第十二話 御前会議
憂鬱な気分になっている。
しばらくは、マイマスターと楽しい時間が過ごせていた。
書庫で読んだ本の内容を、マイマスターに質問する。マイマスターが解らなければ、また新しい本を取り出していただける。その一連の流れで、マイマスターと楽しい時間が過ごせた。
「ルブラン!」
あぁ”セバス”とは呼んでもらえない。モミジたちだけではなく、ヒアとメアも居るから”セバス”呼びが無理なのは理解している。でも・・・。
そして、ヒアはメアを気にしている。メアの目線は、マイマスターに注がれている。
「はい」
「攻めてきたのは、連合国だな」
「はい。現在、森の手前で陣を構築しています」
メアが手を挙げる。
この場は、マイマスターと私以外は同列だと宣言されている。私は、マイマスターの座る玉座の横に立って、皆を見下ろす立ち位置だ。最初は、マイマスターを見つめるために、下がろうとしたら、マイマスターから、”ルブランは、俺の横に来い”と言われた。マイマスターを見ていられないのは残念だけど、マイマスターが私だけを特別に扱ってくれているのは、率直に嬉しい。
モミジが、メアに耳打ちしてから、メアが手を挙げたことから、二人の考えなのか、メアがモミジに聞いていたのか?
マイマスターが私を見て、視線で指示を出された。
この場は、私が議長を務める。
「なに?メア?」
「はい」
メアが立ち上がって、マイマスターに深々と頭を下げる。
マイマスターは、手でメアを制してから、話を始めるように伝える。
「はい。魔王様。森の外側だと、カプレカの領域外です」
皆がうなずく。
魔王城は、魔王城の呼称を認めた。全部の領域を、カプレカと呼ぶようになった。魔王様が、帝国やギルドと交流する場所を、カプレカ島と呼称してから、全体を”カプレカ”と呼称して、カプレカの島という位置付けで、”カプレカ島”と呼ぶことになった。
領域外とメアが表現したが、私だけに教えられている情報で、マイマスターのお力の源である”ポイント”を得るためには、領域内で生物を捕縛するか、殺す必要がある。条件はもっと複雑らしいのだが、マイマスターでもまだ全容を掴みきれていない。
私以外の者には、カプレカの
「そうね。それで?」
「連合国は、愚かにも、魔王様を討伐すると言っています」
そうだ。
連合国は、”魔王の討伐”を掲げている。愚か者の、連合国が言っている魔王は”ルブラン”だ。それはそれで、マイマスターが安全になるので、よい方向なのだが、気分が悪いのは間違いではない。
マイマスターは、穏やかな日々を望んでおられる。攻められれば、撃退するが、ご自分から攻めようとはしない。
「それで、メア。なにか、いい作戦でもあるのか?」
バチョウがメアの言葉を、拾って質問をする。
マイマスターが上下を無くした結果、活発な議論に発展するようになった。緊張しているのは、ヒアだけだろう。
「バチョウ様。愚か者たちは、陣の構築を始めています。高位の者が居るのか、堅牢な陣です」
「あぁ」
「しかし、鎧の色や動きから、いくつかの団体の集合体です。そして、労働力は奴隷です」
奥歯を噛みしめる音が聞こえてきそうな表情だ。
「それで?」
「魔王様。ルブラン様。今回の敵は、殲滅ですか?撃退ですか?」
メアの質問に、視線がマイマスターに集中する。
「うーん。大軍だよね?」
マイマスターが私を見上げるようにして質問をしてくれます。
「はい。魔王様。愚か者は、5万を越えています」
「そうか・・・。今回は、撃退で行こう。それと、森の外側に陣取られるのは気分が悪い。森の近くに、街が出来るのは許容できない」
マイマスターの裁可が出た。
「メア!」
私の呼びかけに、メアは背筋を伸ばす。私をひと目見てから、マイマスターに向き直り、軽く頭を下げる。マイマスターから”異”は告げられない。メアが続けて、発言するのを許している。
「はい。魔王様。主要人物は捕らえたいと思います。また、奴隷兵には、慈悲を・・・」
マイマスターを見つめる目が真剣な物に変わる。
「そうだな。問題がない奴隷兵は、解放しよう。島や村に住まわせればいい」
