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【二】助手としての自己研鑽 ―― 運命の探偵のために

「……」

 僕は幼少時から、自分だけの運命の探偵に出会ったら、少しでもいいからその助けになりたいと感じ、自己研鑽に励んできた。

 朝倉財閥の次男に生まれた僕に助手の才能があると判明した時、両親祖父母、兄と妹も、とても喜んでくれたし、今も僕を応援してくれている。

 探偵才能児と同様、助手能力の保持者は、幼少時に判明する。質問紙と計測玩具を用いて判定される。

 僕の助手としての才能ランクはSだった。

 探偵ランキングとは異なり、助手レベルは、生まれた時から変わらない。S・A・B・C・D・Eの六評価が存在している。日本において、助手レベルSの人間は、僕を含めて十名のみだ。

 定期的に実力確認試験があるのだが、発表される試験結果の一番上、一位の欄には、多くの場合、僕の朝倉水城(あさくらみずき)という名前が書いてある。例外は、僕が試験を何らかの都合で欠席した場合だけだ。

 助手の中の、エリート中のエリート。

 僕はそんな風に呼ばれて生きてきた。

 旧公家華族の流れを組む、歴史ある朝倉家は、戦前には財閥を形成していて、非常に豊かであり、そんな家庭環境も、僕が助手としての勉強に打ち込む上では、とても後押しになったと言える。だが僕が頑張ってきた動機は、ただの一つだ。

 いつか、自分の運命の探偵に出会った時、助けになる助手になりたかった、本当にそれだけだ。

「……」

 さて、無事に僕は、僕だけの探偵と引き合わせられた。

 運命の相手と引きあわせられる事になった前日の夜は、緊張して眠れなかったほどだ。期待で胸がはちきれそうだったし、早く探偵の活躍をこの目で見たかった。

 運命の探偵と出会うまでは、助手は本当の意味では、人生に満足感を得られないとされる。僕は不思議とそれまでに、人生に何かが欠けているような心地になった記憶はなかったが、一般的にはそうだと聞いていた。だから、今まで以上に人生が豊かになるのだろうと期待していた。

 今となっては懐かしい記憶だ。


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