第二十七話 魔王の所業
さて、そろそろ不快感が上回ってきた。
今、セバスと一緒に魔王城(仮称)で、武器や防具を持っていた者たちの話を聞いている。
話の内容は、速報として俺のところに届けられるが、気分が悪くなってくる。
「ルブラン!」
どうやら、奴隷たちは、無理やり戦いに参加させられたのは間違いないようだ。
村を襲われて、家族の命と引き換えに奴隷になった者や、目の前で家族を惨殺されて、心が折れてしまって奴隷になった者も居る。
「はっ」
奴隷の前で、セバスが俺に対して頭を下げる。
セバスやモミジからの助言だ。魔王城(仮称)の内部で生活させる可能性がある者たちには、ルブランに上位者が居ることを周知した方が、今後の活動を考えると都合が良いと言うことだ。問い詰めるとそれだけではなく、セバスの心情としても、モミジたちも、セバス(ルブラン)に、奴隷たちの感謝が向くのが許せないようだ。俺は、気にはしていないが、配下としては譲れないらしい。
外交面では、ルブランが全面に出る。内部は、俺が上位者だが、魔王はルブランだとする。
奴隷たちに動揺が走るのが解る。
「ルブラン。モミジ。闇スキル持ちで、奴隷を開放せよ。全ての関係者に、呪として返せ!」
俺はルブランが座っていた玉座に座る。
「「はっ。マスターの御心に従います」」
セバスを先頭にして、31名が、俺の前まで移動してきて、一斉に跪く。
「ルブランは、子どもたちの奴隷を解呪せよ。モミジは、闇スキル使いを連れて、他の奴隷たちを解呪せよ」
闇スキルを持っている者が、立ち上がって、奴隷たちの元に移動する。
子どもたちは代表者だけを呼んでいる。子どもたちを連れて、ルブランが移動を始める。それを見た、モミジも奴隷たちと一緒に移動する。
子どもたちには、自由を与えているが、後で捕らえた奴隷たちには自由は許可していない。過去を覗いて、”罪がない”と判断した者だけの集団にはしているが、”魔王”という存在に敵対する者が混じっている可能性が有るためだ。
奴隷の解呪を実行したあとで、セバスからの提案で、契約を結ぶことにしている。子どもたちは、全員が契約に賛同している。デメリットも説明している。
契約のデメリットは、”魔王が討伐されると死んでしまう”ことだ。奴隷と違って、強要されることはない。肉体に痛みを与えるようなことも存在しない。デメリットにもなる事だが、”魔王が死なない限り、死ぬことがない”がデメリットであり、メリットでもある。寿命という概念がなくなってしまう。”死”は存在する。不老でも不死でもない。成長もしっかりとする。スキルを得られれば、成長を止めることも可能だ。セバスの考察では、契約が強くなれば、”スキルが芽生える”可能性があるという事だ。メリットもデメリットも説明した上で、選ばせることにした。ちなみに、スキルがポイントで交換が可能だ。ポイントは、5,000ポイントとお安めの設定になっていた。
契約を行った者は、子どもたちと同じ様に、魔王城(仮称)の近くにある地下での生活になる。
契約を拒否した者は、領域内に作る別の地上施設で生活を始めてもらう。討伐隊の始末が終わるまでは、移動は禁止する。戦闘が終わったあとに外部に繋がる道(橋)を作成するので、好きにすればよい。
契約を望まない者たちを隔離する場所は、外に作る予定にしていた湖に浮かぶ島だ。攻められても痛痒を感じない。落とされても、いいように罠の設置だけはしておく、作成場所も変更する。
攻め込んできた者たちが最初に陣を張った場所まで、領域に組み入れて、湖にする場所に罠を設置する。落とし穴はコストが安い。水が湧き出す罠を設置すれば、湖の出来上がりだ。外壁の外側に設置していた落とし穴に繋がるように設定すれば、堀の様に見える。落とし穴を発動させた後で、罠を撤去すれば、堀を作るよりもコストが安く済む。湖は、半径400メートルの円状にした。中央に半径200メートル程度の円状の土地を作成する。10メートルの壁を外周に設置する。
門は2箇所。
一箇所は、少しだけ出っ張っている場所に繋がっている。小さな小屋が設置されていて、転移罠が設置されている。資格がある者(契約者)は、転移罠が設置されている場所に移動して、資格がない者は、地下牢に転移されるようになる。転移罠を多用している。改良案を提案したら、転移罠の改良が受理された。
