ヒロインは私
今現在、目の前に推し様がいらっしゃる。
「……僕の顔に何かついているか?」
「い、いえっ……つい美しくて見惚れておりました」
本当に来てしまったんだ、と胸を躍らせた。
ここは、異世界。正式には、乙女ゲームの中の世界だ。
なぜ日本に住んでいた私がここにいるかというと……。
遡ること、数日前。
私は死んでしまった。とあるビルの屋上に呼び出されて、誰かに背中を押されて。
けれど、落下途中に光に包まれて、次目を開けた時には……。
「ここ、どこっ……?」
とある侯爵邸の綺麗な部屋にいたのだった。
ベッドから飛び出て、大きな鏡に手をつける。
次に顔をベタベタ触った。
だけど死ぬ前と何一つ変わっていない、平凡な顔立ち。
だけど……。
「何、これ……」
サラサラしていて、肌触りがよすぎるネグリジェ。
絶対に高級品だ。こんなの、私なんか平凡な高校生が帰るはずない……!!
ビクビクしていると、部屋にメイドが入ってくる。
その瞬間、全てがフラッシュバックしてきた。
だけど記憶はここでのことだけらしく、幼い頃から今までの教養、家族関係などなど全て把握してしまったのだ。
「お嬢様、お目覚めになられましたか?」
「は、はい……」
「朝食の準備が整っておりますよ」
「ありがとうございます」
見覚えのあるメイドさんについていきながら、推理してみた。
まず、ここはどこか別の世界で……。
私は、ヴァンテールという貴族の令嬢らしい。
ミユ・ヴァンテール。前世の姿と変わらない黒髪にやや茶色気味の瞳。
だけど、急に転生したと思ったのは違くて、小さい頃の記憶が抜けた状態で前世での過去を夢で思い出して、目覚めたから繋がっているように感じたのかもしれない。
よくわからないことが多いけれど……ヴァンテールって、どこかで聞いたことがあるんだよなぁ……。
うーんどこだっけ……。
そんなことを考えているうちにあっという間にダイニングルームに着いてしまった。
それから私は食事を取った。
料理はとても美味しい。誰も前世では食べたことのないようなものだけれど。
また部屋に戻ってからは、手から氷が飛び出てきてびっくりした。
どうやら私は氷属性の魔法が使えるらしい。