第十七話 【ギルド】会談前
朝から・・・。いや、正確には3日前から、緊張してしまっている。
今までの会談とは、持っている意味が違う。メルヒオール様が控えているが、自分が全面に出なければならない。
魔王ルブランは、理知的な魔王だ。いきなり、激昂して我らを処断するような状況にはならないだろう。
今までの報告では、魔王ルブランは従者たちを愚弄した者や、自ら作り出した物を粗雑に扱った者には、厳罰をもって接しているが、自分自信への暴言には寛容な態度を示している。それが、苦言だとしたら、その者に褒美を取らせたこともある。
「ボイド。今から、それでは持たないぞ」
「そう言っても、結局のところ、求められている情報が解らない以上・・・」
魔王ルブランが求めている情報が解らない。自分たちが持っていない情報を持っている可能性もある。特に、帝国からの情報では、魔王ルブランは7番隊ですら知らなかった情報を簡単に開示してきた。帝国の貴族に関する不正の情報だ。
「ボイド、未知は確かに怖いが、今から対峙するのは、未知な者ではない。底は解らないが、表面だけ見れば、既知の存在だ」
「しかし」
「大丈夫だ。今までの、魔王ルブランの所業から、最悪の場合でも、二人だけで済むはずだ。だから、ティモン殿は置いてきた」
「わかっています。しかし・・・」
「ボイド。考えれば答えが出るのか?」
「いえ」
「それなら、考えるだけ無駄ではないか?」
「それでも」
「素直に解らなければ、”解らない”と、”答える”しかない。魔王ルブランが、ギルドの情報を欲しているのなら、儂が説明する」
「わかりました」
指定の時間まで、余裕があるために、カプレカ島にあるギルド支部に立ち寄った。支部の設立は、魔王ルブランの条件を丸呑みした形だが、小さな問題の発生もなく、運営が行えている。他の、ギルドよりも問題が少ない状況だ。
魔王の支配下で、おかしな行動をしたら、その時点で”死”が連想されるために、支部を使う者たちも、約束事を守っているのだろう。
実際に、視察をした時には静かだった。
今日は、静かではないが、喧噪とも違う。活気に溢れている印象だ。
ドアがノックされる。魔王ルブランが到着したのか?
「ボイド様。ルブラン様が到着されました」
「ありがとう」
チップとして帝国銅貨を1枚取り出す。
「ありがとうございます。しかし、受け取れません。私たちは、魔王ルブランさまから十分に頂いております」
ここは、素直に銅貨をひっこめる。
「それは失礼した」
「いえ、お心遣い。嬉しく思います」
人族の少年が頭を下げる。
教育もしっかりと出来ている。カプレカ島に居るのは、元奴隷か奴隷の家族だと教えられている。それなのに、連合国にあるギルドのメンバーに見習わせたい。
「ボイド様?」
「失礼。それで、ルブラン殿は?」
「お屋敷に入られました。ご案内いたします」
「わかった」
「お二人ですか?」
人族の少年は、私とメルヒオールを見て首をかしげる。
「そうだ。私と一緒に行くのは、メルヒオール。城塞町・・・。城塞村の代官代理をしている。今回の会談で、ティモン代表から、全権を委任されている」
普段よりも説明口調になってしまう。
「ボイド殿。メルヒオール殿。失礼をいたしました。私は、城塞村のギルドからお越しの方は、7名と伺っておりました」
7名と聞いて、背中に嫌な汗が流れる。
メルヒオールを見ると、こちらを見ている。
ダメだ。
やはり・・・。
「すまない。護衛を、城塞村から連れてきている。その者たちが、5名いる。しかし、会談に向かうのは、二人で間違いはない」
「わかりました。ご丁寧にありがとうございます。ルブラン様の館には、2名で伺うと、通達を
今、”行いました”と言ったのか?言い間違えか?いや、確実に違う。この人族も、魔王ルブランから何等かの力を得ている。
メルヒオールを見るが、同じことを考えているようで、目を見開いて人族の少年を見ている。
「案内をお願いする」
