第96話 潜入失敗?!
「時間だな」
俺とリリは夜が更けた時間に、再び教会の近くにやってきていた。
街の方は祭りの後ということもあり、まだ少しの喧騒が続いているようだった。その喧騒の声と夜に紛れて、俺たちはそっと屋台で買ったものを身に着けた。
「なんだか本当に悪いことをするみたいですね」
「ちゃんと着けておけよ? 顔がバレたら面倒だからな」
俺たちの顔には、昼間屋台で買っておいた仮面が着けられていた。
仮面はピエロの顔に書かれているような柄をしており、俺たちのパーティ名にピッタリ仮面だった。
リリの仮面は俺のとは少し柄が違うが、俺もリリも仮面を被ると怪しい人物になっていることには変わりなかった。
「似合ってますよ、アイクさん」
「リリも似合ってるぞ。あー、ごめんな。ポチの分は買ってなかったんだ」
「くぅん」
足元で俺に体をすりすりとさせているポチは、俺たちの仮面を見て物欲しそうな声を上げていた。
潜入するのは【潜伏】のスキルを持つ俺とリリだけ。ポチには教会の前で待っていてもらって、いつでも逃走できる準備をしてもらうことにした。
俺たちがやるのは捕らわれた女性の救出。盗賊団の殲滅ではないのだ。
可能な限り盗賊団にもバレないで潜入して、女性を救い出したい。そうなると、潜入するのは【潜伏】のスキルを持つ俺とリリだけの方が良いはずだ。
「それじゃあ、ポチはここで一旦お別れな。隠れていてくれ」
「きゃん」
「よっし。それじゃあ、行くぞリリ」
「はい」
俺はリリに視線を向けて確認した後、【潜伏】のスキルを使用して教会の入り口へと回り込んだ。
【気配感知】で中の様子を確認すると、多くの気配を感じるのは教会から少し離れた建物の方だった。
さすがに、教会に盗賊団が入りびたるのも問題があるのだろう。教会の敷地内で匿ってもらっているという状況なのだろう。
数十の気配の数的に、離れにある建物の方には近づきたくはないな。
……とりあえず、教会の方から調べることにするか。
教会の正面には、夜遅くだというのに門番がいた。
あまり見た目で判断するのはよくはないのかもしれないが、とても聖職者には見えないごろつき。そんな奴が二人も配置されていることから、ここが普通の教会ではないことは明らかだった。
まぁ、【潜伏】を使っている俺たちには関係ないことだけど。
俺は何事もないように二人に近づいていくと、突然二人の頭をがっと掴んだ。
「『スリープ』」
「な、なんだぁぁーーzzz」
「ど、どうしーーzzz」
俺が二人の頭を鷲掴みにして、相手を眠らせる魔法を唱えると、二人は急に意識を失ったようにその場に倒れ込んでしまった。
「縛って目立たない所に置いておきましょうか?」
「ああ、そうしようか」
相手を眠らせて無力化することのできる魔法『スリープ』。
今回、対人戦になるということが決まっていたので、俺は馬車の中で今回に向けて魔法を準備していた。そして、その魔法はリリにも教えてある。
俺たちは爆睡してしまっている二人を縄で縛り上げた後、物陰にその二人を隠して、教会の門の前に立った。
「『解錠』」
俺がそのスキルを使用すると、門にかけられていた鍵が外れた音が聞こえてきた。軽く門を引いてみると、何の抵抗もなく門を開くことができた。
『解錠』。これは文字通り鍵などを外すことができるスキルだ。これは【道化師】のスキルの中にあった一つのスキルだった。
道化師なら鍵の解錠くらいできても違和感がない。そう考えると、案外簡単にそのスキルを見つけることができた。
そして、このスキルは【助手】であるリリも使えたりする。道中に俺が教えることで、【助手】として使えるようになったらしい。
相変わらず、何でもありみたいになってきた俺たちだが、便利ならば別に悪いことではないだろう。
「それじゃあ、このまま攫われた女性の捜索に入るーー」
俺が教会堂に一方足を踏み入れた瞬間、突然何かの警戒音のようなものが教会堂に響いた。
ビービーという嫌な耳障りの大きな音が響き、その音に気づいたのか離れの建物にいたはずの気配がこちらに移動してきているのが分かった。
「な、なんでだ? 何に反応したんだ?!」
「もしかしたら、何かしらの魔法具かもしれません!」
「そんなのあるのかよ?!」
潜入をするのは、【潜伏】のスキルがあれば何も問題ないかと思っていたが、どうやらそんなに都合よくはいかないみたいだった。
今すぐその魔法具を壊してーーいや、鳴ってしまった以上、下手にいじらない方がいいか。
もしかしたら、誤作動だと思ってくれるかもしれない。
何よりも、【潜伏】のスキルを使っている以上、俺たちのことは簡単には見つけられないはずだ。
「とりあえず、奥に急ぐぞ!」
俺たちは少しでも警戒音が反応した場所から離れるために、教会堂の中を走って移動することにした。
潜入して誰にもバレずに任務を遂行するはずが、思いっきりバレてしまった気がする。
ていうか、ガリアから潜入が得意とか言われていい気になっていたが、建物に潜入するのは、ずぶの素人じゃないか俺たち!
こうして、俺たちの潜入の依頼は、いきなりドタバタ劇へと変わってしまったのだった。