うちら陽気なかしまし幽姫 其ノ三
「おおぉぉぉ~~!」
思わず感嘆に見入るわたし。
テーブルの上に置かれた大皿は、それはもう見事な逸品なのでした。
数日後、
わたしのバイト先〈和風喫茶ヨシダ〉に。
「菊花ちゃん、ナポリタン出来たよ」と、キッチンから店長の声。
でも、カンケーない。
オーダー入ってるけどカンケーない。
いまはお皿タイム。
「ごめんなさい。私、価値とかよく分からないんですけど……」
申し訳なさそうに言う
「でも、古いけど〈骨董品〉じゃないと思う……」
「いいかな?
「菊花ちゃん、ミックスサンド出来たよ」と、キッチンから。
でも、カンケーない。
いまは、お皿ジィィィーー……。
「それは、そうですけど……」
「例えばね? 外れ馬券を後生大事に取ってる眼帯女や、元カレの(ピー)を未練がましく持っているビッチもいるんだから」と、お皿ジィィィィィーーーー……よだれツゥゥーー……。
そんでもって、ギシィ!
「いい度胸してるじゃねぇか? 皿バカ?」
「
「イダダダ! ギブ! ギブギブギブ!」
背後からキャメルクラッチ喰らわされた……。
疫病神×2だ。
チッ! 来やがった!
この至福のお皿タイムに!
店長が半ベソでピラフを運んでいた。
でも、カンケーない。
店長もバイトもカンケーない。
お皿の前には万人平等。
お皿様は差別しない。
「ふぅん? コイツが例の皿か?」と、正面相席の眼帯女が関心薄く品定め。
「何か……こう……思っていたのと違いますわね?」と、その隣席のビッチがお皿様に失礼な感想。
「だよな? もっと高そうな物だと思ってたぜ?」
「正直、フリマで百円の叩き売り値でも買い手がいなさそうですわね」
とか無礼極まりない発言連携後、
どういう意味かしら?
「もう! 分からないかな! このお皿の素晴らしさが!」
「いえ、その中央にデカデカと描かれた『ミッ●ィーのパチモン』が総てを物語っていますわよね?」
「ガキの落書きみてぇだな? アタシでも描けそうだ」
「コレは個性! この子の個性!」
「個性、デッサンガタガタですわよ?」
「左手で描いたのか?」
「失礼ね! もうプイッだもん!」
ほっぺ膨らまして
「ま、少なくとも〝骨董品〟ではありませんわね」
「何かの景品か? 春のパン祭りとか?」
「ごめんなさい……おじいちゃんの形見だから、てっきり〝古い物だし価値があるかも〟って思い込んでいたんですけれど……事前に物置から出して見ておけば良かった……」
また、
可憐で儚げな女子中学生の涙声……。
これには、さすがに〝ゲスの極みオバケ×2〟もバツが悪くなったようだ。
「ま……まぁ、貴重な事には違いないんじゃねぇのか? アタシも見た事無いキャラクターだしよ? ハハ……ハハハ……」
「い……一応〝骨董品〟には違いありませんわよ! 古い! そう!
「で……でも!」
「「大丈夫、いざとなったら〈鑑定団〉に金握らせるから」」
何を言い出したのかしら?
「問題無いよ?
「お菊さん?」
しばらくぶりの懐かしい呼び方だわね。
「ねぇ?
「え?」
「
「いや、飯食うためだろ?」
「盛るためですわよね?」
うるさいわね! ゲスの極みオバケ×2!
「わたしの笑顔を見て分かるでしょ? わたし、いま、こーんなに〝幸せ〟なの★」
「……お菊さん」
「おーい? ヨダレ拭けー?」
「鼻血もですわー?」
「どんなお皿も、お母さんの料理を子供に届けて……空腹でさもしくなった心には温もりを届けて……元気と愛情で満たしてあげて……スゴいよね?」
「お菊さん……」
「うふふ♪ 」
「スゴいなぁ、お菊さん……私、そんな風に考えた事なんて無かった……スゴいなぁ……」
「ふふ……ふふふ……ふふふふふふふふふふふふふふ♪ 」
「え? あの? お菊さん?」
「お皿萌えぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーッ♡ 」
「おーい? お菊ー? 帰って来ーい?」
「警察沙汰にはならないようにー?」