第六話 検証
魔王カミドネの発言に違和感がある。
「ルブラン」
セバスに確認をさせる。
俺が”今”確認するのは、カミドネに情報を与えることになる可能性もある。別に隠しておいてメリットがある情報ではないので、構わないのだが、セバスに確認をさせた方がよさそうだと考えた。
「はっ。確認しましたが、ヒールのスクロールは、1万です。それから」
「なんだ?」
「治癒のスクロールが出現していますが、そちらは100万です」
”ヒール”と”治療”何が違う?
「ん?ヒールと治癒で違うのか?」
100万なんてスクロールは、かなり高位なスキルなのか?
「おそらく、カミドネが使えていた物が、我らにも使えるようになったと思われます」
ルブランが、説明を読みながら推測しているが、確かにカミドネのダンジョンを支配したのだから、カミドネが交換できた物が表示されるのは当然だ。スクロールが魔王で違うとは少しだけ意外なことだ。どうやって覚えさせるのか気になるが・・・。これから検証すればいいだろう。
「それにしても・・・」
ルブランが、スクロールの説明をしてくれた。
ヒールは、俺が作り出した物で、ゲームなどでよくある物だ。治癒は、どうやら神聖国が作り出した物らしく、神聖国以外では100万も必要になる。それで使える権能は、ヒールは、怪我や病気を治すのに対して、治癒は失った生命力を復活させるという意味がよくわからない物だ。
「魔王カミドネ。治癒のスクロールの権能は知っているか?」
跪いていた魔王カミドネを立たせて、話がしやすい状態にする。
従属したからと言って、跪かれるのは好きじゃない。セバスなどは、跪かせたいのだろうけど、跪いたからと言って、気持ちがなければ意味がない。
「あぁ神聖国の奴らが使っているのを観察した。我のダンジョンでも使えるようにしたかったが、コストが悪すぎて諦めた」
100万のコストに見合う物ではないのか・・・。
たしかに餌として考えれば、1万の物を100個用意して、宝箱に入れた方がコストパフォーマンスとしてはいいだろう。それに、”治癒”のスクロールがあると宣伝しても、実際に取得した者が現れなければ
「それで?権能は?」
「ん?今、ルブラン殿が言った通り。失った生命力を取り戻すのが、治癒だ」
その失った”生命力”というのがよくわからないから聞いたのだけど、何を偉そうに言っているのだろう。
生命力と聞いて、思いつくのは”ゲームでよくある、ヒットポイント”だけど、そんな都合がいい値が存在しているとは思えない。俺が知らないだけで、詳細なステータスがあるのか?
聞き方を変えるか?
「魔王カミドネ。怪我は、治癒で治せるのか?その時に、傷跡はどうなる?」
「ふむぅ・・・。何か、勘違いされているようだ」
「勘違い?」
「あぁ。治癒は、ダンジョンで負った
「はぁ?」
「スクロールで得た”治癒”は、ダンジョンだけで使えるのが普通だろう?」
「魔王カミドネ。”治療”以外のスクロールには、そんな制限はないぞ?」
「あるぞ?スクロールを使って得たスキルは、ダンジョンの中でしか発動しないスキルの方が多いのではないのか?」
カミドネが言っていることが解らない。
スクロールから得たスキルと、最初から取得しているスキルに違いがあるのか?
そもそも、スキルは同じだろう?
訓練で得たスキルと、スクロールで得たスキルに違いがあるとは思えない。あるとしたら、元々のスクロールに付与された権能だ。
俺が、眷属や子供たちに渡したスクロールでは、ダンジョンの中だけで使える権能は付与されていない。はずだ。
「ルブラン?」
セバスを見るけど、首を横に振る。”ヒール”はそんな制限はない。
俺の認識が正しい。どういうことだ?
そうだよな。
ミアやヒアを治した。その時には、ダンジョン以外で負った怪我も在ったはずだ。それが綺麗に治っている。
俺が間違っているのか?
実際に、行われた結果からは、カミドネが言っていることが間違っている。俺の常識と、彼の常識が違っている可能性が高い。
「魔王カミドネ。スクロールで”ヒール”を習得させた者は、ダンジョン以外で負った怪我を治した。病気もある程度は治せた。力を込めれば、身体の欠損も治せた」
「・・・。それは・・・」
魔王カミドネが驚愕の表情を浮かべる。そこまで、不思議な事なのか?
スクロールで得た力だろうと、スキルになってしまうのだから、外で使えないほうが驚きだが・・・。
「どうした?」
「そのスクロールは?」
「ん?ギミックハウスでドロップしているぞ?」
スクロールをドロップさせれば、それが餌となる。いい餌が有れば、いい魚が釣れる。実際、ギミックハウスの収支は完全に黒字だ。
「なっ・・・。それで・・・。我のダンジョンでも・・・」
「貴様のダンジョンで配置ができるのなら、使っていいぞ。統合されているようだから、出ているのなら、使っていい」
「わかった」
カミドネが、虚空を触っている様子だ。そうか、俺と違うのだな。手の形や指の動きから、本を捲っているような感じだ。スマホの画面では無いのだな。
面白いな。多分、モノリスが解りやすい形状になっているのだろう。
「スクロールだけでなく、罠や書物や魔物まで増えている?え?それに・・・」
「あぁ生活を豊かにするためだ。魔王カミドネは、電気は解るか?」
「あぁ・・・。物では、解らない物も多いが・・・」
電気が解るのなら、ある程度の話ができるのだろう。科学や物理は、時代で違う可能性はあるが、基礎は大丈夫だろう。
今後のことを考えると、セバスあたりのブレーンには丁度いいかもしれないな。ミアとかヒアの教師役には丁度いいだろう。
「渡したポイントは好きに使っていい。ダンジョンの中で人を殺す必要はない。最終階層前には守護者を大量に配置している。安心してくれ」
「わかった」
「地上に、新生ギルドの出張所を作る。人を集める」
「わかった。人を集めてどうする?」
「ん?集まれば、それだけで微量だが、ポイントになるぞ?」
「え?」「は?」
また、認識の違いなのか?
魔王カミドネに、説明するが、魔王カミドネが知っている内容と違っていた。魔王カミドネのダンジョンは、地上部分は最低限の領域しか展開していなかったのか?
どうやら、話を聞いていて解ったのは、連合国に居る魔王に騙されていた。
直接のやり取りではなく、ギルドを通しての間接的なやり取りなのだが、連合国の魔王から情報を貰っていたようだ。
おそらく、騙されていたのだろう。人が居るだけで、ポイントが得られるのは、カプレカ島だけではなく、この魔王城でも事実として認識している。それに、人数が増えるだけではなく、生活の質を上げれば、それだけ多くのポイントが得られている可能性がある。
メアやヒアたちを眷属にした時に、本来なら取得できるポイントが減るはずなのに、増えた実績がある。健康状態が関係しているのか、幸福感が影響しているのか解らない。
「魔王カミドネ。貴様のダンジョンの改修を行う」
「わかった」
「攻略は、不可能だと考えてくれていい」
「え?」
「この世界に、90階層のダンジョンを攻略して、さらに最終段階でボスラッシュを潜り抜けられるような者が居るのか?」
「はぁ?」
「だから、100階層は、貴様の居住区にしてある」
「わかった。解らないが、わかった。ダンジョンに戻ってから、確認する」
「そうしてくれ」
手を上げると、セバスがカミドネの所に移動した。
そのまま、セバスとカミドネが俺に深々と頭を下げてから、玉座から出ていく。
残された俺は、自分の部屋に転移して、モノリスを確認することにした。