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第七話 ギルド日本支部


「主任!」

「どうした?」

 主任と呼ばれた女性は、部下の女性からの呼びかけに、資料に落としていた目線を上げる。

「今日の会議での資料です」

「ありがとう。また、ハゲオヤジたちの相手をしなければならないのか・・・。代わりに出ては・・・」

 部下の女性は、にっこりと笑ってから勢いよく首を横に降る。

「ギルド内の会議だけならいいのだけど・・・。なんで、利権にしか興味がない議員先生が出てくる必要がある」

「ギルドが利権の塊にでも見えるのでは?」

「赤字団体だぞ?私たちの給料だって、実動部隊を除けば・・・」

「主任。悲しくなるから辞めてください。そもそも、あの人たちが望んでいるのは、利権もですが、スキルの情報ですよ?」

「わかっている。ただの愚痴だ」

「私の上司が、貴女で良かったですよ」

「ん?」

「広報課は酷いみたいですよ?」

「あぁ・・・。電○の出身だったか?」

「そうです。政治家との繋がりと、利益誘導しか取り柄が無い人です」

「・・・。資料は?」

「はい。これです」

 渡された資料を受け取って、ペラペラとめくっていく。
 サイトの検索履歴をまとめたものだ。

「里見。これは?」

「あっ。その反応は、その情報が気になってしまいますよね?」

 主任は、受け取った書類に書かれていたリストの一部を指差して、部下の里見茜に質問をした。

「ギルドに登録していれば、ギルドの認証を通したほうが、詳しい情報が見られる。でも、この検索者は、認証を通していない」

「はい」

「しかし、未知のスキルを3つ。一つは、錬金だから、ロマンスキルとか、厨ニスキルを夢見ているかもしれないけど・・・」

「そうですね。錬金は、過去にも検索されたことがあります。しかし、それ以外の2つは・・・。正確には、3つかもしれません」

 主任が示しているのは、朝方に検索された。
認証なし・接続場所不明・端末不明・回線不明
 不明づくしのアクセスだ。

 その身元不明者が検索していた項目が、”スキル:スキル・経験保持”と”スキル:スキル保持”と”スキル:経験保持”だ。もちろん、シークレット情報にも存在しない。未知のスキルだ。
 ”スキル:錬金”も検索しているが、こちらも未知なのだが、過去に何人かが検索している。

「気になるのが、このユーザは、魔物はスライムのみの検索です」

「里見。どう思う?」

「榑谷主任。このユーザは、他にも”物理耐性”と”アイテムボックス”を調べています。物理耐性は、長くページに留まっています」

「それで?」

「スライムを倒して、スキルを得た・・・と、考えることが出来ますが、実動部隊や過去の事例から、ありえないと考えています」

「そうだな。スライムが、スキルを得たり、スキルを持っていたり、スライムを倒してスキルを得たという報告は、表には存在しない」

「え?表では?」

 榑谷は、見ていた端末を、180度回転させて、里見にディスプレイを向ける。

 里見は、見せられた資料に目を通して絶句した。

「なんて物を見せるのですか!」

「極秘資料だ。他言するなよ。最悪は、首が物理的になくなるぞ」

「だから!」

「すごいだろう?最前線の最新情報だ」

「それにしても・・・。蠱毒ですか?」

「このユーザが、この自衛官で無い限り、どうやって、スライムがスキルを持っていることを知ったのだろうな?」

「・・・」

「それに、このユーザは、”魔物の食事”や”共食い”を調べている」

「あっ」

 勘違いが産まれている。
 まず、スライムやスキルを検索したのは、”魔物(スライム)”になってしまった人間だ。そして、”自分が持っている”と思われるスキルを検索したに過ぎないのだ。蠱毒で産まれたスライムが、”物理耐性”を持っていて、その物理耐性を調べていたために、誤解が産まれた。
 そして、自衛官でも一部の者しか知らない情報であり、ギルドに至っては、二人しか知らない事実だ。ギルド本部でも知らない事実を知っている人物が存在する。
 検索ワードだけを並べて考えてしまった。二人は、勘違いの連鎖から、このユーザは、自衛隊が極秘で行っていた実験を、自分でも行い。スライムがスキルを取得することを知ってしまった。その過程で、魔物が食事や共食いを行うことを知って調べているのだと思ったのだ。

