第二十九話 一匹のスライム
どうやら、カーディナルたちは裏山の東側を、徹底的に調査を行うようだ。
ドーンやフリップやジャックだけではなく、ダークまで呼んでいる。
実際に、ゴブリンが2体と、色が違うゴブリンが1体と角が生え犬のような生き物が居た。
アドニスが誘導して、私が岩を落として仕留めた。
最初は、カーディナルたちが戦おうとしたけど、家族が傷つくのがイヤで私が安全に倒せると説明して、対応した。
どうやら、捜索部隊は、他の山にも分け入って魔物?を探してきている。確かに、裏山だけが安全でも意味がない。救える命が散らされるのは、私の本意ではない。カーディナルや捜索部隊には、苦労をかけるけど、近くの山を捜索してもらうことにした。富士川までの山の捜索を行ったかなりの広い範囲になったが、カーディナルたちは私の考えを尊重してくれて、私の指示に従ってくれた。
ゴブリンは、ギルドでも紹介されていた。身体は緑が基本となっている。一体だけ居たゴブリンは、緑ではなくピンク色をしていた。何かのスキルを使っていた。角(が生えた)犬は、全部で3匹だ。1匹は角が2本も生えていた。ドロップアイテムというのかわからないけど、角と魔石が残された。
ゴブリンの色違いは、他にも3体ほど見つかった。
裏山と近くの山は、かなりの数の魔物が生息していたようだ。
魔物を倒して、いくつかのスキルが芽生えた。その中で、嬉しかったのは、”回復”が使えるようになったことだ。所謂”ヒール”だ。怪我をした、動物の治療が出来た。”ホーリースライム”の誕生だ!
人の姿なら、”聖女”とか言われていたのかな?いやいや聖女はないな。ガラじゃない。
結局、裏山には5日ほど滞在した。
元女子高校生が野宿をして、山を駆け巡っていた。それも全裸で・・・。スライムボディじゃなければ、変態の認定を受けていただろう。食べなくてもいいし、排泄もないのは、華の元女子高校生としてはありがたかった。
色違いのゴブリンと、2本角の犬を、倒した時には、スキルが芽生えた。
属性のスキルだ。”風”・”水”・”火”・”土”だ。魔法のようなことが出来る。多分上位属性なのだろう、”雷”・”氷”・”炎”を、スキルを試している間に芽生えた。土の上位属性だけが芽生えていない。どうせ、攻撃は岩を落とすのが有効だし、気にしては居ない。
いろいろ、カーディナルやアドニスたちとスキルの実験を行った。
属性は、皆も持っているので、使い方を研究するのが面白かった。
裏山ではなくが、途中から参加したディックたちが、他の山から、魔石を集めてきた。集められた魔石は、見つけた動物の骨と一緒に裏山に安置した。
アイテムボックスに送られてきた魔石を結界に使っている。結界は、この魔石以外は使う気持ちにはならない。
裏山の全てが結界で覆うことが出来そうだ。あとは西側と頂上付近だ。
カーディナルやアドニスだけではなく、フィズやダークやアイズやドーンやフリップやジャックたちに、近隣の山々を周ってもらって、魔物から逃げる時には、逃げてきてくれてもいいと宣伝してもらった。最初に、オークを倒した洞窟は、治癒の力を込めた魔石を配置した。怪我をした動物を癒せればと考えた。他にも、水のスキルを付与して、魔石から水が湧き出るようにした。排水は、しっかりと川に繋がるように水路を作った。沢の様になった。石垣を越えた場所を流れるようにしたので、裏山に住んでいない動物の水場にもなるだろう。
皆が戻ってきた。
近隣の山には、もう魔物は存在しないようだ。
(ん?どうしたの?)
アドニスが慌てている。
(え?スライムが居る?私と同じ?)
どういうこと?
アドニスに、西側を先行して見に行ってもらった。攻撃を仕掛けてくる魔物は居ないと言っていたのだが、どうやら、スライムがやってきたようだ。私以外のスライム?
スライムは、私を探している?
アドニスの雰囲気を感じて、接触してきた?
(え?あれは、強い?)