マイマスターがおっしゃった”村”は、城塞村ではない。
一番、外側に広がるのが、一の城塞。ついで、六芒城塞。そして、一番内側の魔王城となる。”村”は、魔王城の近くを、元奴隷たちに解放して、村を作成した。マイマスターは”村”と呼んでいる。実験施設や、マイマスターが提供された物で作った道具を最初に試す場所になっている。元奴隷たちは、農業をしながら生活を行っている。マイマスターから提供された植物を育てて、カプレカ島や城塞村に販売をしている。一部の者は、カプレカ島や城塞村に働くために通っている。
「はい!」
メアが嬉しそうな表情をする。
偵察から戻ってきて暗い顔をしていた。奴隷の扱いが酷かったのだろう。
「メアの考えた作戦は?」
マイマスターからメアに催促の言葉が告げられる。
「はい。魔王様。分断作戦は、前回の戦闘で試しましたので、今度は兵糧を奪い、後ろから中央突破、半包囲作戦をご提案します」
「ほぉ。メア。詳しく、説明しろ」
「はい!」
マイマスターが前のめりになる。
興味が湧いたのだろう。メアから相談を受けて、情報の共有を行った。本当に、マイマスターの為なら、命さえも惜しくない。メアは全身からマイマスターへの忠誠を感じる。敬愛を通り越して、信仰に近い感情だ。だからこそ、皆がメアに協力を惜しまない。私も、同じだ。
マイマスターが、メアやヒアを妹や弟だと思っていらっしゃる。
私たちは、マイマスターの役に立つ、メアやヒアを重用する。ただそれだけだ。
メアは、ヒアを使って、作戦を説明している。
敵の背後に出る方法が、少しだけ不安があるが、それ以外は面白い作戦だ。
バチョウとカンウをうまく使っている。同時に、奴隷兵から二人が認めた者たちを連れて行くことで、実戦経験を積ませる。
「どうでしょうか?」
「大筋はいいと思うけど・・・。バチョウ。兵たちをわからないようにして、敵の後方に展開させられるか?」
「そうですね。俺とカンウだけではダメですか?」
「ダメだ。今回は、敵の首脳部を捕らえる事と、前線基地として使えなくするのが目的だ」
「そうなると、兵は俺とカンウで、それぞれ1,000で、2,000は欲しい。後方に展開するのは、少しだけ難しいですね」
「そうか・・・」
ヒアが手を挙げる。
「ヒア。何か、いいアイディアがあるのか?」
「はい。魔王様。メアの作戦を少しだけ変えて、カンウ様とバチョウ様が、敵を左右から迂回するときに、森から魔物を突撃させてみたらどうでしょうか?」
「陽動か?」
「はい。それに、魔物が森から出てくる可能性を、連合国に埋め込めれば、砦の構築を諦めるかもしれません」
ヒアの修正案は、皆が納得する。
メアだけが、なにかを考えている。
「ヒア。でも、魔物が攻めてくると解ると、連合国が攻勢を強める可能性があるわよ。そして、倒されたら、素材を奪われる。そんな情報を渡すくらいなら、殲滅しなければならない」
メアは、先を考えているようだ。
マイマスターが優位な状態になっているのは、魔王城の情報を渡していないからだ。私の懸念も、メアが言っている事と同じだ。森から、魔物が出てこないから、周辺国は魔王城に無闇に手を出してこない。素材を取りたい者は、危険を犯して森に踏み入れるしか無い。
「そうだな。メアの作戦案をベースに、ヒアの追加を修正しよう。メアの言っているように、魔物を森から出すのは、やらないほうがいいだろう。連合国方向にだけ魔物が出るのはダメだ」
「はい。もうしわけありません」
「ん?ヒア。方向性は間違っていない。魔物じゃなくて・・・。そうだな。ルブランは、俺の側に居て欲しいから、モミジを指揮官に500の兵で、作り始めている陣地を攻撃しよう。遠距離攻撃ができる者を中心に編成しろ。森から少しだけ出た位置から攻撃をすればいい。嫌がらせのように、闇夜に紛れたり、陽の光を背にしたり、いろいろ試してみよう」
マイマスターから、作戦案の承認と修正が行われた。
これから、私たちで詳細な作戦を考察する。同時に、編成を行う必要がある。全体で、3,000程度は必要になる。武器や防具は、ある程度は大丈夫だろう。スキルの配布も考えなければならない。