45 アクス王国/血の確認
「あぁ、ジンを警戒してのことだろ?」
ケントが護衛団長に言った。
「……ということは、知ってるんだな、ジンが出現したのを」
「ああ」
「そうか。いや、話が早くて助かるぜ。普段はこんな面倒なこと、しないんだがな。ただ、今は、ちょっとした異常事態なんだ」
「まあ、仕方ねえよ。むしろ、そうやって国内の治安が保証されているほうが、俺たちとしても助かるぜ。……ミト、ちょっと、ダガー、いいか?」
「はい」
ケントはミトからダガーを受けとると、柄に近いところで、自分の腕をスッと切った。
傷つけた部分から、血がツ~と流れる。
「これで、いいってことだよな?」
「ああ、大丈夫だ」
「よし。それじゃ、みんなも……」
「あっ、一応、鍼灸用の針を用意してある。これなら、ほとんど痛みを感じずに、血を出せるから、利用してくれ」
護衛団長が目配せをすると、近くにいた護衛の兵が一人出てきて、細い針の入った木箱を皆の前に置いた。
「えぇ……それ、先に言ってよ~」
「ウフフ、ケントがせっかちなのよ」
フィオナは言うと、針を取って、手の甲あたりに指した。
血が、ほんの少しだけ出た。
「ちょっと、気持ちいいくらいよ」
「ほんとですか?フィオナさん」
フィオナに習って、皆それぞれ、針を持って刺した。
マナトも手の甲に刺した。血がにじむ。
「よし、大丈夫だ」
護衛団長がそれを見て、頷く。ラクト、ウテナ、ルナと同様に続いた。
「……あれ?出てない」
護衛団長が、ミトのところで止まった。
針を手の甲に刺しているにも関わらず、血が出ていない。
「……えっ?あっ、その~」
ミトが困ったように笑った。
と、次の瞬間、
――シャッ!
目にも止まらぬ早さで、ミトが右腰のダガーを抜いた。
「き、貴様!!」
護衛団長が腰の剣に手をかけたが、もうミトはダガーを振り下ろしていた。
――シュッ!
――ツ~。
ミトの左腕から、赤い血が流れた。
「あぁ、よかった……僕が一番、ビックリしましたよ」
ミトは言うと、ダガーをしまった。自分で左腕に傷をつけていた。
「だ、大丈夫だ……」
「おいミト、ビックリさせるなよ~」
ラクトが少し、からかい気味に言った。
「いやラクト。シャレにならないとこだったよ」
言いつつも、ミトは笑っていた。
……よかった。ミトは、ジンじゃない。
もしやという感覚が、マナトの中になかったと言えば、ウソになる。
ここに至るまで、一度も、マナトはミトの鮮血を目にしてこなかったからだ。
このヤスリブという世界で、マナトが最初に出会って、そして一番、仲の良い友人である、ミト。
……よかった。もうこれで、疑わなくて、いい。
マナトは人知れず、安堵した。
……あまり、疑いたくないなぁ。
そして、改めて、そんなことを、マナトは思った。
「そこそこ切れているじゃないか。これを」
護衛団長が、血止め薬をミトに渡した。
「あっ、すみません。ありがとうございます」
ミトは笑顔でそれを受け取った。
「よし、全員、大丈夫だ」
護衛団長に先導され、ラクダ達と共に、商隊は王国の中へと入っていった。