もう一つの門を出ると、桟橋になっている。最終的には、橋にする予定だが、今の所は桟橋にしている。
島の中央には、洞窟の入り口を作った。
これを、降りると、所謂”ダンジョン”になっている。100メートル四方くらいの地下迷宮を作ってみる。ポップする魔物を配置していく、5階層ごとにボスを配置する。階層の深さは50階層だ。最下層から、魔王城(仮)の地下につながる通路を作る。
島は、ダンジョンが完成していないから、まだ反映をしていない。保存してある状況だ。
ポイントが貯まるのを待っている。多分、攻め込ませている者たちを始末したら、ポイントが貯まるだろうけど、搾り取るだけ、搾り取ろうと思っている。
「マイマスター。子どもたちの解呪が終了しました」
「早いな」
「はい。子どもたちは皆が従順で協力的です」
「わかった。解呪の結果は、解ったのか?」
「はい。3名の上位者と100名の契約者が居るようです。全員に呪を返しました」
「そうか、死んだか?」
「わかりません」
すぐに、モミジも帰ってきて、セバスと同じ報告を貰った。
「契約の儀も進めて欲しい」
「「かしこまりました」」
セバスとモミジは頭を下げる。
「解放者たちが住む場所は、まだ出来ていないから、悪いが地下牢で監禁しておいてくれ」
「マスター。その開放者たちですが・・・」
モミジが、顔を上げて意見があるようだ。
解放者と呼んでいるのは、解呪を行って、契約を断った者たちだ。別に俺としては、好きに生きればいいと思っているし、戻る場所があるのなら、戻ればいいと思っている。
「どうした?」
「はい。解放者たちの話を聞くと、自分たちが残ると、マスターに迷惑がかかると思って契約を拒んだと言うことです」
「どういうことだ?」
「はい・・・」
彼らは、借金があったり、家族を人質に捕らえたれたり、大切な者を捕らえられている状態で、魔王である俺の慈悲に縋ってしまうと家族がどうなるのか、最悪の場合は借金や家族を盾に、『”魔王を殺せ”と命令される』かもしれないと怯えている。『救われた命だ。魔王様に捧げたい』とも言っているらしい。
「そう言えば、カンウたちが捕らえた者が面白い物を持っていたな」
「?」
「7番隊の目とか言われている奴と、ギルドの情報官が居ただろう?」
「はい。捕らえた、10名です。3人は、帝国の7番隊の隊員でした。残りは、ギルドの情報官です」
「あぁ天幕に残っていた奴と、森ではなく、天幕の近くに居た奴だ。俺に敵対しないと言っている奴だ」
「居ます。3番と7番です」
「カンウとバチョウは戻ってきているか?二人を連れてきて欲しい。ルブラン。魔王を頼む」
「はっ。どの様に対処しますか?」
「二人には、解呪をした者たちと面談してもらう。手足を縛って、口枷をした状態だ。全ての元奴隷たちに面通しして、一人でも恨みを持っている奴が居なければ、伝令になってもらう。あぁ先に元奴隷たちには、解呪がされたことは言わないように伝えておけよ」
「伝令ですか?」
「そうだ。帝国に、戻って元奴隷たちの家族を連れてくるように命令する。従わなければ、魔王軍で帝都に攻め込む。同じく、違法奴隷の全てを連れてくるように命令してくれ、今後、俺の魔王城に奴隷を連れてきたら、”呪を返す”と伝えろ」
「マスター。奴隷を連れてこさせるのは反対ではありませんが、本人に非がある場合はいかが致しましょうか?」
「地下牢に閉じ込めればいい」
「はっ」
「モミジ。四天王と一緒に、ルブランを手伝って欲しい。大丈夫か?」
「はい。ご命令を承りました」
二人が立ち上がった。
最上階につれてくる必要がなくなった。2階の牢屋で話をすればいいとなった。それなら、後ろに従者のように控えていれば、俺も二人の話を聞ける。
カンウとバチョウは、子どもたちの能力確認を行っていた。
それが終わってから、俺の命令を実行することになった。
帝国から、全ての奴隷とは言わないけど、違法奴隷の類を吐き出させる。
攻めてきている奴らの安否は不明なままにしておく。せいぜい、魔王からの伝言に怯えればいい。