第16話「これで終わりと思うなよ」
午後8時。警視庁本部取調室。その中ではミュータントの力を封じ込む特別な手錠と足枷で拘束された連続殺人犯のタカシと捜査一課警部の雷光匙守音が1台の机に向かい合って座っていた。それから匙守音の横には彼女の部下である白鳥も立っていた。
「さて……取り調べを始めるわよ……まず始めにあなたが一連の殺人及び傷害を行った理由についてなんだけど……"殺人ゲーム"……なんですってね?これは一体どういう事なのかしら?」
匙守音の発言にタカシは顔をしかめた。
「…………なぜそれを……?」
「あなたが昨夜に襲った少女から聞いたのよ」
「ほ~ん……アイツか……」
「で?殺人ゲームって一体何よ?」
匙守音の問いにタカシはしばらく沈黙する。そしてそれから少し経った後にかったるそうに口を開いた。
「何って……言葉の通りさ、殺人するゲームだよ」
「殺人するゲーム……ね……じゃあ何か?殺した2人の女性、それから殺しかけた1人の少女には何の接点や恨みもなくゲーム感覚で殺害及び傷付けたって事?」
「そのとおり」
「なるほど……中々のイカれ野郎ね」
「へへへ、最高の褒め言葉だぜ」
タカシはニヤリと笑って答えた。そしてその後匙守音は懐からファイルの様な物を取り出して開いて読み上げる。
「あなたの経歴を色々と調べさせてもらったわ……霧崎タカシ、歳は26歳、2017年4月5日に建設作業員の父とスナック店員の母の間に生まれ、長年虐待を受けながら育つ、そして8歳の頃……日々強くなっていく両親の虐待に痺れを切らしたあなたはある日の晩に2人が寝室で寝ているところをハンマーを使って頭を数十回殴打し殺害、そしてその後は児童自立支援施設に入れられそこで4年間を過ごす……」
匙守音はここで一旦話をやめ、タカシの方へとチラッと視線を向けた。するとタカシは苦い表情を浮かべながら視線を下に向けた状態で激しい貧乏ゆすりをしていた。ここで匙守音は思った。恐らく今自分が話した内容はこの男にとってとてつもなく嫌な記憶なのであろう。そんな中で彼女は話を再開させる。
「あなたが超能力に目覚めたのは今から13年前の13歳の頃、ある日街中を歩いていたところを地元の有名不良グループにカツアゲされそうになり、それを拒んだ結果路地裏に連れ込まれリンチされる、そしてリンチされている最中に突如超能力が覚醒、その後能力を駆使し全員をバラバラに斬り裂いて殺害、その後はたまたま近くを通りかかった通行人に通報され警察に逮捕されミュータント用少年院に5年間収容される、少年院を出所後は精肉店に就職、そこでは特にトラブルも起こす事なく真面目に働いていたがある日に些細な事から同僚と口論となりカッとなってその同僚の手首を切り落とし懲戒解雇&逮捕され懲役1年の実刑判決を受ける、で、出所後すぐに今回の事件を引き起こした……って訳ね?」
匙守音はここでファイルを閉じた。するとタカシはパチパチと拍手をした。
「ブラボーブラボー……よく調べたなぁ~……そんな長々と」
「仕事だからね……それよりもなぜ殺人ゲームなんてものを行おうと思ったの?社会への恨み?」
匙守音の質問にタカシは沈黙する。
「……答えたくないって感じ?」
匙守音がそう聞くとタカシはゆっくりと口を開く。
「…………誘われたのさ」
「誘われた?どういう意味?」
「なぁ……あんたらこう思ってるだろ?俺を捕まえた事によって街に平和が訪れる……だがそりゃあ大きな間違いだぜ」
「??一体何を言ってるの?」
「俺が逮捕……いわばゲームオーバーとなった事によりまた次のプレイヤーが現れ殺人ゲームを始める……東京はまた恐怖に包まれるだろうぜ」
「だから一体何の話よ!?」
匙守音は大声をあげて机をバンッと叩いた。そんな彼女を見たタカシはニターッと薄ら笑いを浮かべた。
「まぁまぁ落ち着けよ刑事さん……カツ丼食わせてくれたら全て洗いざらい話してやるよ」
「カツ丼!?」
「ああ……腹ペコなんだ」
「チィッ……みおちん、出前取って」
「はい」
白鳥は出前を頼んだ。
「───ふい~……ごっそさん」
出前のカツ丼を完食したタカシ。
「さあ、腹を満たしたところで全てを話してもらおうかしら」
「いいぜ……話してやるよ」
その後タカシは匙守音に全てを話した。その内容はこうであった。タカシは刑務所を出所後に渋谷の街で食料を求めてゴミを漁っていたところを右肩に蛇のタトゥーを入れた緑セミロングヘアの女に声をかけられた。女は"殺戮会"という組織のリーダーを名乗り、タカシに組織に入らないかと持ちかけたのだという、さらに女はこう語ったのだという、「組織に入れば美味いものを食べさせてあげる」と。それに対して腹ペコだったタカシは二つ返事でついていく事に決めたのだという。
タカシがタトゥー女に案内されて着いた場所は渋谷にあるテナントビルの広い一室であった。そこには見るからにカタギじゃなさそうなヤバそうな男女が数名いたという。聞くところによるとその者達は全員ミュータントであったそうだ。そしてその後タカシはタトゥー女から牛丼とお~いお茶を貰い、食した。そしてその後にタトゥー女が組織の事をタカシに詳しく語ったのだそうだ。
殺戮会とはタトゥー女が今から2ヶ月程前に各地からならず者ミュータント達を多数集めて結成した殺人ゲームを行う組織であるという。ちなみに殺人ゲームのルールはこうである。まずはあみだくじでゲームを行うプレイヤーを1人決める。そしてその後プレイヤーはタトゥー女から制限時間及び殺害人数、殺害ルールを宣告される。
例えばタカシの場合は渋谷内にいる短髪女性を72時間以内に警察を挑発しながら25人バラバラにして殺害するというものだった。ちなみに見事にゲームをクリアした者には賞金30億が与えられるのだそうだ。そして失敗した場合は再挑戦などのチャンスは一切与えられずに組織から永久追放されるのだそうだ。最後に補足であるがゲーム中には1人監視役がつくそうである。ちなみにその監視役はプレイヤーが殺した人数をカウントするだけで手助けなどを一切してはいけないらしい。
「なるほど……メンバー全員ミュータントの殺戮会ね……ちなみにそのリーダー女の名前は?」
「知らん」
「聞かなかったの?」
「聞いたけど教えてくれなかった」
「なるほど……ちなみになぜその女はそんな組織を結成したのか聞いた?」
「なんとなくって言ってたぜ」
「なんとなくね……ところでその話に出てきたテナントビルってどこよ?」
「知ったところで無駄だと思うぜ」
「なぜ?」
「あいつら俺が捕まった事を知って今頃は別の場所に移ってるだろうからな、けどまぁ一応教えてやるよ、東1丁目にあるセブンの目の前にあるビルだ」
「ああ……あそこか……というか今更だけどあなたやけに素直にベラベラと話すわね、組織のメンバー達に対する仲間意識とかはない訳?」
「ふん、出会って数日の連中にそんなもんあるわけねぇだろ、とっととこんな空間から解放されたいから何でも素直に話すぜ」
「なるほどね……よし、取り調べはここまでよ」
匙守音はここで取り調べを終了とさせた。その後タカシは拘置所に入れられ、一方で匙守音は警視庁内のどこかへと向かって歩いていった。