アドニスが、見つけたスライムは強いと言っている。
1体だけど、雰囲気が全然違うと言っている。それだけではない。今までの魔物で、アドニスとカーディナルが警戒したのは、二本角犬と治癒のスキルを獲得した時の白い(アルビノ?の)ゴブリンだ。岩を落として瞬殺したけど、あの時には、カーディナルもアドニスも臨戦態勢を崩さなかった。
(心配は嬉しいけど、私を探しているのだよね?)
どうやら、私を探しているのは間違いではないようだ。
西側から来ているのが気になる。
川があり、低い山が連なっているが、西側は東側と違って、人の手が入った場所が近い。そのために、野生動物は少ない。この辺りに居る魔物は、私のような例外を除けば、富士山で産まれる。
(わかった。行こう。アドニス。案内をして!カーディナル。先行して、スライムに説明をお願い)
二人が勢いよく飛び立つ。
アドニスは、廻りを少しだけ旋回してから戻ってきた。
近くに居た、他の者に指示を飛ばした。
アドニスがゆっくりした速度で移動を開始した。
私の速度ではなく、後ろから付いてきている、ギブソンやノックの速度に合わせているのだろう。
頂上に向っているので、スライム君は頂上で待っているのかな?
確かに、数日前に全体を確認するために、久しぶりに頂上に移動した。その時には、居なかったから、それから移動してきたのか?
やっぱり、スライムは”立体機動”が出来るのだね。私以外のスライムに会うので、少しだけドキドキしている。もしかしたら、言葉が通じるかもしれない。友達に慣れたら嬉しいな。戦うために、私を探していたのでなければいいな。
でも、強敵と書いて、”
頂上が見えてきた。
流石に、麓から登ると時間が必要だ。
この辺りはまだ結界を配置していない。ん?そうだ。結界で思い出したけど、西側も麓には結界を配置したよな?
それで、魔物は最初から居た者以外は、結界に入ってこられない。
例外は、私(家族も?人は?)だけだ。そうなると、その結界を越えてきたのだから、今から会うスライムは私なの?でも、アドニスの反応から見ると、私とは違う個体のようだ。どういうことだろう?結界に問題が発生した?それとも、結界を越えられるくらい強いの?結界を配置する前に、裏山に入り込んでいたの?
先行していた、カーディナルが頂上付近で旋回を行っている。
スライムとの接触に成功して、友好的な話が出来たのだろう。
頂上は、祖父が作った石造りの塔が設置されている。
最後に、まとめて、どんな条件なのかわからないけど、今までで一番大きくなった魔石を設置する。魔石には、家がある位置まで覆うくらいの広い結界を作られるようにする。近くに、魔石を設置すると、継続期間が伸びるのも実験で解ったことだ。
確かに、スライムだ。私と同じ色をしている。
でも、たしかに、私ではない。
(主様!)
(え?誰?)
(私たちです!)
スライムと話が出来る!同族だから!それとも、違う理由があるの?
私が、触手を使って頂上に跳躍する。
え?なに?
スライムが、私、目掛けて突っ込んでくる。
なに?どうした?感動の再会なのか?私は、君を知らないよ?
そして、私のスライムボディに飛び込んできた。
え?あっ・・・。
カーディナルやアドニスが、近づいてくる。ギブソンもノックも・・・・。え?ラスカルも居るの?
(大丈夫。大丈夫だから・・・。あぁぁぁ。ふ彩ん具3443クァ@43た34んあぁんくぉくぁ)
頭は無いけど、頭が割れそうに痛い。
心が・・・。全てを理解した。
そう・・・。君たちは、私と同じなのだね。
そう・・・。この人だね。
そう・・・。やっぱり、魔石は君たちの命。
そう・・・。私と一つになるため。
そう・・・。私もわかったよ。
そう・・・。頑張ったね。
そう・・・。千にも届く命が散ったのね。
そう・・・。無残に、残酷に、無慈悲だね。
そう・・・。怖かったね。
そう・・・。痛かったね。
そう・・・。悔しかったね。
そう・・・。悲しかったね。
そう・・・。辛かったね。
そう・・・。君たちは私なのだね。
そう・・・。私は君たちなのだね。
もう、大丈夫。これからは、私と一緒だよ。家族も居る。一人じゃないよ。
”固有スキル 再生を獲得”
”固有スキル 分体を獲得”
”固有スキル 吸収を獲得”
”称号 統べる者を獲得”