第十二話 実験
うーん。
スキル:結界も、情報が|伏《・》|せ《・》られている。私としては、安全になる可能性が高いし、使えるようになりたい。
魔石は、ギルドが”買い取ってくれる”ことはわかったけど、私にはギルドに売りに行く手段がない。
私はどうやら成長するスライムらしい。”らしい”と言って、断言出来ないのは、寝て起きたら、サイズが大きくなった・・・。ような、きがする。実際に体積を測っていたわけでも、体重を量っていたわけでもない。そりゃぁ乙女だったころの体重は記憶している。乙女の敵である体重計に文句を言いながら乗っていた。平均的な体重を下回るくらいには維持できていた。
進化なのか、単純に体積が増えただけなのか・・・。
体重は、増えていない。増えていないに違いない。スライムボディになってまで、体重に縛られたくない。
お腹が空かなかったけど、冷蔵庫の中にある消費期限がヤバそうな物を、食べてしまおうと思った。調理は、まだ敷居が高いために、調理の必要がない。豆腐を食べてみた。
食べるというのが正しいかわからないが、スプーンを使って、口(と想定した部分)に豆腐を置いた。
美味しかった。味覚も、嗅覚も残っていた。嬉しかった。
それと、味覚も、嗅覚も、遮断できる。
普段は、遮断しておいたほうが良いかもしれない。嬉しくなって、床に飛び降りた。そうしたら、床を舐めたような感覚が伝わってきた。まだ、床だったから良かったけど、これが土やトイレだったとしたら、考えたくない。
食感も感じられた。これで、本当に、スライムボディで困らなくなってきた。
得たスキルの利用方法がわからないことを除けば、快適だ。
考えてもわからない。調べても出てこない。
それなら、実験してみればいい。
裏庭に出る。
ビオトープと言うには、大規模な改修を行ったが、後悔はしていない。
魚も元気に泳いでいる。あとは、木々が根付いてくれれば、成功だ。裏山には、フクロウが生息している。フクロウが食物連鎖の頂点として来てくれたら嬉しい。
魔石を結合とか、錬金でできるの?
アイテムボックスに、空のフォルダを作って、魔石を2つ入れる。
うーん。”結合”とかかな?
お!出来た!
物質同士を結びつけたりは出来るのだ。石と石もくっつけられる。強度の問題はあるけど、質量は凶器だ。石だと結合の方向を指示出来る。それなら、土で形をつくって結合させれば・・・。
アイテムボックス内での結合は出来たけど、アイテムボックスから出しての結合は失敗というか、発動しない。
調子に乗って魔石を固めていたら、大きくなった。最初のサイズの何倍になったかわからない。
小指の先(今は、小指は無いけど、感覚的な話)ほどの小さな物だったけど、まとめたら、こぶし大の大きさで、これ以上は大きくならなくなった。魔石(こぶし大)が全部で3つできた。全部、同じ物だと認識されたけど、取り出すと、色彩は違って見える。アイテムボックスは不思議だ。
どうせ、魔石をギルドに売りに行くことは出来ないし、飾っておこう。
3つを並べても綺麗だけど、一つは池の中に入れて、光を綺麗に屈折させる。もう一つは、巣箱の上に配置しよう。最後の一つは、庭石の代わりに置いておこう。
うん。いい感じのアクセントになった。
池の中に入れた魔石は、淡い光を放っているように思える。
すごく綺麗だ。流れがある池だからなのか、流れが光で強調されているように見える。
巣箱の上の魔石は、太陽からの光を、優しく拡散しているように見える。
それぞれの魔石が、光を優しく拡散しているので、庭に新たな色彩が加わった。
エンジンの音だ。
郵便か?
チャイムが鳴らなかった。郵便かもしれない。
気配探知とか出来ないかな?
郵便屋さんや宅配業者屋さんに、素敵なスラムボディを見せられない。忘れていたけど、私はうら若き乙女だ。そして、スライムボディだけど全裸だ。露出狂ではないので、リスクは犯したくない。
それだけではなく、いつスライムから人間に戻るか解らない。戻らないかもしれないし、数分後に戻るかもしれない。だから、極力、人との接触は避けたい。いずれ街にも行きたいけど、スキルがはっきりとしてからでいい。
庭の整備と、錬金の実験が出来た。
もうひとつの実験を行おう。
まずは、天井裏に行こう。
お祖母ちゃんが買ってきたお土産だけど、子供だった私や妹は怖がってしまった。ビスクドールだ。
天井裏も、たまには掃除をしないとダメだな。
うーん。スライムには眷属なんて居ないだろうからダメだけど、眷属が出来たら掃除を頼みたい。
愚痴っていても始まらない。
掃除をしよう。スライムボディは、疲れがこない。優秀な身体だ。
床に溜まったホコリは、アイテムボックスが大活躍。範囲を指定して、”ホコリ”と指定したら、綺麗になくなった。”ホコリ”って物質だったの?意味がわからないけど、いろいろな物が増えたけど、まとめて、窓から見える裏山に捨てる。悪いものじゃないよね?
ビスクドールを見つけた。
子供の時に見たときには、怖かった。
今、見ても怖い。替えの服が有ったはずだ。私が、探しているのは、ビスクドールが着ている服だ。70cm位の大きな物で、下着まで身につけていると教えられた。そして、職人が作った服は高級ブランドの服に匹敵すると教えられた。調べなかったし、当時は興味が無かったので、深くは考えなかったが、子供向けの服よりも小さい服で、職人が作っていれば、高くても当たり前だ。
服は綺麗に畳んで、まとめてあった。下着も新品(?)だ。
フリフリは好きじゃないから、男の子を模したビスクドール(?)の服と、女の子の下着を何着か持ち出す。タグを見ると、洗濯は洗濯機で出来るようだ。本当かな?まぁいいかな。
洗濯が出来ると仮定をして着てみよう。汚しても大丈夫だ。
”着る”というよりも、服に合わせて、スライムボディを合わせていく作業だ。
空を飛んだときに、モモンガのようにスライムボディを広げられたから出来るだろう。
細かい変更は難しいけど、概ねは出来た。出来たけど・・・。怖い。鏡で見てみたけど、顔がない。私の顔が模写できれば良いのだろうけど、出来ない。
実験は失敗だ。
それに、このサイズだと、顔が出来て、髪の毛が生えたとしても、”人”には見えないだろう。いい考えだと思ったのだけど・・・。
”人化”とかのスキルが身につかないと無理なのかな?
そもそも、顔とか形状変化だけで作ろうとしたら、小学生の低学年が書いた両親の絵とかになってしまう。私は、”画伯”だったし、無理だ。最初から考えればわかったことなのに・・・。なんで、出来ると思ってしまったのだろう。
うん。
無理。ふて寝しよう。
あっ今日は、リビングでTVでも見ていよう。情報は大事だからね。ギルドでの情報収集も大事だけど、マスコミから得られる魔物の情報にも意味があるかもしれない。もしかしたら、スキルや魔石の新しい使い方が見つかったかもしれない。
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彼女は、無意識に魔石を結合させた。
世界では見つかっていない方法だ。
彼女が作ったこぶし大の魔石をギルドに持ち込めれば、都内池袋に地下2階で地上9階建てのビルが建つくらいの資金が得られる。
魔石は、スキル発動の媒体にもできることが判明している。小指の爪ほどの魔石で、スキルを取得したばかりの人間が使う”ファイアボール”と同程度の精神力を保持している。
そして、彼女のアイテムボックスには、魔石がまた送り込まれる事態になっている。