第102話 報酬と褒美?
「此度の働き、誠に大儀であった」
「……ありがとうございます」
俺はミノラルにある王宮にて、国王を前に片膝をついて頭を下げていた。
国王と俺のやり取りを見ているのは、この国の騎士団と貴族のような人々。冒険者なのは俺とリリの二人だけ。
一体、何が起こればこんなことになるのか。
なんとなく、そうなるんじゃないかとは思っていたが、ここまで大事になるとは思っていなかった。
国王の隣には薄桃色のドレスに身を包んでいる金髪の女の子がいた。精巧な造り物みたいに整った顔立ちをしていて、国王の隣に立っているだけで絵になるような気品が確かにあった。
……何を隠そう、その人物がイリスだったわけで。
「我が娘を救い出した褒美を与えよう」
「……ありがとうございます」
当然、下々の人間である俺が国王に何か口を出せるはずがなく、俺はただただ感謝の言葉を述べることしかできなくなっていた。
本当にどうしてこうなったのか、時は少しだけ前に遡る。
「あ、アイクさん、お久しぶりです」
俺たちはワルド王国を抜けて無事に馬車に合流することができた。気を失っていたイリスもしっかりと目を覚ましてくれたのは助かった。
そして、俺たちは数日間馬車で揺られて、ミノラルまで無事に帰還したのだった。
馬車がミノラルに着いたところで、冒険者ギルドにクエストの達成報告をするからと言って馬車を降ろしてもらって、俺は冒険者ギルドのカウンターへと向かった。
カウンターにいたミリアはいつもと変わらない笑顔で俺たちを迎えてくれて、その光景を見てミノラルに無事に帰ってきたことを実感したのだった。
「お久しぶりです。えっと、ガリアさんって今いますかね?」
「おっ、噂をしていればだな。アイク、リリ、お疲れさん」
俺たちがミリアに声をかけていると、奥の応接室から微かに笑みを浮かべたガリアが現れた。
そして、その隣には少し落ち着きを失くしているようなハンスさんも一緒だった。
「エリス様をーーいえ、イリス様をお救いしてくれたというは、本当ですか?!」
「え、ええ。あれ? なんでもう知ってるんですか?」
俺はその情報がもう伝わっていたことと、取り乱した様子のハンスの態度に少し驚いていた。
ハンスさんって、勝手に何事にも動じないタイプだと思っていたのだが。
俺がそんなハンスの意外な態度に驚いていると、ハンスは俺の反応に気づいたのか、小さく咳ばらいを一つした。
「すみません。少し取り乱しました。騎士団――いえ、御者の者の使い魔から手紙が届いていたので」
「なるほど。……あっ、たぶん、まだその馬車外にいますよ。どうぞ、お構いなく行ってあげてください」
「そうでしたか。アイクさん、リリさん、本当にありがとうございました。このお礼は、後日改めて正式な場を設けさせていただきます」
ハンスは俺たちに深くお礼を一つすると、冒険者ギルドの前で待つ馬車の方へと少しだけ速足で向かって行った。
どうやら、表情に隠していてもイリスのことが心配みたいだった。
「……正式な場、か」
もうイリスの正体もほぼ分かってきてしまったけど、今の発言でほぼ確定したといってもいいだろう。
そうなると、今回救出したことでどんなお礼を受け取ることになるのだろうか。
報酬に対するワクワクなんかよりも、身の丈に合わな過ぎる物を貰いそうだよな。
……どうしよう、なんか不安になってきたな。
「本当に助かったぞ、アイク、リリ。まだ詳しいことは言えないが……国を救ったと言っても過言ではないだろうな。それと、この冒険者ギルドもだ」
「本当に過言じゃない気がして、あまり良い気がしませんね」
自分が気づかないうちに、何か大きなものに巻き込まれている気がする。
そんな俺の予感は見事に的中することになった。
数日後。王族が使うような豪華な馬車が俺の屋敷まで来て、俺たちを王宮へと連れだしたのだった。
そして、時は現在に戻る。
王宮に正式に招かれるなんて経験がない俺たちは、ハンスに最低限の受け答えの作法だけを教わって、少し委縮しながら受け答えをしていた。
黙ってお礼だけ言っておけば何とかなると聞いていたので、俺は王の言葉にただ返事だけをしていた。
それでも、お礼という言葉に微かに反応してしまっていた。
やはり、ここは金一封辺りが手堅いだろう。お金はあって困る物じゃないし、貰える分だけ貰っておきたいのが本心でもある。
そこまで考えたところで、ふと思い出したことがあった。
あれ? そういえば、前にハンスさんが報奨金以上の報酬がどうとか言っていたような気がーー
「ふむ。そなたには金一封と騎士爵の身分、屋敷を土地付きで授けよう」
「……へ?」
そして、俺は思いもよらない言葉を受けて間の抜けたような声を漏らしてしまった。
冒険者の俺が騎士爵?
「あ、ありがとうございます」
状況も理解できずにただそんな言葉だけが、俺の口から漏れ出ていた。
こうして、俺は本日付で騎士爵になったのだった。
……いや、なったのだと言われてもなぁ。