第39話 お礼と助手の活躍
「救難信号はすでに送っているから、憲兵が駆け付けてきてくれると思うけど……このままではアイク君の実力がばれてしまうな。どうしたものか」
「え、ああ、そうだよな。困った」
どうやら、俺が馬車に到着する前に救難信号を送っていたらしい。リードという剣士の冒険者は俺が乗ってしまった嘘を結構本気にしているようで、何とか打開策がないかと考えてくれていた。
なんだか申し訳ないことをしてしまった気がする。
「うん、冒険者ギルドの方には僕の方から上手く言っておこう。多分、今回の護衛の依頼とは別の報酬も出るだろうから、その報酬だけでも受け取って欲しい。後で持っていくから、パーティ名だけでも聞かせてもらってもいいだろうか?」
「パーティ名は『道化師の集い』だけど、そんなに気にしないでいいからな?」
「馬鹿を言うんじゃない。命の恩人なんだから、気にするさ。うん、『道化師の集い』だね。その報酬とは別に、お礼もさせて欲しい」
リードは相当俺に感謝しているのか、俺が断っても折れるような素振りを一切見せなかった。
そこまで恩を感じてくれているのなら、何かしらの形で恩を返してもらった方がリードにとっても良いのかもしれない。
これだけ真っ直ぐな人も珍しいなと思いながら、俺はリードの熱意に折れることにした。
「わかった。それなら、お礼を楽しみにしてるよ」
「ああ、ありがとう! 一つ気になったのだけど、アイク君はどこかに向かう途中だったのかい? なぜこんな所にいたんだ?」
リードは笑みを見せたあと、不思議そうに首を傾げてそんなことを聞いてきた。
そこまで言われて、俺がずっと【潜伏】のスキルを使用して馬車に近づいていたことを思い出した。
なるほど。リードたちからすると俺がこの道にずっといたという認識になっているのか。
「ちょっと依頼でミノラルを離れることになって、さっきまでこの先にある馬車に乗っていたんだよ。それで、盗賊の気配を感じて馬車から飛び降りてきたんだ」
「馬車から飛び降りてって……あれ? もしかして、あの馬車?」
「え?」
イーナの指さす方に視線を向けると、一台の馬車が俺達の方に向かってきていた。
その馬車は俺の近くでピタリと止まると、内側からの力によって扉が力強く開けられた。
「アイクさん!」
「リリ。なんだ来てくれたのか? ん?」
馬車の中にいたリリが飛び降りてきて、俺の元まで駆け寄ってきた。そして、飛び降りてきたリリの後ろから、縄で縛り上げられた三人の男たちが引きずられていた。
「リリ? この人たちはなんだ?」
「え、アイクさんが馬車から飛び降りた後、私達も盗賊に囲まれたので捕まえておきました。アイクさんが『この馬車は任せたぞ』って言っていたので」
リリはあの時の俺の言葉を深読みしているのか、俺が自分達が乗ってきた馬車が囲まれることを前提に指示をしたと思っているようだった。
だから、そんな当たり前のことをしたかのような顔をしているのだろう。
盗賊を三人相手にして殺さずに捕縛するだけの強さ。
……やっぱり、リリの強さも侮れないな。
「このっ、調子に乗るなよ小娘! すぐにリーダーたちが駆け付けてくれーー、え? リーダー?」
リリに縛られながらも威勢良くしていた男は、なぎ倒されて動けなくなっている盗賊たちを見て言葉を失っていた。
どうやら、俺が倒した中にリーダーがいたらしい。リーダーを含めた仲間たちがなぎ倒されているのを見て、威勢良くしていた男は何が起きているのか分からない表情をしていた。
「よくやったな、リリ。あとはここにいる盗賊たちを捕縛したら終わりだ。手伝ってくれるか?」
「もちろんです! 私、助手ですから」
リリは俺に褒められて嬉しそうに口元を緩めると、そのまま倒れている盗賊たちを縄で縛っていった。
縛り付けた盗賊曰く、他に仲間はいないとのことだった。
無事に盗賊団を全員捕まえることのできた俺たちは、憲兵団が来る前にこの場を去ろうとしたところで、助けた馬車の御者のおじさんからお礼にお金の入った袋を受け取ることになった。
自分の馬車に乗って馬車が走り出してから中身をちらりと確認すると、その中にはリミル金貨が十数枚入っていた。10万ダウ以上が入っているということになる。
いよいよ、ガルドの所に行って依頼を受ける必要がなくなってきた気がしてきたが、俺はそっとその袋をしまってガルドの鍛冶場へと向かうのだった。