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第二十四話 おっさん眺める


 なかなかいい人材に育つかもしれない。
 アキと呼ばれている少女は、俺を見てから、仲間に話しかけている。

 俺が欲しいと思っている情報を語りだしている。
 偶然だろうが、ここで、偶然でも、そのカードを握るのは、大きな素質を感じる。何が、正解か解らない時には、自分たちの手持ちで出せるカードを確認して、カードの価値を自分たちで決めないことが大事だ。交渉は、相手が欲しがる物を、テーブルにのせることだ。自分たちで売りたいカードではない、相手が”買いたい”と、思っているカードを見極める必要がある。

 少女は、自分たちが持っているカードを必死に探している。
 少女は、少年たちから情報を聞き出している。視線から、俺に聞かせたいのだろう。俺に変化を観察して、カードの価値を知りたいのだろう。

---

「ねぇイザーク。ギルドには、まだ登録していないわよね?」

 あの人が、私の話に興味を示してくれた。
 間違っていない。まだ、気を抜いちゃダメ。イザークだけじゃなくて、私もこれからが大切。絶対に、絶対に・・・。生き残る。

「うん。サンドラの姉ちゃんたちからも辞めた方がいいと言われた」

 やっぱり、イザークならギルドの登録はできる。カカは、見た目が小さいから年齢が解る物がないとダメだ。

「なぜ?理由は聞いた?」

「え?あっ。ギルドは、騙そうとする人が多いから、登録したら、騙されるから・・・。って」

「ふーん。イザークは、年齢は大丈夫よね?」

「うん。アキ姉も大丈夫だと思うけど、年齢が解らないから、テストを受けて、試験料を払わないと・・・」

「あっそう・・・。試験料は、銅貨で5枚だったわよね?」

 サンドラさんたちとは違う理由で、私もギルドへの登録は賛成できない。

「え?そうなの?サンドラの姉ちゃんには、銀貨3枚って言われたよ?貯まったら、受けようと思って・・・」

 やっぱり、信頼しなくてよかった。
 ギルドは、確かに騙そうとしている人たちは居るだろう。サンドラたちみたいに、騙して使い潰そうとしている人たちが居る。でも、ギルドに登録してギルド員になれば、ギルドが守ってくれる。規約もあるから、騙されたと思ったら、ギルドに訴え出ることができる。でも・・・。

 試験料も、銀貨3枚?何人も受けさせるつもりなの?
 多分、イザークが信じて銀貨3枚を貯めたら、「自分たちが・・・」とか言って、騙すつもりなのだろう。

 あの人を見ると、私が聞かせたかった事が解ったのだろう。
 腕を組んで何かを考えているよう。私を見ていた視線は、イザークやカカを観察している。私を見られるのは、怖いけどまだ大丈夫。でも、イザークやカカや他の子を観察されるのはもっと怖い。

 心で負けたらダメ。
 私たちは、考えて生きてきた。弱い人を騙して襲えば、もっと簡単だという声を黙殺してきた。一度、楽を覚えたら戻られない。解っている。私の自己満足にイザークたちを付き合わせている。
 でも、貧しくても、心で負けたくなかった。

「アキ姉」

 イザークが、私を覗き込んできた。
 あの人の視線に気が付いて、思考を進めてしまった。

「ん?何?」

「アキ姉は、普段は街の中?」

 イザークから、私がしている事を聞いてくれた。
 考えての事ではないだろうけど・・・。

「私?ババ様を手伝ったり、紹介された仕事をしたり、街の近くで薬草の採取かな」

「あっ!そうだ。前に、カカが熱を出して寝込んだ時に、薬を貰ってきたの、アキ姉だったね。サンドラの姉ちゃんに頼んだら、今は手元にないとか言われて・・・。有っても、高くて手が出せなかった」

「え?イザーク、薬を買おうとしたの?」

「うん。ギルドで売っている物なら、あんなババぁの作った物よりも効くだろう?」

 イザークは、また騙されている。
 ギルドの薬は、確かに効くけど、その薬を作っているのが、ババ様だ。

「ねぇイザーク。もしかして、サンドラさんやギルドの関係の人から、薬やポーションを貰ったりした?」

「ううん。くれないよ。腕に怪我をした時に、売ってくれると言ったけど・・・。”金貨1枚”と、言われて諦めた」

「そう・・・。金貨1枚?」

「うん。怪我って、前に、塗り薬で治した奴?」

「そう!アキ姉の薬が、俺には効く。やっぱり、アキ姉だなぁって思った」

「・・・」

 あれは、ババ様の所で、試しに作った傷薬だ。あれと同等のポーションなら、低級ポーションだ。ババ様の所なら、銅貨5枚で買える。自分で作った物を売るのなら、銅貨1枚でも嬉しいくらいだ。それを、金貨1枚?
 もしかして、ギルド員は・・・。スラムに住んでいる私たちみたい者は搾取する対象なの?

