60 尾行①
その後、3人は声を潜め、料亭の前までやってきた。そして、料亭横にある草木の茂みに身を隠した。
料亭は、石の柱の上に建つ高床式になっていて、階段を上がった先に入口の扉があるという外観をしていた。
石の柱の上に建っているため、他の王国内の建物よりも頭ひとつ高い。
マナトは外から料亭を眺めた。
窓から光が漏れている。時おり誰かの声が聞こえる。だが喧騒というほどの大きさではない。
「……」
まだ人はいるが、もう客はいないといった感じだ。
――カチャッ。
料亭の扉が開き、料理人が2人出てきた。大きな樽を持っていて、重そうにしながら階段を降りる。
そして、料亭の下にあるスペースにドンと置いた。
「よし、これで終了だ」
2人の料理人は階段を上り、扉を少しだけ開けた。
「亭主~、すみませ~ん!ゴミ出し終わりました~!」
「ご苦労さま~!もう、あがっていいよ~!」
亭主の声は大きい上に、よく響く。マナト達にも話の内容が聞こえてきた。
「亭主はまだあがらないんですか~?」
「新しい食材が王宮から届いたんだよ~!オリーブっていうんだけど、それをちょっと調べてから帰ることにするよ~!」
「あまり無理しないで下さいね~!」
「ありがとね~!私も、間もなくあがるからね~!」
「お先にあがらせていただきま~す!
「お疲れさ~ん!」
料理人2人は、扉を閉めると、楽しそうに会話しながら、王国の広場のほうへと消えていった。
少し経った。まだ亭主は出てこない。
「……」
……なかなか働きものだなぁ、亭主。
マナトはそう思いながら、ミトとラクトを見た。
「……」
「……」
2人とも、緊張している。彼らの心の中ではもう、戦いは始まっている、そうマナトは思った。
基本、現行犯でないと、ジンであることを証明することは困難であるという、ミトの意見に従い、亭主を尾行することに決めた。
そして、もし誰かを襲うようものなら、阻止する。
……ジン。どれほど、強いんだろうか。
――カチャッ。
「……!」
亭主が出てきた。
マナのランプに顔が照らされる。相変わらずの恰幅のよさと、ニコニコ顔。
「フゥ~」
しかし、少し疲れているのだろうか、亭主は扉を閉めると、一度、大きくため息をした。
そして、階段を降りてくると、先に料理人達が歩いていった広場のほうに、亭主も歩いていった。
「……広場のほうに向かってるな」
「……ああ」
小さい声でラクトとミトが言う。
「よし、後をつけようぜ」
「ちょっと、一瞬待って!先に調べたいことが!」
マナトはサッと飛び出して、マナのランプのあたらない暗がりを選んで素早く移動した。
そして、料亭の下の、先に料理人達が置いたゴミの樽をのぞきこんだ。