50 広場にて②
マナトは婦人達を売り場の近くまで誘導していった。
婦人達の一人が、売り場に置いてあるシルク系のホワイト色のインナーを手に取った。
まるで宝石のように白く輝くその生地は、他の衣類にはない独特の高貴さが漂っている。また、肌触りもしなやか。
「あら、いいじゃない、これ。……あっ、でも、サイズが、少し大きいかしら」
「こ、こちらのサイズならどうでしょうか!」
婦人の反応に、すぐにマナトは対応してゆく。
「……うん、いいわねぇ。おいくら?」
「どれも統一で、銀貨、5枚になります」
「じゃあ、これと、これ……」
シルク系の生地はホワイトのほか、ブルーやグリーンなどの色もあり、婦人はいくつか色を選んで、手に取った。
「買うわ。これ、ちょうだい」
「ありがとうございます!」
……や、やった!
もちろん、前の世界での、不動産の子会社で取り扱っていたような、巨額を要した取り引きとは、ぜんぜん違う。
それでも、マナトは嬉しかった。
生まれて初めて、自分の力で、ものを売ることが出来た。
もう一人の婦人も、リネン系のブラウン色の肩掛けと腰巻きを手に取っていた。
「この生地、丈夫そうね」
「はい。繰り返し洗濯しても傷みにくく、長持ちしますし、汚れが染み付きにくいですよ」
「へぇ」
「ちなみに生地には抗菌性があって、カビや雑菌の繁殖を抑えてくれるんです。村では余ったこの生地で、食べ物を包んでカビを生えないようにしてるくらいなんですよ」
これは実際にキャラバンの村で見た光景で、マナト的には面白い習慣だと思っていた。
「あはは!それ面白いわね。じゃあ、肩掛けと腰巻きをセットで」
「ありがとうございます!」
「おぉ、売れてる……」
「すげえ、すげえ!マナト、すげえ!」
婦人達が購入するのを見て、ミトとラクトが感動した様子で言った。
「やるなぁ、マナト」
「ねえ、そこの大剣背負ってるお兄さん。こっちにも、売ってよね」
ケントも関心していると、別の方向から婦人が声をかけてきた。
「おっ、おう!まいどあり!」
段々と、売り場に人が増えていって、ミトやラクトにも、客から声がかかっていた。
「こっちも!」
「兄ちゃん、この服で!」
無我夢中で、4人は商品を売りさばいた。
※ ※ ※
夕方頃。
――チャリン、チャリン。
「いやぁ〜。路上市場で、初めて売れたよ」
ケントが嬉しそうに銀貨を数えていた。
「しかも、完売だ。ラクダにも余裕あったし、こうなるなら、もっと、持ってこれば良かったな」
「ケント、あんたはもうちょっと、商売というものを学んだほうがいいわね」
フィオナが苦笑しながら言った。
ちなみにフィオナ達は、マナト達4人が忙しくなったのを見て、王宮帰りのラクダ4頭を、ラクダ舎に連れていってくれていた。
「いやぁ、長老の言う通りに、戦うつもりで売り場に立っていたんだが……」
「それ、ぜったい意味違うわよ」
「いや、でも、ケントさんやミト、ラクトが、注目を集めていてくれたのも、今回の成功に繋がったのかも、しれないです」
「そ、そうそう!そういう作戦だったんだよな!」
ケントは言うと、ラクトとミトを見た。
「そ、そうっすね!」
「は、はい!」
「あはは!生返事バレバレ」
ウテナが笑った。