第50話 一方その頃、ギース達は
「四度目のA級のクエストを失敗ですか……」
「失敗じゃねーって言ってんだろ! おまらっ、お前らギルドがちゃんと仕事しないから、俺たちが毎回危険な目に遭ってんだよ!!」
場所は変わって冒険者ギルド。王都ミノラルの冒険者ギルドには幅広い冒険者ランクの冒険者が集まる場所である。
王都ということもあって、比較的治安の良いこの冒険者ギルドでは、そんな怒鳴り声を聞くことはあまりない。
それゆえに、高圧的な態度で恫喝をするようなギースの声はギルドにいる冒険者たちの視線を自然と集めていた。
不幸なことにギースの対応をすることになったのはミリアだった。こんなふうに怒鳴られるのは何度経験しても慣れない。
それでも、ミリアは職務を全うするためにギースに正面から立ち向かうしかなかった。
「……では、今回のクエストの失敗理由を聞いてもよろしいですか?」
「失敗じゃねーって言ってんだろ! S級並み、いや、SS級並みのクエストだったんだよ! また魔物たちが強化されてたんだ!」
ミリアは過去のギース達のクエストの失敗歴を見て、バレない程度の小さなため息を漏らした。
「また強化ですか……アイクさん。過去に三度失敗したクエストも同じ理由でしたが、その後に別のA級パーティが問題なく攻略しています。その件については、どのようにお考えですか?」
ギース達に冒険者ギルドの管理不足だとギルド内で大騒ぎをされて、冒険者ギルドでギース達が失敗したクエストを再調査した。その後に、A級パーティに同じクエストを受けてもらったが、問題なくクエストを達成してきた。
それが三度も続けば、さすがにギース達の言っていることが嘘か妄言であることが分かってしまう。
「俺たちの時だけ魔物が強化されてたんだ! 俺たちはS級パーティだぞ! A級のクエストなんか失敗するわけないだろ!!」
「ええ。ですので、昨日の会議で『黒龍の牙』は一時的にA級に降格することが決定しました」
「……は?」
三度のA級のクエストの失敗。なんとかクエストから帰還することはできているが、一歩間違えればパーティが全滅していたこともあり得る。
たとえ調子を落としていても、S級まで登りつめた実力者だ。いくら態度が悪くても、死なれてしまってはギルドにとって損失になる。
だから、一時的にパーティのランクを下げる。それはギルドとしては当然の考えだった。しかし、S級パーティであるということを一つのブランドだと思っていたギース達からしたら、その配慮はただプライドを傷つける行為でしかなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 魔物が強くなっていたのは本当だ! 普段は魔物があんなに隙を見せないことなんてないんだ!」
「私達が弱いんじゃないんだって! ゴブリンとかの普通の魔物が私達の隙をついて攻撃してくるのよ! どうかんがえても、おかしでしょ!」
ギルドの判断に納得のいかなかったエルドとキースは必死の形相で抗議をした。それでも、ギルドが一度決めたことをそう簡単に撤回するはずがなかった。
「ですから、一時的な処置です。今の状態でS級のクエストを受けられたら皆さんが危険ですから、ランクを一時的に下げるだけです」
しかし、いくらミリアがギース達に訴えかけたところでミリアの声は一切届かず、パーティランクの降格を受け入れようとしなかった。
そして、当然ギース達がこんな態度を取ることもギルドは想定内だった。
「ギースさん達の実力を低く評価している訳ではありません。近いうちに大規模なクエストを発令する予定なので、そこでA級パーティの指揮をお願いしたいと考えています。そこで活躍をしていただければ、すぐにパーティランクを上げることもお約束します。そのクエストが終わるまでは無理をしないで欲しいんです」
いくら調子を落としていてもS級パーティ。こなしてきたクエストの数がものをいう指揮の役割をお願いしたいというのが、冒険者ギルドの見解だった。
ギルド内の評判が良くなくても、実力だけでS級まで上がってきた『黒龍の牙』なら問題ないというのがギルドの見解だった。
「S級パーティのままA級パーティの指揮を取ってやる! それで問題ないだろ!」
「問題があるからこうやって言っているんだ」
ギース達がギルドで騒いでいると、カウンターに白髪の大柄の男が現れた。
冒険者をやめてもその筋肉は衰えることなく、このギルドでの最高発言権を持っている人物。
「ギルド長」
ギース達の一部始終を見ていたギルド長のガリアはミリアの前に立つと、ギース達を軽く睨みつけて重い口を開いた。
「ギース。最近のお前たちの行動は目に余る。これ以上ギルドで騒ぎを起こすなら、それ相応の罰を受けてもらうことになる」
ギースがいくらS級パーティとはいっても、そのギルドの長に噛みつくほど馬鹿ではない。
それでも、その発言に不満を持たないかどうかは別の問題でもある。
「……次こんな舐めたことをしたら、許さないからな」
ギースはガリアに聞こえるほどの歯ぎしりをしながら、そんな負け惜しみの言葉を吐いてその場を後にした。
このとき、誰もギース達のパーティがS級まで登りつめた立役者が誰なのか分かっていなかった。
結果だけを見ればギース達には力がある。ただ今は調子を落としているだけだ。そう思ってしまうのも仕方がないことだった。
そんな判断の誤りが、ギース達の評判をさらに下げるものにするのだが、このときは誰もそんなことになるとは想像することもできなかった。