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第十話 【カミドネ】街


 神聖国と王国の間にあった、中規模のダンジョンが魔王ルブランに攻略された。
 魔王たちは、インフォメーションでその事実を知った。

 攻略されたあとも、神聖国と王国の間にあった、中規模ダンジョンは消滅しなかった。
 魔王ルブランが、攻略して殺さなかった。

 しかし、その後が異常な状況だ。
 魔王ルブランに攻略されて、ポイントを奪われたはずの魔王が、魔王カミドネを名乗りだして、元々洞窟型のダンジョンが、大きく変貌した。まるべ、魔王ルブランのダンジョンの様になってしまった。

 支配領域を一気に増やした。
 これには、神聖国と王国が慌てだした。特に、王国は神聖国を通じて、連合国と帝国から物資を輸入していた。元々は、中央ダンジョン。現在の魔王ルブランの領域を通って物資を得ていた。しかし、魔王ルブランが台頭して、その方法が使えなくなってしまった。魔王ルブランに話を持ち掛ければ、通過位なら可能なのだが、獣人の多くを奴隷として使っている王国は、魔王ルブランの領域を通過するのを忌避した。その結果、他国との交易を、神聖国側に頼ることになってしまった。

 そして、その神聖国との間にできたダンジョン街。通称として、カミドネ街は、領域を広げた。
 交易のために使っていた行路の多くを、カミドネ街の支配下においてしまった。

 それだけでも頭が痛い問題だったが、カミドネ街は、魔王ルブランが治めるカプレカ島と同じ政策を取り扱うと宣言した。簡単に言えば、獣人の取り扱いに関する宣言だ。奴隷制度を廃止する。宣言の中には、犯罪奴隷でも調べて、理由が不明確な場合には、犯罪奴隷を所持していた者を罰する規定すらある。

 カミドネ街は、獣人の街として、認知されてしまった。

 魔王ルブランが、連合国側に作ったギミックハウスと同じ物が、王国側と神聖国側に設置された。
 これによって、魔王カミドネは魔王ルブランと同盟を結んだか、傘下に入ったのではないかと言われた。実際には、傘下に入ったのだが、情報を知らない者には、どちらでも似たような事象だ。

 カミドネ街のギミックハウスは、全部で6つ。
 王国側に2つ。神聖国側に4つだ。神聖国側は、カミドネの意向もあり、殺意が高めに設定されている。ドロップする物も、低級な物に限られている。王国側も、神聖国側よりは”まし”だけど、等級が高いドロップがあるわけではないが、ドロップの率は高い。そのために、王国の辺境に位置する村では、カミドネ街のギミックハウスに挑戦する者が増えている。

 カミドネ街の中にもダンジョンがある。
 正確には、ダンジョンの周りに街が出来ている。城壁に覆われた街だ。街は、どこの国にも属していない。ダンジョンにアタックする為に作られた街だ。

 しかし・・・。

「魔王カミドネ。後で、アタックするから、覚悟しておけよ!」

「そういうのは、酔いを醒ましてから言え。お前・・・。お前たち程度では、我の眷属も突破できない」

「ハハハ。きついな。でも、後で行くから、ドロップ品をよろしく!」

「それこそ、我では制御できない。貴様たちの運が頼りだ」

「そりゃぁそうだ!魔王カミドネ」

 魔王カミドネは、魔王ルブランの主である。魔王に屈服してから、晴れやかな気持ちになっている。
 カミドネ街を歩いている。以前では、考えられなかった事だが、魔王から教えられた知識に、”非殺傷エリア”罠という、罠があり、必要なポイントは膨大だが、フロア全体を”非殺傷”エリアに設定ができる。この時のオプションで、ダンジョンに属するという項目があり、関係者は殺傷が不可能な状況にできる。本来は、小さな部屋に設定をする罠なのだが、魔王はエリア範囲ができるように修正を行った。ダンジョンに属する者も攻撃ができないという条件を付与することで、ポイントを抑えることに成功した罠だ。