「はい。こちらです」
人族の少年を先頭に、ギルドを出る。
前を歩く少年は、有名なのだろう。ギルドの職員だけではなく、ダンジョンに挑戦する者たちも、少年を見て道をあける。威厳があるわけではないが、力を感じる。
「メルヒオール」
「ボイド。何を考えているかわかるが、儂が全力で戦って・・・。全盛期の儂が、全力をだしても、ギリギリだ」
「それほどか?」
「これを見ろ」
メルヒオールが握った手を広げる。
汗が滴り落ちてしまうのではないかと思うくらいに濡れている。
「さっきから、震えが止まらない。戯れに、威圧を強めてみた」
「おい!」
「すまん。しかし、笑みを向けたまま、儂にだけ、威圧を返してきた。明確な”死”のイメージだ」
「・・・。”気を引き締めろ”と、いうことだな」
「そうだな。ルブラン殿は、理知的だとしても、周りの者が同じだとは限らない」
「あぁ」
メルヒオールとの会話は聞こえているのに、反応を示さない。それだけ、訓練を受けているのだろう。
こちらの話に反応を示してくれた方が、恐怖は感じない。圧倒的な強者にだけ許された態度に思えてしまう。
「こちらです。ルブラン様は、すでに到着されております」
「ありがとう」「貴殿の名前を伺っても?」
「失礼いたしました。私は、ヒオと申します。メルヒオール様」
「たしか、ルブラン殿の配下には序列があると聞いたが?貴殿の序列は?」
「フォースですので、序列はありません。次の選考でサードにはなりたいと考えております」
ヒオと名乗った少年は、笑いながら、ドアをあけてくれた。質問の意図は、わかるが・・・。それにしても、フォースだったのか?フォースの上位だとしても、1000位台?選考には、戦闘力だけではないのは知っているが、この少年がフォース?文官と武官で別れているとして、この少年が、”武”に寄っていると考えても・・・。
メルヒオールを見れば、面白そうな表情をしている。
いきなり戦闘を始めないで欲しい。これから、城塞町だけではなく、ギルドとしての・・・。人類の未来が掛かっている会談なのだ。私たちのミスは、魔王ルブランが、本当の魔王になってしまう可能性がある。命を賭して戦う者だけではなく、魔物も使役できる魔王に人類は抵抗が難しい。
産まれたばかりで、これだけの施設や仕組みを作り上げた魔王が、人類に牙を剥いたら・・・。
ドアを抑えているヒオが、強者として振舞えない事実がある。
ギルドにくれば、間違いなく上位者だ。それも、一握りの強者に数え上げられる。
ティモン殿の7番隊と私が鍛え上げた者たちが、見つかっている。カプレカ島に一緒に来たわけではない。それなのに、明確に”7名”と伝えられた。
部屋の中心にある。
質のいいだろうソファーに座る。女性が、魔王ルブラン。このカプレカ島だけではなく、周辺を支配する。魔王。
後ろに控えるのは、四天王と呼ばれる者の一人だろう。こちらの人数に合わせてくれたのだろうか?
魔王ルブランと四天王の一人、そして、従者なのだろう。狐人族の少女と、人族の少年が、控えている。
ドアが開いたのに、魔王ルブランは動かない。強者に許された態度だ。
従者の二人が、歩み寄ってくる。訓練されている。二人を抜けて、魔王ルブランを襲っても、あの四天王の一人まで届かないだろう。
「城塞村から、ギルドの代表。ボイド殿。城塞村の領主代行のメルヒオール殿です」
「ヒオ。ご苦労様。控えていてください」
「はい。ありがとうございます」
少年。ヒオは、扉を開けている。しかし、部屋には一歩も入っていない。
この部屋には、許された者だけしか入られないのだろう。
権威付けとしては、正しい行いだろう。それに、出迎えた、狐人族の少女でも、人族の少年でもなく、魔王ルブランの後ろに控える女性が指示を出している。
ヒアとメア。そして、控えるのが、モミジ殿なのだろう。
魔王配下のトップが来ている。それだけ、重要だと考えてくれているのだろう。希望的観測は危険だが・・・。