11 長老①/マナの宿る石
盛り上がっている大広場から少し離れた、村の中では砂漠寄りのほうの、石造りの建物が並んでいる、いわゆる分譲住宅のようなエリアの一角に、長老の家はあった。
家の中、室内の石の壁には、一定の距離感で小さな火が灯っていた。
その火の下には、何か文字が掘られている赤色の石が置かれているのみで、ロウソクやマッチのようなものがある訳ではなかった。
その赤石は、今、マナトと長老の目の前にある、木造のテーブルの4隅にも置かれていて、テーブルの上を明るく照らしている。
マナトはふと、目の前でゆらめく、オレンジ色の火に目がいった。
……いったい、何時間燃え続けているんだ?
「大丈夫じゃ」
マナトの表情から察した、テーブルの向かいにいる長老が言った。
「その石にはマナが宿っておってな。夜になるとひとりでに火が灯り、朝になると勝手に消える。ちなみにその赤色は着色しているだけで、他の石とマナ石を区別するためにしておるのじゃ」
「なるほど。……ちなみに、この掘られている文字は?」
赤石に掘られている文字が何の文字か、マナトには分からなかった。
「それを掘ることで、マナ石に制御を加えているのじゃ。まず石にマナを注ぎ、その後、制御して利用する。簡単に言えばそういうことじゃな。……ふぅ、少し、休憩をするか」
そう言い、長老はイスから立ち上がると、別の部屋に行き、ぶどうのような小粒の果物と、カレーと一緒に食べるナンのようなものを持って戻ってきて、テーブルの上に置いた。
「食べなさい」
マナトは果物の皮を剥き、食べた。程よい酸味と甘味、美味しい。
ナンも、カレー用でなく、フルーツと一緒に食べる用に味付けされていて、果物と合う。
「いや〜、それにしても」
長老も、果物の皮を剥いて口に運びながら、しみじみと、それでいて嬉しそうに言った。
「どんな利口なジンでも、お前さん以上の夢物語を語って、我々の目を欺くことはできんじゃろうなぁ、ほっほ!」
「いや、ホントの話で……」
「いや、分かっとる、分かっとる」
長老から、マナトが村に居住する条件として、自分のこと、またどんなところで過ごしていたのかなど、くまなく、偽りなく話すようにと言われた。
そこで、ミトがグリズリーを倒した後、長老とマナトはミト達と別れ、長老の家にやって来たのだった。
長老ということもあって、マナトは正直に話した。家族のこと、日本のこと、仕事のこと、そして、気がついたら村のはずれにある小高い丘の草原で気絶していたこと。
さすがの長老も最初のほうは、「いや、その日本という国は……」「いや、ちょっと待っておくれ……」と、マナトの言葉を遮って気になることを質問しようとしたが、途中から「あとでまとめて聞くわ」となって、とりあえずマナトは簡潔に自らの素性とここに至る経緯を説明したのだった。
簡潔といっても、数時間は経っているが……。