
「中国のようです。」
「そうか、じゃ、探してもダメだな。中国は、俺たちなんて太刀打ちできないブラックなハッカー組織がいくつかあって、政府とつるんでやがる。そんな奴らと戦争しても消耗戦になるだけだからな。ただ、これまで十分に稼がせてもらったから、よしとするか。次のカモを探そう。」
その会話がされている時、美奈は、中国の北京空港に到着し、入口で政府官僚が美奈を待っていた。
「你是美奈吗?」
「是的,我是美奈。你好。」
<なんとかここまで生きてこれたのはびっくりね。あなたは、本当に強運の持ち主よ。守護霊である私のお陰ね、とは言ってみたけど言い過ぎ? 私は平凡な人生だったけど、美奈は、なんかハードボイルド映画の主人公みたい。男性希望だったけど女性の生活を見ることになっちゃったと言ったけど、これはこれで面白いかも。これからも、この図太さで生き残ってね。私も応援するから。>