k-124
時刻は真夜中。修羅の国を脱出し無事生還した俺は、ムレーヌ解毒草と干し肉でスープを作る。
パチパチと爆ぜる焚き火をボーっと見ながら、物思いに耽る。
――男はなぜ、おっぱいにあんなにも心惹かれるのかと。
異世界でもそれは同じだった。もはやDNAレベルの問題なのかもしれない。
この世に生を受けたとき、まず目にするのは母親のおっぱいである。おっぱいは母性、心の安寧の象徴だ。
おっぱいには様々な姿、形があり、一つとして同じものはない。
おっぱいを追い求めるとき、修羅の国が待っているとわかっていても、男たちはおっぱいの狩人と成り果てる。
男が様々な形のおっぱいを追い求め続けるのは、母親の影を追い求めているのに過ぎないと俺は結論づける。
おっぱいを目の前にしたマルゴが、シカゴブルズの牛のような目になっていたのは本能的、根源的欲求なのだから仕方ないことなのである。
これは極めて重要な哲学的見地なので、紙にメモをする。
一瞬、今なおローソクのような顔をして正座を続けるであろう友人たちの前に立ちはだかり、俺のたどり着いた哲学的見地を述べようかと思ったが、寒気がしたので止めておいた。
俺はそこまで命知らずではない。奥田主席弁護人は、戦略的撤退を行うことを決定した。
――男と女は永遠に解りあえない生き物だ。
この命題についてもDNAレベルで思考回路が違うのだから、絶対に互いに理解などできないと結論付けることができる。
もう少し、わかりやすく紐解いてみよう。
男にとってのおっぱいと、女にとってのおっぱいは決定的に意味合いが異なる。
マルゴの衣服からブラジャーが出てきても、男の俺はまあそれは仕方ないよな、と寛容になれる。
それは本能的、根源的欲求であることを、俺が理解していることの証左に他ならない。
しかし、サラサ鬼軍曹にとってはどうだろうか。彼女にはそのような本能的、根源的欲求はないのだから俺のように寛容にはなれない。
おっぱいを巡る男と女の認識の隔たりは、気の遠くなるような天の川の如き距離があると思う。
むしろ織姫と彦星を隔たる天の川は、おっぱいを巡る男女の認識の相異そのものなのだ。
俺はキラキラと輝く満天の星空を見上げ、異世界の天の川を探しながら、宇宙の神秘に思いを馳せる。
生命の神秘について考えていると、星空の配置がおっぱいに見えてくるから不思議だ。
そうか! 偉大なる先人たちはこうして星の配置を覚えていったのだ。
俺は今浮かんだ星座の配置を『おっぱい座』と名付け、忘れないように紙に星の配置と名前のメモをする。
――俺は、友人たちの無事の帰還を星空に祈った。
焚火にかけた鍋のスープが、丁度良い頃合だ。ズズっとスープをすすると、体の芯から温まった。
それから俺は、既に布団の上で丸まっているアッシュ抱き、布団に入る。ランタンの明かりを消し目をつぶった俺は、いつの間にか意識を手放していた。
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