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第10話 助手との関係性 リリside


気がつくと私はそこにいた。

 アイクさんが『道化師見習い』を授かったときから、私はアイクさんと一緒にいたのだと思う。

 それでも、私の声は届かないしアイクさんも私のことに気づくことはなかった。ただそこにいるだけで認識されずにいるだけ。

 不満を抱えても仕方がないし、誰に対して不満を抱けばいいのか分からない。

 だから、誰にも気づかれることなく、ただアイクさんの私生活を見ていた。

 誰も知らないようなジョブを手にして、少しだけ浮かれていた村の住民たち。そして、そんな住民たちの態度を見て、自分が特別な存在なのかもしれないと思って、鍛錬に励む姿。

 それでも、どうして他のジョブの子達と比べるとステータスが劣っていて、それを周りから馬鹿にされたりしていた。

 馬鹿にされながら鍛錬をしていくつか魔法を使えるようになっても、初級魔法や支援魔法ばかりで、それも馬鹿にされて。

 なんとかパーティを組むことができても、そのパーティメンバーに馬鹿にされて、それでも自分のできることを必死でしようとしていた。

 戦闘中は常に回復魔法をかけ続けて、魔物の気配を感知して死角からの攻撃を防いだり、魔物の視線を誘導したりして味方の攻撃を補助したり、魔物の動きを封じるためにパーティ仲間や魔物の刺客からナイフを投げたりして、魔物の動きを鈍らせていた。

 今は【ユニークスキル 道化師】に統合されてしまった【偽装】【欺く】などのスキル。それらを用いて、アイクさんはパーティの補助を行っていた。いや、補助と呼べる以上の働きをしていた。あれは、後方支援以外の何物でもない。

でも、『道化師見習い』のうちは自分にも【偽装】が適応されてしまうことをアイクさんは知らないみたいだった。

 自分が低レベルだと思っていた『道化師見習い』のレベルがMAXになっていたことにも自分で気づかないのだから。

 進化をしてようやく【偽装】のスキルから自分が対象外になったからか、【道化師】に統合されたからかは分からないが、ようやく本人も自分の強さに気づき始めたみたいだった。

 一つのジョブのレベルMAXの状態のステータスは『道化師見習い』と言えども、低くはない。

 そんなアイクさんを追放したパーティがどうなるのかなんて、考えるまでもないだろう。

 でも、それでよかったと思う。

 アイクさんをあれだけ馬鹿にしてきたのだから、少しは報いを受けるべきだと思う。

 パーティを抜けたアイクさんは少し気落ちしていたが、アイクさんが気を病む必要などないのだ。

 そんな言葉をかけたかった。

 一人でずっと頑張ってきたアイクさんを支えたい。パーティを抜けて、一人になったアイクさんを見て、私はそんなことを願った。

 ただ一方的に見ているだけじゃなくて、ずっと頑張ってきたことを知ってるって言って褒めてあげたい。隣にいて支えてあげたい。

 そんな強すぎる思いが届いたのか、アイクさんが進化したときにアイクさんに一つのユニークスキルが追加された。

【ユニークスキル 助手】

 アイクさんにそのスキルが追加された時、私は存在しないはずの涙をこぼしていた。

 それからは、アイクさんが私を呼ぶまでにその涙を枯らしておいた。

 初めて会う女の子が泣いて現れたら、困ってしまうだろうと思ったからだ。

 アイクさんがスキルを使おうとしたとき、私はひどく緊張していた。それでも、初めての挨拶になるのだから少しフランク気味に、気さくな感じで話しかけた方がいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、アイクさんがスキルを使用したのが分かった。

「【ユニークスキル 助手】」

 その瞬間、私はアイクさんの後ろに立っていた。

 実態のある体、初めて感じる森の香り、私の体越しに見るアイクさん。

 そんな夢のような状況を前に、私は感動のあまり瞳を潤ませてしまった。

 どうしよう。また泣いてしまいそうだ。

 枯らしたはずの涙が溢れてきそうで、私はその涙をぐっとこらえた。

「お呼びですか?」

「うわっ! ……え?」

 こちらを振り向いたアイクさんは心底驚いていた。腰を抜かすんじゃないかというくらいに驚いていたので、心の中で少しだけ笑ってしまった。

 クリーム色のシャツに茶色のズボン。肩当てと短い短剣をぶら下げて、身なりは初心者冒険者のそれだった。

 『道化師』っぽくないなーとか思って見つめていると、戸惑うような表情でアイクさんが言葉を続けた。

「えっと……誰?」

「助手ですよ。アイクさんの助手です」

「助手? え、そんなのいたことないんだけど」

「アイクさんが発動してくれたんですよね。だから、はせ参じました」

「発動? え、もしかして、スキルを使ったから現れたってこと?」

「そうなりますね。末永くよろしくお願いしますね。アイクさん」

 私はそう言って、小さな笑みを浮かべた。

 ずっとこの人の隣にいたい。今まで支えられなかった分も含めて、この人を支えていきたい。

 そんなことをここから願う私のジョブは【助手】だった。

 まさに天職である。

 私は、この時初めて神様に感謝をした。

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