 あの人を見ると、怒っているような雰囲気がある。
 呆れられている?
 どうしよう・・・。でも・・・。もっと、何か、話はない?

「ねぇイザーク。魔物を倒せる?」

「・・・。アキ姉?」

「何?」

「俺たちが倒せるのは、ゴブリンくらい・・・。だと思う」

 誇張せずに答えてくれた。
 イザークが一瞬だけ、あの人に視線を移した。やはり、”怖い”と感じているのだろう。

「武器がないから?」

「うん。これじゃ・・・」

 切られたナイフを見ている。
 そもそも、そんなナイフで魔物に立ち向かおうとしないで欲しい。

 サンドラさんたちも立派な武器を持っていると思っていたけど、あの人の剣は、もう別物だ。綺麗だと思ってしまった。イザークやカカにも、あんな剣を持たせたい。しっかりした防具を持たせて、安全に・・・。矛盾している。でも、イザークたちが魔物と戦うのは辞めないだろう。イエーンを稼ぐには簡単な方法だ。売り先やギルドに騙されなければ・・・。

 はっ!
 あの人は、狩ってきた魔物を私たちに見せた。

 売り先があるの?

 イザークを見てから、あの人を見たら、視線がぶつかってしまった。

「考えはまとまったか?」

 あの人が、私を見て優しく話しかけてきた。びっくりする位、優しい声だ。
 そして、私たちの話を聞いていたから、まとまったと思ってくれたのだろう。

 私は、黙って、頷いた。

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 この少年たちは、騙されている。
 年齢的には、ギルドに登録してもいいはずなのに、していないようなので不思議に思っていた。

 確かに、あの代官が管理している領都のギルドも腐っていたかもしれない。イーリスに言って調査させる必要はあるだろう。

 少女の話が本当なら、今のギルドは腐っている。害悪だ。
 ある程度の実力があれば、問題はないだろうが、少女たちのやり取りを聞いていると、よそ者は弾かれる傾向にあるようだ。既得権益を守ろうと、団結しているように思える。これ以上は、情報がまとまってから考えればいい。
 帝国からの脱出を考えている状況では、ギルドのクリーンアップは必要な作業だ。

 イザークと呼ばれている少年と、カカと呼ばれている少年は、丁度いいかもしれない。
 カモだと思っていた子供たちが、力を付けたらどうなる?領主の館からの仕事を受けたら?

 少女も簡単な調合ならできるようだ。
 カリンとパーティを組ませるのに丁度いいかもしれない。

 カリンだけだと、どこまでも突っ込みそうだけど、守るべき者たちが居たら、行動も変わるだろう。

 少女の視線には、まだ俺を値踏みして警戒している雰囲気が含まれている。客先でよく感じていた視線だ。少年は、明らかに怯えているが、畏怖の対象になってしまっているようだ。このままだと、俺が懐かれてしまう。懐く対象は、カリンでないと計画が狂ってくる。

 そうか、武器と防具は、どこかで作らせないと手元にある物では、身体に合わないだろう。
 少年少女は、それでも嬉しいだろうけど、身体に合わない武器や防具は害悪だ。しっかりした物を持たせた方がいいだろう。それに、どうせギルドに囲まれている奴らは、少年少女には武器や防具を渡さないだろう。どこかで、アウトローな鍛冶屋でも見つけなければならない。

 少女が言っているババ様なら、アングラな者たちにも顔が利きそうだな。

 さて、この辺りかな?
 少女を見つめていると、俺を見てきた。

 視線がしっかりと、俺を見つめている。まだ、思考は完全にまとまっていないようだが、覚悟は決まったようだな。

「考えはまとまったか?」

 少女は、少しだけ吃驚した表情を浮かべたが、俺にしっかりと視線を合わせてから、頷いた。

 さて、どんな答えが聞けるか、楽しみだ。

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