第12話『いくぜ!スキルマックスマキシマム!』2/2
「あれ? 思ったより小さいな……」
「ええ。みなさん初めてみる時は、そのようにおっしゃいます。濃縮した分、小さくなってしまうんですよ」
「そっかー。こんなにも小さくなるんだな。ゴールドはここに?」
俺は魔石を確認して、ゴールドの詰まった袋を置く。
ちょうど、ついたてでやりとりが見えなく、配慮されているのでありがたい。
「はい。これから確認します。魔力量で計算していると考えおきください。そのため、個数は不確かでございます。四級千個分は、魔力量が決まっていますので総合計でございます」
手渡された懐中電灯のような魔力計測器を当てると、規定の魔力量になっているのが目視で確認できた。
「確認できた。問題ない」
「こちらも確認できました。これで取引成立です。ありがとうございました」
「こちらこそ。助かったぜ」
「はい。またのご利用をお待ちしております」
俺は魔法袋にしまうと、モグーを携え急ぎ宿に戻った。
何はともあれ、魔法のテントを今すぐにも作成するためだった。
宿に着くと部屋でさっそく袋を出す。
モグーは楽しそうにこちらを見上げる。
「ねね。これから作るの?」
「ああ、いよいよ魔法のテントを作成だ。魔石を利用するのは初だな」
「魔石って、どのぐらいいるんだろうね?」
「俺もそれが気がかりなんだよな。まずはやってみるか」
「うん!」
一樹はさっそくコンパネから、作成可能品目を選択し、指を『魔法のテント』の名称の上で押して見た。
すると、大人の顔の大きさほどの真っ暗闇な穴のような物が現れた。空中に垂直に現れると、ポッカリ口を開けたまま何か待っている様子だ。
恐る恐る魔石の入った袋から一個取り出し放り込んでみるも、コンパネに表示されているステータスバーのような物は微動だにしない。
そのまま続けて大雑把に放り込んでいくと、少しずつステータスバーが伸びていき、ちょうど丸々一袋入れ終わる直前に目盛りがいっぱいになる。
今回の物で、得体の知れない奴の魔石で半分。残り半分は、四級を千個必要なことがわかった。となると、他も尋常でない数の魔石がいるんだろうなと思い少し身震いする。
あのダンジョンで遭遇した奴の魔石は、四級千個分の物だったんだとあらためて驚かされる。
そのような思いはさておき、目の前のことに集中だ。
目の前には「作成」と「キャンセル」のボタンがあり、「キャンセル」をした場合、今まで入れた物が払い出しされる方法とストックされる方法を選択できるとある。さらに作成時に余分な分は、自動的にストックされるとある。
ストックされるなら残りもすべて放り込み「作成」を押下してみた。
作成時間が表示され残り十秒とある。
「あと少しでできるみたいだ」
「おおー。楽しみ。楽しみ」
一樹とモグーは、ワクワク感が止まらない。
何か電子音のような音が脳裏に響くと、目の前には拳大の大きさで、銀色をした円錐形の物が落ちていた。
拾い上げると使い方は脳裏に湧いて出てくるようで、任意の場所に置けばそこを起点にして出入り口ができるとある。さらに設置者以外に認識はできないし、触れることすらできない魔法的な代物だ。
「少し試してみるか」
部屋の中央に置き円錐の頂点に手をかざすと、真っ暗闇の空間が現れる。銀の円錐はどこかにいったのか見えなくなる。真っ暗闇の穴は、魔石を入れた空間の拡大版という感じだ。
一先ず手を差し入れてもとくに違和感はない。思い切って頭を突っ込み、中をみてみると想像以上の光景が広がっていた。
一旦頭を部屋へ戻し、思わずバンザイしたくなった。つまり大成功なわけで、ヤッターという気持ちで興奮冷めやらぬといったところだ。
一樹の一連の行動を見て、期待がこもった目でモグーは一樹をみる。
「ねね? どう?」
「モグーも一緒に入ろうぜ! みた方が早い」
「うん!」
拡張現実の視界からは、タッチパネルで入れたい者を選択できるようだ。
誰かを入れようとした場合、入場許諾は誰にするかと、名前が出ている。
当然ここには一樹とモグーしかいないため、モグーの名前しか表示がされていない。
モグーの名前を選ぶと、モグーもすぐに視認できるようだ。
「黒い物見えるか?」
「うん! 見えるよ!」
今度は体ごと足を踏み入れて、モグーと一緒にあらためて周囲を探索する。
視界の先に広がる光景は、凄まじいの一言だった。
なぜなら、どうみても二十畳以上の広さがあり、冷蔵庫のような物やキッチンとソファなど置いてあるのが見える。大型テレビ画面らしい物もあるのは何に使うのやら……。
奥にあるのは、トイレと風呂のような感じの物がある。なんなんだ、至れり尽くせりじゃないか。
ベッドも俺の元いた世界基準でも豪華に見える。なんと言っても真っ白なマットレスを三段重ねもしてキングサイズときた。
何がどうやって現代風になったのか、理由はわからないけど現実は豪華の一言に尽きる。
出入りだけは重要で、もしやと思い大型モニターの電源らしき物に触れると、宿の俺のいる部屋が映し出された。
つまり、出入り口の監視モニター付きとなるわけだ。どうやって見ているのかは知る由もない。
視界に見えるタッチパネルで説明を読んでいくと、使い方の説明が出ている。
「部屋自体の維持には何もいらなくて、設備を使うには魔石が必要になるのか……」
「一樹! これすごいね」
モグーはベッドで飛び跳ね遊んでいる。この部屋には、ベッドが二個備え付けられていた。
それにしてもと、一樹はこれからのことを考えていた。
種族とJOBレベルが上がるほど、まるで別世界へ足を踏み入れたような感覚になる。
単に作成範囲が広がるからに尽きるし、膂力や体力も大幅に上昇して行くからだろう。
他に、一樹はもう一つ確信していることがあった。現代的な武器の作成が可能になっていくことだ。
何を基準にしているのか不明で、さらに高度なSF的な武装がでてくのかまではわからない。一樹の想像に及ぶ範囲だとすれば、まだまだ高度なものが出てきそうと考えていた。
変わり種として製作可能一覧に、実は最強そうな武器名も現れはじめた。名は「シャイニング・チェーンソー」だ。幾多もの刃が繋がりチェーン状になっているものだ。魔力が続く限り回転して、触れた相手を切り刻む。
なんだ? 無敵街道へまっしぐらかと思ってしまうほどに、作れるものが目覚ましい。
ところが今の『調子アゲアゲ君』の状態は、束の間の偽物の勝利であるとは知らずに、一樹は一覧を見てほくそ笑む。