『魔王様。楽しそうですね』

「キャロか?」

『はい。魔王様。お側に』

 魔王カミドネが、足下を見ると、角兎が影から顔を出していた。

「キャロ。私の事は、カミドネと呼べと伝えたはずだ」

『はい。魔王・・・。カミドネ様』

「それで、キャロ。どうした?」

『はい。カミドネ様が、以前と違って楽しそうなので、私を含めた、眷属たちも楽しいというご報告です』

「そうだな。前は、こんな感じに、外を歩けるとは思わなかった。それに、我を越そうとしていた者たちと会話をして、軽口を叩きあって、笑いあう。魔王様には感謝だな」

『・・・。カミドネ様』

 角兎のキャロは、複雑な気持ちで自分の主人であるカミドネの話を聞いていた。
 自分たちが、魔王ルブランの眷属を抑えられれば、攻略されなかった。攻略されなければ、魔王カミドネは、日の当たる場所を歩けなかった。殺されなかったのは、魔王ルブランが魔王カミドネを傘下に加えたからだ。
 それで、眷属たちも大きく変わった。
 眷属たちが進化をした。角兎であり、最弱に分類されていたキャロでも、人族の騎士程度なら簡単に屠れる力を得た。種族も進化しているが、キャロはカミドネが設定した。角兎の姿で過ごしている。他の眷属たちも同じだ。皆が、カミドネが設定した姿のまま進化をした。眷属たちが、喜んだのが、魔王カミドネと会話ができるようになったことだ。こればかりは、魔王ルブランに感謝した。

 そんなキャロが、少しだけ警戒した声を発した。

「どうした?」

『はい。イドラから緊急連絡です』

「イドラ?森で何か発生したのか?」

『はい。イドラが戻ってきて、ご報告をすると言っています』

「わかった。場所は?」

『西門です』

「わかった」

 イドラは、フォレストウルフだ。進化して、種族は変わっているだが、姿はフォレストウルフのままだ。

 魔王カミドネは、西門に急いだ。
 西門は、普段は締め切っている。森に異変があった時や、カミドネ街が攻められた時に対応する為の場所だ。森に面しているが、城壁には堀が彫られている。森までの距離も開けられている。戦闘行為が可能だが、見られずに攻撃をするのは不可能な距離だ。

 魔王カミドネが、西門に到着した時には、結界を突破したイドラが待っていた。

「イドラ!」

『魔王カミドネ様』

「緊急事態か?」

『緊急事態には、相違ありませんが、慌てる必要はないかと思います』

「ん?」

『今、フォリ殿が向かっています』

「フォリが?」

『はい。到着してから、ご説明します』

「わかった」

 フォリが到着して、イドラが説明を始める。

「イドラ。確定か?」

『はい。聖騎士。100名。神官と思われる者が200名。奴隷(獣人)兵が1,000。森林内に陣を構築していました。軽く攻撃して、眷属を忍ばせて確認しました』

「イドラの眷属が確認したのなら確実だな」

『はい。カミドネ様。俺たちだけで対処が可能です』

「ダメだ!」

 フォリに遅れたが、他の眷属たちも集まってきた。
 魔王カミドネの強い言葉に吃驚してしまった。以前から、強い言葉で命令を発することがなかった主人が、否定したのだ。

『魔王様』

「イドラ。君が言っているのなら、この戦力で対処が可能だろう。実際に、今までも対処してきた」

 眷属たちが頷いている。
 実際に、今までも神聖国から同規模の戦力で攻められた事がある。その全てを撃退している。眷属たちも進化している。以前よりも容易に撃退ができるだろう。フォリを除く、眷属は同じ意見だ。

「皆。俺は・・・。私は、お前たちを失うのが怖くなってしまった」

 魔王ルブランにダンジョンを攻略されて、消滅の一歩手前になって、初めて、自分が消滅する恐怖を味わった。
 自分が消えるのは、負けたのだからしょうがないと思っていた。しかし、自分が消えるのは、眷属たちも道連れにすることだと思い至った。そして、眷属の誰かを失いたくないと、心から思った。

「魔王ルブランを頼ろう。フォリ。カプレカ島に行ってくれ」

「はい」

「イドラは、引き続き、神聖国の状況を監視、特に、食料が運び込まれそうなら、キャロたちと協力して阻止」

 魔王カミドネは、魔王ルブランの配下になってから、初めての大規模な防衛線を経験することになる。

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