「不思議だよな、どこで知った?知っていたとして、なんで調べているのか?」

「このユーザは・・・。自衛官ですか?でも、自衛官なら、対策室のデータベースがありますよね?」

「そうだ。不思議だ。未知のスキルを取得して、蠱毒を行う。富士の樹海に住む仙人か?」

 自衛隊が、富士の樹海で秘密実験を行っているのは、公然の秘密だ。

「そうかも知れませんが・・・。樹海から、スマホは繋がりませんよ?」

「そういう、面白くない見解を聞きたいのではない」

「はい。はい。主任。打ち合わせの時間まで、1時間しかありません。資料の説明をします」

「そうだな。すまん」

 榑谷は、”未知のスキルを検索する仙人”を気にしながら、部下の里見の報告を聞いている。

「わかった。仙人以外は、いつもどおりだな」

「主任。仙人はコードネームとしては、マイナスです」

「そうか?解りやすいと思うが?」

「”不明だらけで、実体がない”ということで、コードネームは、”ファントム”とします」

「里見・・・。お前・・・。14歳が犯される病が治っていないのか?」

「だれが、中二病ですか!私は至って普通です。ふ・つ・う!」

「普通だと思っている人物の方が、重症だと聞いたぞ?」

「誰からですか?」

「秘密だ!お!そろそろ時間だ。爺の相手をしてくる」

「機嫌のいい状態でのお帰りを心待ちにしております」

 丸めた書類で、頭を下げる里見を軽く叩いてから、部屋を出る。

 榑谷が出た部屋には、”情報管理課”と”スキル管理課準備室”と”登録者管理課準備室”の札が掛けられていた。

 榑谷が出ていった部屋では、里見茜が、自分用のデスクに用意されている端末を起動する。

”どうにか、ファントムの所在地だけでも調べられないか?”

 ネットワークの専門家に問い合わせているが、色よい返事が来ていない。
 端末情報を誤魔化すだけなら、AGENTを誤認させればいい。プロキシを経由しているのはわかっている。

 スキルや魔物を調べているので、中部地方だと考えられるが、先日の会議で、小説家や小説家の卵が、ギルドのデータベースにアクセスしていると知らされた。現実世界に現れた、魔物やスキルは、想像を補うのには十分な資料になりえる。

”ファントムもだけど、気になる未知のスキルがある”

 ”魔物化”これも、一回だけ調べられているスキルだ。
 これは、スマホからの検索で、持ち主もわかっている。接触はまだしていない。現在、調査課が動いている。

 調査課からの報告では、静岡市内から、新幹線を使って、名古屋に仕事に言っている男性が契約している端末となっている。
 魔物と遭遇するような仕事ではないので、スキルを調べる必然性がない。妻と子供と3人で暮らしている。長男は、成人していて、一緒には暮らしてはいない。次男は、市内の高校に通っている。

 調査課には、文句を言われているが、スキルを持った者が、必ずギルドに登録してくれるわけではない。
 なので、ギルドで未知のスキルを検索した者は、確認するようにしている。そのために、データベースの検索を誰でも出来るようにしている。詳細な情報は、出していないが、既知にして問題はないと思えるスキルや魔物の情報は、小出しだが出すようにしている。

 提出した資料は、いつもとそれほど違わない、いつもと同じで見つかっては居ないが、何度か検索されたスキルは多い。

 ギルド員ではない者からの検索で多いのは、”不死”/”透視”/”治癒”/”不老”/”念話”だ。他にもアニメやマンガの世界で使われるような、”火魔法”とかで検索してくる。実際に、”火魔法”と類似したスキルは存在している。しかし、一回使っただけで、精神力がなくなり、意識を失うような物ばかりだ。確かに驚異だが、いきなり戦闘で使えるような物ではない。

 他のスキルも同じだ。

 スキルの訓練をしなければ、使いこなせない。

 そして重要なことは、最初に表示される説明文をしっかりと読み込むことだ。記録に残せる技術がなく、説明が一度だけで消えてしまう。消えてしまったら、説明がない状態で、スキルを使うしか無い。
 一度の表示で、しっかりと説明を読んで理解をしないと、手痛いしっぺ返しを受けることになる。

 まだ見つかっていない、アンデッド系の魔物から、”不死”のスキルが得られる可能性は考慮されているが、国際ギルド本部でも、アンデッドから出る”不死”は、人間をアンデッドに変換するスキルだと考えられて、注意喚起が行われている。

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