第37話 盗賊たちとの戦い
「はぁ、はっ……間に合った、のか?」
俺が通り過ぎた馬車の方に追いつくと、そこではすでに戦闘が始まっていた。
盗賊と思われる男たちが馬車を囲みながら冒険者と戦っていた。
盗賊が十数人いるのに対して、冒険者の方は五人しかおらず、数的に圧倒的に不利な状況だった。
誰も殺されていないあたり、結構な実力者なのかもしれない。
それでも、確実に押されている状況だった。
俺は【潜伏】スキルを使いながら盗賊たちに【鑑定】を使用して、盗賊たちのステータスを確認した。
「よしっ、俺よりもステータスが高い奴はいないな」
俺の【潜伏】のスキルが十分に聞く相手だということを確認して、俺は【近接格闘】のスキルを使用してその戦いの中に突っ込んでいった。
「カイナ! ミリドが負傷した! 回復魔法を頼む!」
「分かったわ、リード! ケント! 私が回復魔法をかけるから時間を稼いでーーケントッ!」
C級冒険者パーティ、『白竜の髭』。そのほとんどがC級の冒険者からなるパーティだった。最近C級上がったばかりの彼らだったが、彼らはC級に値するだけの力があった。
剣士のリードに魔法使いのミリド。タンクのケントに回復魔導士のカイナ。そして、盗賊のミーナ。
バランスの取れた良いパーティなのだが、それは数の暴力と前には為す術がなかった。
彼らは遠距離の攻撃を得意とする魔法使いがやられたことで、一気に距離を詰められていた。そして、その距離を一気に詰められて、タンクが崩された。なんとか一人応戦をしていたミーナも数の暴力に今にも負けそうになっていた。
そして、タンクが崩されて回復魔導士のカイナに盗賊の短剣が振り下ろされた。
絶体絶命のピンチ。そんなとき、急に目の前にいた盗賊が吹っ飛ばされた。
「え?」
強く目をつぶって、切られることを覚悟したはずだった。しかし、目を開けた先にいたはずの盗賊は何かに殴られたように倒れて、それから動かなくなってしまった。
「な、なんだ! この女、何をした! ぐはっ!」
「え? ちがっ、私何もしてないーーえ?」
近くにいた別の盗賊がカイナに切りかかろうとすると、今度は腹に何かを食らったように後方に飛ばされた。
何が起きたのか分かるはずがなかった。間の前で人が吹き飛ばされたカイナも、吹き飛ばされた盗賊自身も。
この中で何が起きたのか分かる者がいるとすれば、それはただ一人しかしない。
「(うわぁっ、今なんかすごい音した気がしたな。……大丈夫だろうか)」
それは【潜伏】のスキルで姿を消して、冒険者と盗賊の戦いに乱入したアイク本人だけだった。
【近接格闘】っていうスキルとステータスのせいか、一撃が結構重いんだよな。さっき蹴った人、絶対骨折れた気がする。
俺は使い慣れていない【近接格闘】を使用して、盗賊たちの戦いに乱入していた。
ただ殴る蹴るだけの動きをしているだけなのに、その動きは【近接格闘】によって洗練された鋭い一撃になる。
結果として、盗賊を相手にしているのに一撃で相手を倒すことができている。やり過ぎているんじゃないかとも思うが、急所を狙わなければ死ぬことはないだろう。
俺は少しだけ力を抑えながら、目の前にいる盗賊の太股めがけて蹴りを入れた。武道なんてやったことがないのに、その蹴りは修練を積んだ武道家のように鋭いものになった。
それに加えて、最近さらに強くなった攻撃力が追加される。盗賊の太股はぱんっと何かがはじけたような音を奏でて、盗賊がその場で一回転して倒れ込んだ。
「ぐあぁぁっ!」
蹲って動けなくなっている盗賊をそのままに、俺は次々とその盗賊たちを倒していった。
見えない何かに脅える盗賊を、次々とスキルを使いながら効率的に倒してく。そんなふうに倒していくと、大半の盗賊をなぎ倒すことができた。
すると、突然仲間たちが何か分からないものに倒されていくのが怖くなったのか、残りの二人の盗賊たちがその場から背中を向けて逃げだした。
このままこの盗賊を逃がすと、また別の馬車が襲われる。そう思った俺は【道化師】に統合されている【瞬動】のスキルを使用して、一気にその距離を詰めた。
そして、逃げようとする二人の正面に回って両手でそれぞれの首を掴んで、そのまま地面に叩きつけた。
「がほっ!」
「げほっ!」
地面に強く叩きつけられた二人はそのまま気を失ったように、ガクッと倒れて動かなくなった。
「ふぅ……これで全員か」
俺が振り向いて冒険者たちの方を見ると、冒険者たちは剣を構えて戦闘態勢を取っていた。
それも俺と少しずれた方を見つめながら。
何をしているのかと思ったところで、冒険者たちに俺の正体が見えていないことを思い出した。
俺が慌てるように【潜伏】を解くと、冒険者たちとその後ろで守られていた商人たちが体をビクンとさせて驚いていた。
……まぁ、急に人が現れればそんな反応にもなるよな。
「えっと、安心してください。俺、冒険者ですから」
俺のそんな言葉を聞いても、当然警戒が解かれることはなく、俺を見る目は怪しいものを見る目になっていた。
急に姿を隠して現れて盗賊を一網打尽にする自称冒険者。
……まぁ、そんな反応にもなるか。
どうしたものか。明らかに警戒されてしまっている。
「アイクくん?!」
しかし、そんな俺への警戒は一人の少女によって解かれることなった。
「あれ、イーナさん?」
そこにいたのは昨日会ったばかりのバンクの知り合いの商人、イーナだった。